第十九話 エピローグ1 由加理の変化
――由加理視点――
あっくんとアデルさんが帰って翌日になった。
アタシは今高校に通学中。
あぁ、なんて素晴らしい日なんだろう!
諦めかけていたあっくんが戻ってきたし、アタシの初恋も……。
えへっ、えへへへへへへへへ♪
昨日は巨大掲示板に立てたアタシのスレッドを完結させる為に、最後の交流をしていた。
まずあっくんが見つかった事、告白して両思いになった事、また会えるのは一ヶ月後である事。
異世界の話は一切出さずに報告した。
……その報告だけで三十分でpartが3も進んで、読むのが大変だった。
最後に再会できた目的は果たせたので、このスレッドには来ない旨を伝えた。
皆からは残念がられたんだけど、探す必要がないからという事で納得してもらえたみたい。
皆から「役に立たなくてごめんね」なんて言われたけど、そんな事ない。
諦めかけていたアタシの心を、奮い立たせてくれていたのもこのスレッドのおかげなの。
だから、感謝の気持ちを込めて、終わりを宣言したの。
結構長い付き合いだったから、心にぽっかり穴が空いた気分だけど、アタシも前に進まないといけない。
あっくんもアタシと同じ大学を受けると言ってくれて、きっと異世界で勉強しているはず。
アタシが府抜けてちゃいけないんだ。
(勉強も、恋も頑張るぞ!)
アタシが上機嫌で歩いていると、後ろから声がかかった。
「ねぇ由加理、今日のあんた……すっごい変よ?」
振り返ってみると、そこには高校で出来た友達の和恵ちゃんがいた。
黒髪のショートカット、まさにボーイッシュな感じの女の子。
でもバレー部のエース兼キャプテンで、身長が高いの。
女の子にモテモテなんだよね、和恵ちゃん。本人にとっては悩みの種みたいだけど。
そんな彼女は最後の大会に向けて猛特訓中。そして、大学もスポーツ推薦を狙っているから、大会に全てを掛けている。
「えっ、アタシそんなに変?」
「変どころじゃないわよ。何スキップしてるのさ」
「スキップしてた?」
全くの無自覚、無意識だった。
あぁ、アタシあっくんと両思いになれて、相当浮かれてるわ。
「さあ、何があったか薄情しなさい」
「うあっ、ギブギブっ!!」
和恵ちゃんが腕でアタシの首を軽く絞めてきた。
ちょっと苦しいから、彼女の手をパンパンと叩いた。
「けほっ。……実はね、和恵ちゃん」
「うん」
「……彼氏、出来ちゃった♪」
だめだ、にやけ顔が止まんない。
――遠藤 和恵視点――
私は遠藤 和恵。高校三年生で、バレー部のキャプテンをしている。
今、私の目の前にいる可愛い親友が、爆弾発言をした。
「……彼氏、出来ちゃった♪」
両頬を手で覆い、にへらと笑いながら。
この安藤 由加理は非常にモテる。
そりゃそうよ、私が見てもすっごく可愛いんだから。
最初はちょっとふっくらしていたけど愛嬌があって、その時点でも人気があった。
それが、幼馴染みが行方不明になった途端、みるみる痩せていき、今の由加理が出来上がったわけ。
一言で言うなら、「ザ・清楚」だわ。
艶がある黒髪のセミロングストレート、スレンダーだけどくびれはあるし、確か胸はCカップあるって言ってたな。だからスタイルもいい。
足は細いんだけど、悩ましい曲線を描いていて、最近のモデルさんみたいに棒みたいな足じゃない。
これに振り向かない男は、中々いないでしょうね。
唯一の欠点としたら、幼馴染みが消えてから一切笑わなかった事かな。
おかげであだ名が「クールビューティ」だったしね。
仲良くなった私には笑ってくれたけど、頻度としては幼馴染みの事で不安になって泣く顔が圧倒的に多く、私がよく宥めていた。
そんな親友が、満面の笑みだ。
超まぶしいわ!!
こんな風に笑う子だったのね、この子。
周囲の男達も彼女の笑顔に釘付けだが、彼氏出来た発言で相当ショックを受けている。
そらそうだ、全ての告白を速攻切り捨てたクールビューティに、突然彼氏が出来たんだし。
まぁでも、話の流れで誰かわかった。
由加理が付き合うとしたら、行方不明の幼馴染み君しかいないしね。
とりあえず私は頭を撫でて、祝福した。
「おめでとう、幼馴染み君が戻ってきて、両思いになったんだね」
「えっ! 何であっくんだとわかったの?」
「あんたが付き合うとしたら、幼馴染み君しかいないでしょ! 簡単な推理よ」
「さすが和恵ちゃんだね! うん、あっくんと付き合い始めたの。えへへへへへ」
また顔が緩んでる。
でもまぁ、好きな人が生きてて嬉しいし、付き合えて嬉しいのダブルパンチだ。
嬉しくて仕方ないよね。
「そういやぁ私、幼馴染み君は一度入学式で見かけた以外は知らないんだよね。何か写真とかあったら是非見てみたいな」
「あっ、昨日プリクラ撮ったよ! 見てみる?」
「みるみる!」
私の記憶では、幼馴染み君は結構モヤシだったはず。
ひ弱な彼が、正直由加理に釣り合うとは思わないけど、やっぱり見てみたかった。
由加理はいそいそとスマホをバッグから取り出す。
あぁ、スマホに貼り付けたのね。
「はいっ、あっくんだよ!」
「どれどれ……?」
スマホの裏側に貼り付けてあるプリクラを見てみる。
すると、そこには――
「えっ、ちょっと待って。超イケメンじゃん!!」
つい大声で言っちゃった。
私も男っぽい成りをしているけど、女の子だ。
イケメン大好きだよ!
優しそうな顔の雰囲気はそのままなんだけど、顔がシャープになっている。
そして自信なさそうな表情だった幼馴染み君は、自信ありげでしかも爽やかな笑みを浮かべている。
体格も全然モヤシじゃないし、むしろ引き締まっていた。
鎖骨が超エロい!
これ、芸能人ですって言われてもおかしくないんですけど!?
うわぁぁ、私のタイプだわ。
「どうだった? あっくんは」
「いや、どうって……。あんたの彼氏は超イケメンだねとしか感想は出てこないわ」
「でしょ? でも、アタシが好きになったのは外見だけじゃなくて、中身も。心の芯は変わってなくて、安心したの」
「中身もイケメンかよ……。完璧じゃん」
「完璧どころか、人外なんだけどね……」
あれ、由加理が遠い目をし始めた。
どうしたのだろう?
すると、私達を取り囲むようにクラスの女子達がやってきた。
「ねぇねぇ安藤さん、さっきクラスの男子から聞いたんだけど彼氏出来たんだって?」
「しかも超イケメンなんでしょ!?」
「ねぇねぇ見たいな見たいな」
「よかったらその彼氏から良い男紹介してもらえないかな!?」
あっという間に七人位に取り囲まれた。
女子の恋愛に関する情報収集はとてつもなく早い。
早速由加理に取り入って、まず幼馴染み君の顔を見たかったんだろう。
もしイケメンだったら、その知り合いもイケメンだろうと推測し、さらに取り入ろうとする。
……私もちょっとそれを考えました、ごめんなさい。
「ちょ、そんな一斉に話されてもわからないから! 教室行ってからでいい!?」
さすがの由加理も大慌てだ。
そりゃクラスの女子達の形相はまさに必死だしね。
私達は足早に教室へ向かった。
――由加理視点――
「「「「はぁ……、超イケメンだわ」」」」
「あの、人の彼氏でうっとりしないでもらえる?」
今、クラスの女子達にアタシは取り囲まれている。
あっくんを見てみたかったんだよね、きっと。
でも皆あっくんの顔を見てうっとりし始めて、いらっときちゃった。
「安藤さん、これは普通に誰でもため息出るよ?」
「うんうん。超羨ましいんですけど!」
「ねぇ彼氏さんは実は芸能人じゃない?」
「それかモデルさんよね!」
「あぁ、あすなろ抱きいいなぁ」
あすなろ抱き?
……ああ、あっくんが背後か抱きついてくれているプリを見てるんだ。
そういえば、ドラマがきっかけにはやった抱き締め方なんだっけ。
しかしそのプリを見られるのはすっごく恥ずかしい!
「ええい、そろそろ返して!」
アタシは皆からスマホを奪い返した。
そして、ついついスマホ裏に貼ったプリを見る。
……あぁ、あっくん。大好き!
「えへへへへへへ」
「「「「うわぁ、浮かれてるわぁ」」」」
暑そうな素振りを見せて、やっと女子達は自分の席へと戻っていった。
そういえば、クラスの女子と話したの、何だかんだで初めてのような気がする。
今まで学校が終わったら、速攻家に帰ってたし、休憩時間も色々調べていたし。
そう考えると、この二年間は本当あっくんの事だけに時間を費やしたんだなって思う。
もう無事ってのがわかったから、そんなに早く帰る必要はなくなった訳だ。
……今後は彼女達ともしっかり交流しようかな。
そういえば、普段元気な男子達が軒並み元気がない。むしろ落ち込んでる?
どうしたんだろう。
「ねぇ和恵ちゃん、何で男子達元気ないの?」
「……あんたが原因でしょ」
……何となくそうかなって思ったけどやっぱりかぁ。
自惚れに聞こえるかもしれないけど、アタシは相当モテるみたい。
二年間で告白された数は四十は越えている。
まぁあっくん以外興味ないので、ばっさり断らせていただきましたが。
元からアタシに付け入る隙はないんだから、そこまで露骨に落ち込まなくても……。
「でも私からしたら、もう由加理が泣かなくて済むんだなって思うと、安心したわ」
「うん、色々迷惑かけてごめんね?」
「平気よ。でも代わりに、後で勉強を教えてくれると嬉しいなぁ」
「アタシで良ければもちろん!」
アタシは教室の窓から外の空を見る。
きっとあっくんは、異世界でまた血を流しているかもしれない。
……いやぁ、あっくんは傷負わないでしょ、あれ。
でも戦いに身を置いてるんだろうな。
きっとアタシにはわからない世界なんだろうけど。
それに戦いだから、やっぱり何が起こるかわからない。
だから、本当に無事に帰ってきてほしい。
(帰ってきたら、口にちゅーしたいから……)
アタシのファーストキスを、約束通りに貴方にあげたいから。
アタシもこっちで、精一杯頑張るから。
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