第三十四話 最強の魔王、○○○○に目覚める


 ――アデル視点――


 ふふふ……。

 この人間共、よくもまぁ夢可さんに対して好き勝手やってくれたものだな。

 何より、自分の妻にするだと?


 許せる訳がない、ああ、許せる訳がない!

 これは嫉妬だ。

 独占欲だ。

 醜い感情だ。

 だが、この感情に勢いを任せよう。

 ……殺さないように手加減をしつつな。


「まずスーツの男達を倒したら、次は貴様の番だ。首を洗って待っているがいい」


「っ! ……はん! この二人はな、元傭兵だったんだよ! お前みたいな優男が勝てるわけがないんだよ!」


「ふむ、傭兵か。ま、私にあまり関係ないがな」


 こっちは現役魔王で、最強の勇者と時折やりあっている。

 たかが傭兵如きに、私を止められるはずがないだろう。

 まぁ、この男の余興に付き合ってやろう。


 その後に、地獄を見せてやろう。







 ――夢可視点――


 アデル、大丈夫なの?

 相手は元傭兵とか言ってたけど……。

 私を助けてくれた時もあっさりだったけど、それは相手が不良だったからであって……。

 傭兵ってあれでしょ? 戦争のプロでしょ?

 いくら強いからって、無理だ!


「アデル! 私の事はいいから、逃げて!」


 私は、こいつが傷付くの見たくない!

 なら逃げてほしい。

 でも、こいつは首を横に振った。


「大丈夫ですよ。この人達、そんな強くないんで」


「……あ?」


 あぁぁぁぁ、元傭兵さんが怒り始めた!

 あ、手に持った警棒みたいな奴をアデルに降り下ろしてる!

 でも、余裕そうにアデルは素手でふわっと受け止めた。

 直後、警棒にあったボタンを押すと、バチバチって音がした。


「あばばばばばばばばばばばばばばば」


「あ、アデル!」


 電流?

 恐らく電流が流れるのか?

 アデルが電流をモロに受けてしまった!

 そんな……。


「だだだだだだだ大丈夫ぶぶぶぶぶででですよよ、いいいいい意外とととと痛くくくくくななないでででですすすす」


「嘘だよね、それ!?」


 体が震えているから、声まで震えている。

 絶対大丈夫じゃないって!

 でも、気絶しないし、表情は余裕そう。


「ば、バカな!? スタンガンと同じ出力なのに、何故気絶しない!?」


 傭兵さんも驚いてるな……。


「……ふぅ。なかなか面白いおもちゃだった」


「「おもちゃじゃねぇよ!」」


 傭兵二人が同時に突っ込みを入れた。

 あの警棒をおもちゃって言っちゃうんだ、アデル。

 するとアデルはそのまま親戚の男へ向かって歩き出した。

 まるで、あの二人は眼中にないみたいに。


 もちろん、二人が黙って通す訳がない。


「貴様! 舐めやがって!」


「通さないぞ!!」


「じゃあ、眠っているがいい」


 瞬間的に、アデルの両腕が消えた。

 と思ったら、両腕はしっかりあった。

 えっ、何があった?

 そしてアデルは何事もなかったかのように、また歩き出した。

 傭兵二人は立ち止まったままだ……と思ったら、前のめりで白目を向いて倒れた。

 あの腕が消えた瞬間に、二人に攻撃してたのか!?


「さて、邪魔者はいなくなったな」


「ひ、ひぃ」


 今アデルは親戚の男の前まで来ていた。

 ……親戚の男って言いにくいから、ゲスな性格だからゲス男でいいかな。

 ゲス男は怖がって、尻餅付いている。

 私もアデルの後を追って、今隣にいる。


「では貴様には地獄を見てもらいたいのだが……そうだな。とりあえず指を一本ずつへし折るか」


「「ちょっ!?」」


 私とゲス男はびっくりしてしまった。

 意外と物騒な事をやろうとしていた。

 こいつ、何気に容赦ないな!


「それじゃダメですか?」


 私に聞いてくるアデル。

 いや、私に聞くなよ。


「ん~。なら、指の爪を一枚一枚剥いでいくのは?」


「もっとダメだろ、それ!」


 ダメだ、何か相当怒ってる。

 私の事で怒ってくれているのはわかってる。不謹慎ながら嬉しいし。

 でも、物騒すぎるって!


「アデル、ここからは私が話すよ」


「……夢可さんがそう仰るなら」


 とりあえず今後このゲス男には、私の人生に関わってほしくないな。

 なら、脅しておくかな。


「わかったろ? 私にはとっても頼りになる男がいるんだ」


 私はアデルの腕に抱き付く。

 アデルがちょっとびくっとする。


「もし今後私の目の前に現れてみな? ……今日より酷い目に合わせるから」


 アデルがね。

 でもこのゲス男もアデルの怖さがわかったみたいで、無言でしきりに首を縦に降っていた。

 まぁ怖い事言ってるからね、そりゃ怯えちゃうのもわかる。


「さぁ、私の前からさっさと消えな!」


「は、はいぃぃっ!!」


 ゲス男はそそくさと逃げていった。

 逃げ足はかなり速い。

 さっさと人混みの中に紛れて、姿を消した。


 これで、静かに暮らせるかなぁ。

 いや、家がなくなったから、今日は何処かに泊まってアパートを探さないといけない。

 面倒だけど、今の私なら先へ進める。

 全て、アデルのおかげだな。


 私はアデルの腕にぎゅっと抱き付いたまま、お礼を言った。


「本当にありがとう、アデル!」


 






 ――アデル視点――


 な、何という事だ……。

 世の中に、こんなものがあったとは!


 この、この、腕の柔らかい感触は、今まで味わった事がないぞ!!


 これが……胸の感触というものなのか!?


 あぁ、何故なのだ。

 何故ただの脂肪の塊が、こんなに私を魅了するのだ?

 

 くっ、落ち着け!

 私は最強の魔王だぞ!

 アタルさんみたいにあんな情けない顔になる訳にはいかない!!


 しかし、アタルさんがあんな顔になるのも、あんなに夢中になるのもわかる気がした。

 これは雄を惑わせる、麻薬に近い程魅力的な感触だ。

 口には言わない。だが、心の中で叫ばせていただこう。


「素晴らしい、エクセレント! 最高だ!!」


「ど、どうした、アデル?」


 しまった、口で叫んでしまった。

 夢可さんに情けないと思われたくない!

 平然を装っていなくては……!


「いえ、先程の夢可さんが見事だったなと思いまして……」


「そ、そうかな……。逆にあんたをダシに使って悪かったよ」


「大丈夫ですよ、それ位大した事ないですよ」


「ん……。本当ありがとうな」


 夢可さん、さらに強く抱き付いてくる。

 おおおおっ、夢可さんの凶器がさらに押し付けられる!!

 不味いぞ、理性が飛びそうだ。

 くそっ!

 何という武器だ!

 ハニートラップという言葉があるようだが、これは本当に協力な罠だ……!


 すると、夢可さんが私の腕から離れた。

 ……くそっ、何でこんなに私は残念に思っている!!

 それほど私はスケベだったのか!!


 ……私はテンションを下げながら、彼女と共に渋谷駅まで向かった。


 ……本当に、本当に残念だ。

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