　医者の仕事は、しかしヤリガイだけはある。

　ヤリガイというとバカにされそうなものだが、聞いてほしい。

　俺は、どんな屑でも医療行為を行える時点で価値があると思っている。

　というのも。自分の生きた１日で、命を１０人分助けたとしよう。その人たちが２０年ずつ寿命が延びたとしよう。

　するとどうだろう。自分のたった１日で、１０人×２０年＝２００年分の人類の寿命を延ばしたことになる。圧倒的じゃないか？

　つまりね。『自分の命に価値があるかどうかはわからない』けど。『価値があるとされている他人の命を伸ばせたってことは、価値がある』。価値がある他人の命を救える自分は価値があるって確信できるわけだ。

　もちろん、『他人だろうが、人間の生きる価値なんて無いよ』ということになれば俺の労働は無意味だけど。もしそういうことになるとすれば、『元から努力しても無駄だったんだから、努力してもしなくても変わらない』ので、『人間には生きる価値があることに賭けて、医者の仕事をします』ということになる。

　少なくとも、俺はそういう意識で医者としての仕事をしているけど、どうなんだろうね。

　治療を受けて、「ありがとうございました」と言ってくれる患者さんやその家族の言葉は、嘘は無いと俺は思ってるんだけど。

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