沈黙の霧珍道中?

御氏 神音

〜調律の巫女一行旅行記・弐〜

第1話 〜ここはどこ?〜

ナレーション:

     沈黙の霧──想区の外に広がる果てしない霧。

     ストーリーテラーによって語られることのない、

     想区と想区の隙間の世界であり、

     温度も、匂いも、音も、存在し得ない、

     ストーリーテラーの力さえも及ばない世界。

     想区の住民達は他の想区の存在と同様に、

     沈黙の霧の存在も知らない。

     もし迷い込んでしまうと、

     一部の例外を除いて霧の中を彷徨い続け、

     やがて死を迎えると言う。


ナレーション?:

     その例外のはずの者、

     調律の巫女一行は何故かまた性懲りもなく迷っていた。

     美味しいご飯の匂いに釣られ、

     沈黙の霧の中を進んでいたレイナ達一行は、

     何をどう血迷ったのか上を下への大混乱。

     今回はちゃんと食料足りるのか?

     目指す想区はどっちだ!?

     次回、霧にまみれて。

     見てくれないと、調律しちゃうぞ♡ ムフフ


 レイナ:「シェイン、よくもまぁそう毎回ネタが続くわね……。

      言っとくけど、今回は迷ってなんかないからね!」


 ファム:「まーまー、いつものことじゃない。

      それにしても湿気が多くてたまんないね〜。

      ゆっくり汗でも流したいな〜」


 レイナ:「霧の中に居るんだからしょうがないでしょ?」


 エクス:「でもさ、今のところカオステラーの気配はないんだよね?

      ここ最近ずっと忙しかったしさ、

      たまにはのんびりするのもいいんじゃないかな?」


  タオ:「そんじゃとりあえず飯にでもすっか!」


シェイン:「今日のご飯当番は新入りさんですね」


 エクス:「今日も、でしょ……」


シェイン:「文句言わないで下さい。勝負に負けたのがいけないんですから」


 エクス:「あれは勝負っていうのかなー」


 ファム:「はいは〜い、分かったからさっさと取り掛かっちゃいなさ〜い」


 レイナ:「今日はサッパリとしたものが食べたいわね」


  タオ:「おっ、いいなそれ!

      確か箱庭の池でトマト冷やしてあっただろ?

      あれ使って何か作ってくれよ」


 エクス:「しょうがないなぁ、もう……」



ナレーション:

     僕は渋々料理の準備をはじめた。

     最初の頃はみんな交代で食事の準備をしてたんだけど、

     最近では当番を掛けたじゃんけんとか木登りとか

     駆けっことか影踏みとかあの手この手で勝負を挑まれ、

     多い時で一日二食は僕が作っている。


ナレーション:

     ちなみに食べるのは得意だけど、

     料理の腕がからっきしなレイナは満場一致でシード扱い。

     月に一度あるかないかと言う感じで、

     ほとんどそのまま食べられる物を切って出すだけという特別待遇だ。

     僕も料理自体は別に嫌いでもないけど、

     こう立て続けにやってると、

     いい加減レパートリーにも限界が来るってもの。


ナレーション:

     レイナに箱庭の王国を開けてもらい、

     食料庫へ向かいながら献立を何にするか無い知恵を絞り出す。

     池で冷やしてるトマトを使って、

     リクエストのあったサッパリとしたメニューとなると、

     やっぱりあれしか無いかな……?


ナレーション:

     燻製ベーコンとパスタと塩コショウ、

     それとオリーブオイルとチーズ、

     それからマッシュルームとにんにくをチョイス。

     鍋と食器も用意して籠に入れていると、

     箱庭の妖精が冷たい水ごとトマトを入れたバケツを持ってきてくれた。


 エクス:「ありがとう。また今度かわいい帽子を見つけたら買ってくるね」


ナレーション:

     妖精たちはニコリとすると、フヨフヨと漂いながらお城に帰っていった。

     これでよし。

     箱庭から出るとタオ達が薪をくべて焚き火の準備をはじめていた。


ナレーション:

     僕が料理をする間、みんなは思い思いの時間を過ごす。

     武器の手入れや談笑する声を聞きながら、

     僕は腕まくりして料理の下ごしらえをしていた。


 エクス:「……?」


ナレーション:

     何か聞こえた気がして顔を上げるが、別に僕に話しかけた風でもない。


 エクス:「ねえ、何か聞こえない?」


  タオ:「どうした坊主? お嬢の腹の虫でも聞こえたか?」


 レイナ:「失礼ね! まぁ確かにお腹は空いてるけど……」


シェイン:「シェインたちの話し声じゃないんですか?」


 ファム:「はは〜ん、さてはエクスくん、

      料理をサボる口実に適当なこと言ってるな〜♪」


 エクス:「そんなんじゃないよ! 空耳だったのかな……?」


ナレーション:

     何とも釈然としないものがあったけど料理再開。

     茹で上げたパスタを冷水で粗熱を取り、

     その間に下ごしらえしておいた材料を手早く炒める。

     細切りにした燻製ベーコンに軽く火を通し、

     油が出てきたところで半分に切ったマッシュルームを投入。

     香り付けのオリーブオイルを少々、塩コショウで味を整えて、

     味の決め手はスライスしたにんにくだ。

     仕上げにエメンタールをたっぷりかけて、

     用意した角切りトマトを半分ほど入れてよく混ぜる。

     ザルで水気を切ったパスタを器に盛り付けし、

     その上からベーコンとマッシュルームのチーズ炒めをかけて、

     最後に角切りトマトをトッピングすれば、トマトの冷製パスタの完成!


シェイン:「おー、新入りさんも随分オサンドンさんが板についてきましたね」


 エクス:「おかげさまでね」


 レイナ:「それじゃ、食べましょうか。いただき──」


 ???: ”──ロ──〜────”


  一同:「!?」


ナレーション:

     今度はちゃんとみんな聞こえたみたいだ。

     やっぱり空耳なんかじゃなかった。


  タオ:「どっから聞こえんだ?」


シェイン:「分かりません。こう霧が深くちゃ見当もつかないです」


 レイナ:「誰か迷ってるんじゃないかしら?」


 ファム:「それはまずいね〜。ここで迷ったら死んじゃうよ?」


ナレーション:

     声はさほど遠くないところから聞こえてくるけど、

     シェインの言うように位置が掴みにくい。


 ???: ”ローラ〜! どこなのぉ〜、ていうかここどこ〜〜!?”


 エクス:「タオ、あそこ!」


ナレーション:

     僕とタオが焚き火から薪を抜き取り、大きく振って合図を送る。


  タオ:「おーい! そこの人ー、大丈夫かー?」


 ???:「!? よかった〜人がいた〜〜」


 レイナ:「ちょっとあの人、もしかして」


 エクス:「いやいや……想区から出てきちゃまずいでしょ。

      死にはしないと思うけど」


  タオ:「だな」


シェイン:「あちゃ〜〜、なんか面倒なことになる予感がします」


ナレーション:

     僕達に気づいて霧の中を走ってきたのは、

     誰在ろう女吸血鬼のカーミラであった。

     余計な同伴者を連れて……

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