二人の最強による、日本観光記

ふぁいぶ

第一章 渋谷観光編

第一話 最強の二人

 ここは異世界、《リューンハルト》。

 この世界は大陸が二つしかない、珍しい異世界。

 それ故か、今は戦乱真っ只中であった。


 リューンハルト上部に位置する《グエン大陸》は、人間や亜人が支配している大陸だ。人間と亜人は体内に流れる活力エネルギーである《気》を用いた特殊な技法を以て戦闘技術を発展させている。

 そして海を挟んで下部に位置する《ドーン大陸》、こちらは《魔力》と呼ばれる障気を操り、血肉を主食とする、見た目怪物な《魔族》が支配していた。

 どちらも普通の動物とは逸脱した知恵を持ち合わせている生物、愚かな争いが大好きである事は変わりない。


 最初に人間側がドーン大陸に攻め込んだ。理由は簡単、自分達がドーン大陸を支配して、さらなる領地の拡大を図ったのだ。

 そして魔族が攻め込んだ人間に対して抵抗、退いたのち、人間を敵と認識して滅ぼそうと真っ向対抗。

 よくある異世界戦争に突入したのである。


 しかし、この戦争は圧倒的にグエン大陸側が不利だった。

 ドーン大陸を治めている魔族には魔王がいた。

 この魔王は力で魔族全員をねじ伏せまとめあげ、まさに魔族の王に相応しい血気盛んな人物である。

 まさに彼だけでも一騎当千の力を持ち合わせていたので戦況は最悪だったのだが、さらに最悪な事態に陥った。

 途中で魔王が世代交代したのだ。しかも、前魔王より遥かに強く、頭脳明晰で狡猾。戦場では、力任せ一辺倒だった魔族からは想像出来ない程統率され、まさに知将でもある。まだ力任せだけの脳筋なら対応出来たのに、付け入る隙がなくなってしまったのだ。

 彼の名は、最強の魔王、《アデル》という。


 戦況的に追い込まれた人間は、禁術である《勇者召喚》を行った。

 異世界から人間を召喚すると、何故かとてつもない力を秘めて現れる。術者の命を代償に、だが。

 そうして召喚された今回の勇者は、過去に現れた勇者を遥かに越えており、一度見ただけでその武術をマスターできるというスキル、《武の頂点》というブッ飛んだチートスキルを携えていた。


 歴代最強の勇者は、あらゆる剣技をマスターしただけでなく、アレンジを加えて《絶剣》という流派を編み出した。

 あらゆる敵を一撃必殺、その剣は神速の域であり、まさに武の頂点に君臨した。

 さらに、女神の祝福を受けており、《絶剣 ライトブリンガー》を授けられてからは魔族すらも瞬殺出来てしまう程の存在となった。

 この勇者こそ、一騎当千という言葉が相応しい位の戦果を挙げている。事実、人間側の戦死者の数が激減したのは、彼が先陣を切って敵をなぎ倒しているからだ。

 彼の名は、最強の勇者、《アタル タチバナ》という。



 この二人が歴史の表舞台に登場した事により、戦況は拮抗してしまい、より混沌とした世界情勢になる。


 そして、二人が歴史上初めての対面が、両勢力が見守る中行われた。


「ほう、貴様が最強の勇者アタルか。だが所詮人間、虫けらのように踏み潰してくれる」


「お前が最強の魔王か! 我が《絶剣》を以て、この悲しみ溢れる戦いを終わらせる!」


「ふふっ、やってみろ」


「ああっ、やってやるさ!」


 二人の最強が一瞬姿を消して距離を一瞬で詰め、アデルが魔力で生成した魔力の刃とアタルのライトブリンガーがぶつかり合った瞬間、とてつもない衝撃波が走る。

 聞こえる悲鳴は二人からではなく、両陣営からだった。

 衝撃波で吹き飛ばされる人間の兵士や、魔族の兵士は大多数。両陣営は被害が出ない位置まで避難した。

 所々でクレーターや斬撃による大地の亀裂が無数にでき、付近の木々は無惨に折れている。

 こんなただ斬り合うだけで環境破壊が発生しているレベルの戦いを、二日間寝ずに行っていたのだ。

 この時の戦闘は、両者が体力が尽きて倒れ込んでしまった事により、そのままこの時の戦は終了となった。

 リューンハルトの歴史上、壮絶と言える最強同士の初の戦闘はドローで終わったのだった。


 しかし、この遭遇には実は、裏があったのだ。









「「かんぱーーーーーーい!!」」


 赤ワインが注がれている、お互いが持っている銀の杯を軽くぶつけ合い、心地よい金属音を響かせる。


「いやぁ、アデルさん! とっても魔王感が出てて格好よかったよ!!」


「いやいや、アタルさんこそ『これぞ勇者!』って感じで、物語の主人公みたいでしたよ!」


 二人の最強は、敵同士になる前から親友の間柄だったのだ。

 肩を組み合い、どちらも死ぬ事なく交友を深められる。


 この二日間の激戦も、二人が練りに練った茶番だったのである。


「これでしばらくは大きな戦闘もないだろうなぁ」


「そうですね、私も魔術の研究に没頭できますよ」


 肩を組んだまま、二人共嬉しそうに笑い、アタルは自分の世界の話をアデルに聞かせ、アデルは今研究している魔術の成果を自慢する。

 この世界で唯一気が許せる相手との交友は、夜が開けるまで続いた。

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