渓谷の覇者
Josh Lemon
第1話 渓谷の覇者
夜明け。濃い青の下に淡い桃色がゆっくりと広がり、太陽が顔を出す。ゴツゴツとした山肌に差し込んだ、柔らかい光。
光に照らされ徐々に姿を現したのは、山に囲われた細長い草原。
ゼーレ渓谷。この地域を民はそう呼ぶ。
谷間には澄んだ水を湛えた河が流れており、ゼーレの民はここから水を採る。
そして河の中流には、石造りの巨大な城がそびえている。
城下町を区切る塀に囲まれたその姿は、まるで要塞。
城下町の中には(辺境ゆえか)あまり民はいないが、山に囲まれ敵が攻め入りにくい為、第一国王はここを国の中枢に定めた。
「……いや、この国馬鹿なんじゃないの!?」
本棚に囲まれて座っている豪華な身なりの人物は、読んでいた分厚い参考書をぶん投げ、そう言った。
「なんと……!!王位継承者であるあなたがそんな行動をしてはなりません!!」
慌てて執事が本を受け止め、周りの本をぶん投げようとする継承者を止めに入るが、そんなのお構いなしというふうに継承者はツッコミ続ける。
「ゼーレは魔物つおいしそんなに物資無いし良い所ないよね!?あっても景色ぐらいだよ!?
僕だったら魔物の勢力が弱い平原か物資が豊富な森に中枢置くけど!?
御先祖さまなにやっちゃってんの!?」
「ちょっ……おまっ……!?……いけません!」
もはやツッコミのし過ぎでパニックになっている継承者を力ずくで抑えると執事はこう言った。
「いつもは大人しく本を読んで下さるのに何故……」
「ベンキョウ……ヤダ……ヤリタクナイ……」
「第一王位継承者がこれで大丈夫なのか……」
執事は時計に目をやると、そそくさと本を片付けた。
継承者は書斎机の椅子に座り、口笛を吹きながら竜族の本を読んでいた。
扉がノックされ、書斎にメイドが入ってくる。
「夕食のお時間です」
「ありがとう」
メイドについていく形で継承者は書斎から去った。
継承者に置いていかれた若き執事は、大きな窓から差し込む月明かりに照らされ、1人、あっけに取られていた。
(おいてかれた……(白目))
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