第5話 救助作戦

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     藤原美咲のターン



登場人物 藤原美咲中尉 23歳 

     首都圏第二治安維持軍諜報3課 緊急要撃部隊指揮官

     138士族の部下の家系で華族出身



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2119年4月2日 午前10時07分



 兵学校各所で制圧作戦を実行していた兵員装甲輸送車が、次々と藤原美咲中尉の前に集結してきた。

 10台の装甲輸送車と100名の治安維持軍武装兵が、美咲に向かって敬礼した。

 兵員輸送車の脇には、兵学校教職員全員が並んでいる。

 重防弾服を装着した完全武装兵100名と、55口径重機関銃を搭載した兵員装甲輸送車10台と最新型戦闘指揮車1台という、城塞都市でも強力な緊急要撃部隊を、藤原美咲は指揮していた。

 その火力と戦闘力・防御力は、正規国防軍1個大隊を簡単に撃破できると豪語される対人制圧部隊であった。

 直立不動で兵学校関係者が並ぶ中、首都圏第二治安維持軍諜報3課藤原中尉の前に武装兵が報告に訪れた。

「逮捕拘束者二名及び兵員の搭乗完了いたしました」

「よし、撤収する」

 部下に敬礼すると、美咲は兵学校教職員たちに向き直った。

「諸君の処罰などは後ほど連絡する。治安部の指示に従わない者がどうなるか、よく考えることだ」

「・・・・・・・」

 教職員などの兵学校関係者は、全員が美咲の言葉に頭を深々と下げている。

 誰も顔をあげて反論しないところが、思想教育が行き届いた成果ともいえる光景であり、城塞内優等市民である証拠であった。

 本来、この教職員たちに落ち度は無い。しかし、命令の出所があまりにも高いところから直接出ていたことが、彼等の不運だった。

 教職員たちの処罰は上が考えることだが、このままでは全員が自由市民に堕とされることは間違いない。そうなれば、大半は数日もたたずゾンビになる運命だ。

 しかし、騒動の根源である古代中尉の「あまり騒ぎを大きくしても面倒だから」という言葉を報告すれば、厳重注意程度で許されるであろうと美咲は考えていた。

 正式な処分が決定するまで、彼等も生きた心地がしないだろうが、それも治安維持軍の出動という事態を招いた代償だと思えば安い物だとも思えた。

 特殊戦闘指揮車に乗り込み奥の席に腰を下ろし、美咲はようやく肩が軽くなった。なんとか無事に乗り切れたと安堵感が、ジワリとわいてきた。

 人類には抵抗不可能と考えられていたレベル3のバンパイアをいとも簡単に撃破してみせた国防軍戦闘集団との、初めての接触だった。

 敵対していた憲兵軍ヨコスカ司令部壊滅事件などの数々の戦闘経歴を考えると、関わり合いになりたくないというのが本音だった。

 指揮官の古代中尉が子供だというウワサは聞いていたものの、本人と対面して面食らったのも確かだ。

 少し気持ちがゆるんでいたところで、最後に乗り込んできた護衛兵の一人が着座するなり美咲に質問してきた。

「中尉殿、先ほどの若造。あのような態度を許してしまってよろしかったのですか?」

 生徒会室に突入した兵士の一人だった。

「・・・・・・・・」

 プライドだけは一人前の若者は、興奮しきった声で続けた。

「我ら治安維持軍と前線部隊では格が違います。それを・・・・」

「お前はバカか?」

 美咲が不機嫌そうに眉をひそめて呟くと、それまで興奮して喋っていた兵士の顔が一瞬で強ばった。

 若い兵士と並んで座った古参兵の口元には笑みが浮かんでいる。現実を知る者と、そうでない者がこの城塞都市には居るのだが、この世界の真実を知る者は少なかった。

 この場合、若い兵士たちは思想教育の影響もあって、自分たち華族が世界で一番偉いと勘違いしてしまうのも無理はなかった。

「あの中尉は、我が総帥と直接話せる存在なのだぞ。そんな人物に、私ごときが何を言えるというのだ?」

 この出動が「総帥」絡みと知り、戦闘指揮車に乗った兵士全員の表情が硬直した。

「そ、総帥は、なぜ、あのようなやからを引き立てるのでありましょうか?」

 そう言ったのは、最初に質問してきた若い兵士だった。

「やからか・・・・」

 美咲は片手を振って、部下の言葉を退けた。

 上の考える事など下っ端の中尉に分かるはずもなかった。

 エリート意識の塊であろう若い兵士にしても美咲にしても、世界をバンパイアから救った138士族の一人である「総帥」に、直接合ったことなどないのだ。

 バンパイア戦争最前線の情報は、美咲もかなりの部分把握していた。

 あのような「子供」であっても、元は国防軍特殊作戦軍遠隔指揮攻撃部隊を6歳から指揮してきた生まれながらの軍人だということは、かなり有名なウワサであった。

 仕入れた情報が本当なら、あの坊やは圧倒的なのだ。

 圧倒的であり、この腐ったおぞましい世界の真実に近づきつつある一人とも評されていた。

 バンパイアやゾンビから世界を救うなどという大仰なことを考えはしなかったが、せめてその可能性がある人物の邪魔はしたくなかった。

 戦闘指揮車が走り始めると、美咲は瞳を閉じて今回の報告書を頭で作成し始めた。しかし、走り始めてすぐに急ブレーキがかけられた。

「どうしたっ?」

 そう美咲が問い掛けると、モニター越しにドライバーが現れた。

「せっ、戦車ですっ!」

 興奮した口調でドライバーが告げると、ドライバー助手も興奮した声で報告した。

「戦車後方には、特殊戦闘車両も見えます」

 モニターの画面が兵学校正門を映し出した。

・・・まいったな・・・

 所属不明の重戦車が、正門前を塞いでいた。

 相手の正体は察しはつくのだが、それゆえに血の気が引く思いだった。

「全車に通達、絶対に動くなと伝えろ」

「ちゅっ、中尉殿」

 戦闘指揮車から降りようとした美咲を、古参兵が制止しようとした。

「いいこと、絶対に銃口を向けないでよ。どこかの憲兵軍みたいに、皆殺しになりたくはないでしょう?」

 そう言うと、古参兵は生唾をゴクリと飲み込んでうなずいた。

 美咲が戦闘指揮車から降りると、正門を通過した重戦車が目の前まで迫って停車した。

 戦車砲が、スーッと音もなく旋回し美咲の胸元に向けられた。

・・・こいつがウワサのパンツァーか?・・・

 数ヶ月前から諜報部でもウワサになっている戦車だと思われた。地球上で唯一、バンパイアの侵攻を阻んだ台湾国防軍から譲渡されたという最強の戦車。

 ウワサでは台湾国防軍総司令官から、古代中尉個人に渡された特別な戦車だ。

 そもそも、地上最強と呼ばれる台湾国防軍と14歳の古代中尉の関係さえ、諜報部では把握していなかった。ただ、台湾国防軍という後ろ盾があることも、古代中尉の部隊が憲兵軍などと揉め事を起こしても、逮捕されることがない理由の1つだと推測されていた。

 重戦車に続き、2輛の特殊戦闘車両が轟音をあげて正門から侵入してきた。

 ・・・外にも戦闘車両が待機してるのか? 戦車随伴歩兵戦闘車両とは、完全に対人戦闘モードだなこいつら・・・・・

 美咲たちの使っている兵員輸送車とはレベルの違う戦闘車両が、重戦車の左右に展開した。大口径37ミリ機関砲を備えた戦車随伴歩兵戦闘車両1輛でも、美咲率いる中隊に対抗することが可能だと思われた。

 歩兵戦闘車両が停車すると、後部ハッチからモデラーズ兵が自動小銃を構えて次々と車輌前面に展開した。

 身長170センチのモデラーズ兵は、少しダブダブの真っ白なワイシャツをワンピースのようにして着ていた。治安維持軍や前線に配備されているAクラスモデラーズ兵とは雰囲気が違っていた。

・・・こいつらSクラスか?・・・

 正門からも、ワイシャツにニーソックス姿のモデラーズ兵が次々と侵入して戦車前面に展開し、その銃口を治安維持軍中尉である美咲へと向けてきた。

・・・こ、こいつら、対人コントロールされてない?・・・

 モデラーズ兵に銃を向けられ、美咲は驚かずにはいられなかった。

 強力な戦力となるモデラーズ兵は、その能力を反乱などに悪用されないよう、クローン培養器育成段階からゾンビやバンパイア以外の人間には敵対しないように教え込まれているはずなのだ。

 モデラーズ兵の銃口が整然と綺麗に並び終えると、そのブロンドの人並みが割れた。

「あなたが責任者かしら?」

 どう見ても幼年学校高学年12歳程度にしか見えない、金髪碧眼の美少女が美咲の前に現れた。

 クールな表情のビアンカであった。

 ビアンカ、それは対バンパイア・ゾンビ戦闘用に開発されたデザイナーズチャイルドである。

 モデラーズ兵量産化により製造は中止されていたが、古代アキト中尉指揮する攻撃部隊の主力は、このビアンカと呼ばれる少女たちだと言われていた。

・・・いきなり、一番ヤバそうなのが出てきたの?・・・

 美少女のたたずまいには、妙な雰囲気があった。

 身長170センチのモデラーズ兵を従えた美少女の貌には、指揮官としての落ち着きと風格があった。

 あの古代アキト中尉とは、真逆の雰囲気である。

「首都圏第二治安維持軍諜報3課の藤原だ。古代中尉の要請で支援にやってきた」

 生徒会室で出会ったビアンカとは、少し雰囲気が違う少女はブロンドの髪を揺らして小首を傾げた。

「支援なのぉ・・・」

 紺のピッチリとした軍服にヒラヒラスカート姿の少女は腰に突撃銃をぶら下げ、美咲に冷めた視線を向けてきた。

 気づけば、戦車や戦闘歩兵車輌の上に10人以上のビアンカが現れて、美咲に銃口を向けている。

「そちらは、アキト中隊でよろしいのか?」

 とりあえず前に立ちはだかったビアンカの名前を知りたかった。

「え? そう、私はアキト中隊前線指揮兵のセシリアよ」

「そ、そうか・・・・」

・・・殲滅のセシリー・・・

 最悪だった。

 諜報部や軍上層部の人間で、このビアンカの名を知らない者は皆無だろう。

 足が震えていた。

 殲滅のセシリーは機嫌が悪そうに見えた。

 普段から、こんな不機嫌そうな表情なのか?

 人類史上、初めてレベル3のバンパイアを撃破したとウワサされるビアンカ中隊が目の前にいる。

 そもそも、レベル3撃破以前のウワサも耳を疑う話が多数存在している。話半分でも、危なすぎて近づきたくないというのが本音だ。

 何かを言わなければと気があせる。

 指揮官用の三次元モニターの警告アラームが真っ赤に点滅していた。目の前に展開している部隊とは別に、狙撃部隊にも狙われているということだ。

 合計35のアクティブレーザーが美咲をロックオンしている。これは単なる警告で、探知不可能な照準がこの倍はいるのだろう。

「我が隊は古代中尉の要請に応えてきたところだが」

 ゆっくりと息を吐きながら、静かな声で答えた。

 しかし、美咲のおびえを見透かすように、殲滅のセシリーは口元に笑みを浮かべ小首をかしげた。

「こういうのを自演っていうんじゃないのかしら?」

「こちらも、予想外のことで困惑している」

 本心が口から出た。兵学校校長が真面目に職務を遂行し、首席教官が校長への対抗心を見せなければ、古代中尉が総帥に文句など言わなかったはずだ。そうなっていれば、彼女もこうやって突撃銃や戦車砲に狙われることもなかった。

「そうなのかしらぁ? 何かいけないことでも企んでたんじゃないのぉ?」

「そ、それはない。総帥直々の指示で我々は動いている」

「あらぁ、総帥様に入学の件は直に依頼していたわよアキト。ここの兵学校の人達は、総帥様の指示なんて無視したという訳なのかしらぁ?」

「そ、その件に関しては古代中尉からも1つ貸しだと言われている。当方の不手際で迷惑をかけた」

「あらあらぁ、そうなのぉ?」

 殲滅のセシリーは、人を小馬鹿にしたような口調で言った。

 確かに、通常なら考えられないようなことが起こっている。

 総帥自らの命令が末端まで届かなかったということだが、この城塞都市では許されない過失であった。

 おそらく、兵学校校長や首席教官以外にも何人かが、今回の件で責任を問われて自由市民に追放されることだろう。

「ふーんっ・・・・そうなんだぁ・・・・・」

 少し怪しい目つきで少女は睨んでいる。嘘つき女は殺してしまいなさい、とでも言いそうな雰囲気だ。

 どう見ても納得してない表情だったが、このまま押し切るしかなかった。

「ご理解頂けたら、その戦車砲をどけてもらえると助かるのだが・・・・」

 刺激しないようにやんわりと言って、戦車砲を指さした。

 美咲が指さした重戦車のハッチから、鮮やかな桃色髪のビアンカが怒った顔で睨んでいる。

「ああ・・・この子ね」

 振り向いたセシリアが、そのピンク髪のビアンカに声をかけた。

「ねえ、リナ」

「ん? もう、撃ち殺していいにょ?」

「あら? こんなところで、そんなの撃っちゃだめよ」

「えっ? せっかくだから新型鉄鋼弾の試し打ちしたいにょ。この距離なら外さないにょ」

 まわりのビアンカよりさらに幼い感じのリナと呼ばれたビアンカが、その幼い美貌を動かすと、戦車砲もスッと動いて、美咲が乗っていた戦闘指揮車に向けられた。

「さっきは、ルナが邪魔で撃てなかったけど、いまならもれなく殲滅間違いないにょ」

 ピンクの髪の少女は真面目な顔で、恐ろしい会話をボロボロとこぼすようにはき出した。モデラーズにしてもビアンカにしても、基本はクローン兵だ。冗談など言うことは基本的にありえない。

 このピンク頭の少女は、戦車砲をぶっ放そうと本気で話している。

「だめよっ!」

「ちぇーっ・・・・」

 セシリーに駄目出しされて、リナと呼ばれたビアンカは子供が拗ねるように唇を尖らせた。

・・・子供か?・・・・これがあのリナ?ってことかしら・・・

 あのヨコスカ憲兵隊本部襲撃事件のビアンカ最終生産型タイプリナ。通り名みたいなものは数々あるが、美咲の頭に浮かんだのは「ヨコスカの悪夢」と「バンパイア殺し」であった。

「まあ、今日は挨拶ということにしておきます。今後兵を送り込む時は連絡してくださる?」

 戦車砲を撃たせろオーラを放つ少女を無視して、セシリアは真面目な顔で言った。

「い、いや、私たちは君のところの中尉に依頼されてだな・・」

 美咲の逃げの一手は、古代中尉に頼まれてという立場を強調したのだが。

「そんなの、三次元通信一本で命令すれば済むことでしょう? あなたって、ちょっとおバカさんなのかしら?」

 クローンごときに「お馬鹿さん」呼ばわりされても、美咲は何も言い返せなかった。

「そ、それは、確かに・・・・」

「次は、皆殺しにするかもよぉ。どこかの憲兵さんみたいになりたくないでしょう?」

 微笑みながら、恐ろしいことを言っている。

「了解だ。で、できれば、そちらの端末を教えてもらえれば助かる」

「まあっ、わたしとアドレスの交換をしたいの?」

 セシリアは碧眼の瞳を大きく見開いて嬉しそうに笑った。

「じゃあ、フレンドリー登録してあげるわね」

 取り出したお互いの端末から超短波接続で情報リンクを行う。

「友軍認定で喜ばないでね。わたし、味方殺しでも有名なのよ。うふふふっ」

 美咲から取得した端末データに視線を落として精査しつつ、セシリアは楽しげに笑っている。かなり大量のデータを抜き取られたみたいだった。

 ちなみに美咲が受け取ったデータは、セシリア直通緊急回線と表示されていて、緊急時以外使用禁止と表示されていた。

「・・・・・・・」

 どう見ても、ハメられた感満載だったが、かといって文句を言う気も起きなかった。

 諜報部の端末より圧倒的に性能の良い端末を使っているところからも、このアキト中隊の不気味さは増すばかりだった。



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  美山紫音のターン


登場人物 美山紫音 17歳 

  ワンガン戦術予備兵学校抜刀戦術科3年生。

  ワンガン戦術予備兵学校生徒会長。



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 治安維持軍中尉藤原美咲が兵学校正門で重戦車に行く手を阻まれていたその頃、美山紫音は生徒会長室で古代アキトと対面していた。


 応接用ソファーに少年とビアンカ5人が少し窮屈そうに座っている。

 厳密に言うと、三人掛けのソファーに古代中尉と4人の少女がギュウギュウに腰掛け、彼の膝に赤毛のビアンカが座って紫音を睨みつけていた。

「何であんたらここにいるの?」

 紫音の横に座った鬼月准尉が、ビアンカと呼ばれる少女たちに問い掛けた。

「もう、あがっていいって言われたでしょう?」

 何も言わずにくっついてきた小柄な美少女たちに、准尉が少し迷惑そうに言った。

「こいつ悪の巣窟のボスキャラだろ」

 古代中尉の膝に座った赤毛の少女が、紫音を睨みながら言った。どうも、この口の悪い子がリーダー格と思われた。

「・・・・・・」

 何も言わず柔らかな微笑みを浮かべたブロンドツインテールの美少女は、横に座った少年の身体に少し自分の身体を密着させた。

 明らかに、紫音や准尉の事など眼中に無い女の仕草だった。

「ただの護衛です。通常警戒任務中なのです」

 メガネをかけた茶髪の美少女が真面目な顔で言った。この5人の中で一番まともそうに見えるが、融通は利かなそうに見えた。

「ルナ、いざって時は何の役にもたたないだろう?」

 そう言ったのは、ツインテールビアンカの反対側に座った黒髪のビアンカだった。口の悪い2トップ?の片割れは、鬼月准尉にケンカを売るような視線を向けていたが、准尉はその言葉には反論せずに肩をすくめただけだった。

「このお湯、超苦っ・・・・ひゃあっ!」

 5人の中で少しだけ背が高く落ち着いた表情の銀髪ビアンカが、出されたお茶を口にして、すぐにひっくり返すという大技をやらかした。

 テーブルの上にお茶がひっくり返り、全員の視線が銀髪にヘルメットを装着した少女に注がれた。

「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!」

 みんなの視線に、銀髪ビアンカは慌てて謝罪しながら軍服の裾でテーブルを拭きだした。

 ビアンカと呼ばれる美少女たちが騒いでいる間も、古代アキト中尉は視線を少し下に向けたままだった。

 知らない場所で緊張しているとも考えられたが、治安維持軍中尉を軽くあしらったところを見ると、そんなことはないとも思える。

 しかし、どう見ても、気弱な中等部の男の子にしか見えない。そして、その男の子を説得しなければ、麻衣たち同級生はじきゾンビの餌食にされてしまう。

「生徒会長、この子たちは無視してアキトに事情を説明して」

 鬼月准尉は、テーブルの上を拭く銀髪ビアンカを手伝いつつ、紫音に目配せしながら言った。

「な、な、何かな?」

 少しキョドった表情を見せたアキトを、紫音はジッと見詰めた。

 紫音は浅く息を吸い込み、あらためて少年に自己紹介をした。

 絶対に彼を説得しなければならない。目を見て話したかったが、それは無理だった。

 紫音は、事の経緯と現状と取り残された仲間の救助を切々と少年に訴えた。

 赤毛のビアンカが真っ正面で睨んでいるうえ、その後ろの少年は終始下を見て、紫音と一度も視線を合わせてくれなかった。

 しかし、それでも、少年もビアンカたちも彼女の話をさえぎりはしなかったので、紫音は友達への思いを熱く語り、昨夜抜刀中隊指揮官から鬼月准尉を紹介してもらった話から、兵学校に戻った経緯などを必死に説明し、何とか助力してくださいと懇願したのであった。

 話の端々で鬼月准尉が助け船を出してくれたので、紫音は何とか自分の気持ちを伝えられたと思った。

 特に、助け船を出してくれた鬼月准尉の話は、少年もビアンカたちさえも驚いた表情で聞き入っていた。

 自分が予備兵だったとき、プライドや見栄が邪魔をして「助けて」の一言が言えなかったこと、そして友達のために泣きながら助けてくださいと自分に頭を下げた紫音が少し羨ましかったと、彼女は言ってくれた。

 しかし、紫音の話を聞き終えた少年の答えは簡単だった。

「何で僕が、そんな奴らを助けに行かなきゃいけないの?」

 治安維持軍中尉と対した時のように、少年はその見た目とは違う冷静な口調で言った。

「・・・・・・」

 絶望感と無力感が紫音の中にあふれてきた。

「司令部からのお願いでも、お断りするような内容だったけど」

 小首を傾げつつ、彼はほぼ感情の無い顔で言った。

「そ、それは・・・・・」

 紫音は答えに窮した。

 都合の良い理由など思い浮かばなかったし、全てはこちらの一方的な頼みなのだ。

「まあ、そう簡単に断らないでよ。前線に友達が孤立してるから、何とか助けてくれないかっていう簡単な話なんだからさ」

「何言ってんの。前線からの情報を総合すると、今回の渋谷方面軍の戦線瓦解で1万2千を超える数の兵士が逃げ遅れたりして各所で孤立してるらしいよ」

「そ、そんなに・・・」

「まじ・・・」

 紫音は鬼月准尉と顔を見合わせた。

 ある程度予想されていた数字だが、それでも万を超えているとなると、やはり大惨事だった。

「いや、ぼくにしてみると、その程度なんだと少し驚いてるんだ。みんな逃げ足が速かったんだね」

「うーん。困ったわねぇ・・・・・」

 美貌の准尉は腕組みをして少し考えると、少しため息をつきつつ話を続けた。

「しかたないわね。でも、こうなることは予想していたのよね」

 鬼月准尉がチラリと紫音に目配せして、口元に意味ありげな笑みを浮かべた。

「じゃあ、アキト。救助作戦を引き受けてもらったら、交換条件として生徒会長を一年間好きに使っていいから」

・・・え? な、何ですか?・・・

 この美貌の准尉はお子様相手に何を言ってるんだと、紫音の目が少し寄り目になった。

「はぁ?」

 少年の方も、かなり困惑しきった顔で小首をかしげている。

「そもそも兵学校なんかに入学したのは、何か目的があったからじゃないの?」

「た、大した目的は無いし。た、ただ、単に部隊の再編成と、それと、その他もろもろだしぃ」

 少年は少ししどろもどろに答えた。いったい何を想像してるのよと、突っ込みたくなる。

「その他諸々で、学校で一番役に立つのは生徒会長だと思うわよ」

 准尉は断言するように語り、そして、少年はため息をついた。

「はぁ・・・・?」

 何か期待外れのような、そんなため息だ。何を期待してたのだろう? この坊やは・・・・

「あなたが会長のお願いをかなえてあげれば、会長はその権力の全てを駆使して、兵学校での活動をとてもスムーズにしてくれるはずよ」

 たった今、治安維持軍中尉をあしらった少年に、とても無意味な提案をしているような気はしたが、准尉は話し続けた。

「この生徒会長を利用すれば、1年間は兵学校内で自由に好き勝手に楽しく行動できると思うわよ」

「はぁ・・・」

 少年の反応が面倒臭いを通り越して、どうでもいいといった感じになっている。

 古代中尉にくっついてきたビアンカたちも、鬼月准尉の話には興味が全く無いみたいだった。

 中尉の膝を占領した赤毛の少女は、紫音を睨みつけるのをやめて大きなアクビをして、生徒会室の中を見回し始めた。

 また、中尉にピッタリと密着するように横に座ったブロンドツインテール少女は、その青い瞳を閉じて彼の腕に頬を密着させている。とても良い雰囲気だが、もしかしたら寝ているだけかもしれない。

 茶髪の真面目な雰囲気の少女はメガネの手入れを始め、銀髪ヘルメット少女はヘルメットからはみ出たウエーブした前髪を、なぜかセッセと巻くことに余念がなかった。

 中尉も含め、紫音と鬼月准尉の話を真面目に聞いてくれているのは、黒髪ボブカットの少女だけだったが、准尉が熱弁を振るえば振るうほど、彼女の表情は険しくなっていく。

 鬼月准尉ばかりに頼っていてはいけないと、紫音は心の中でずっと焦っていた。

 しかし、昨日から、頭の中に霧でもかかったかのように、何も妙案は思い浮かばなかった。

 それは、彼女の思考能力では解決できない難題だからであった。見た目12.3歳程度の少女たちに、ゾンビの巣窟に突撃して友達を助けて欲しいというとても身勝手な頼み事を、14歳の男の子相手に説得しなければならないのだ。

 しかし、そんな紫音の心配をよそに、鬼月准尉は少し前のめりになると、それまでよりトーンを低くして話し出した。

「なぜ、私が、ここまで来たか分かる?」

「ヒマだったからだろ?」

 そう即答したのは、黒髪ボブカットのビアンカだった。

 少女に横槍を入れられ、准尉は焦って言い返した。

「なっ、何言ってんのよ、リサっ! 渋谷方面軍司令部が落ちて前線は大騒ぎなのよっ」

「ふーん・・・・そいつは大変だな」

 准尉にリサと呼ばれた少女は、たいして興味も無いといった感じで答えた。

「ここで、アキトが助けてくれないってことになると、後々かなり面倒なことになりそうで、私は心配なのよ」

「どういうこと?」

「いい、世の中には悪い女が山ほどいるってことなの」

「はぁ?・・・」

 リサと呼ばれた黒髪のビアンカが小首をかしげた。

「いいこと、アキトは今まで女運がよかっただけなの。セシリーやゆきさんや私や・・・・そ、そのリサたちビアンカは、あんたを裏切ったり恨んだりなんて絶対しない。でも、よそのそのへんの女は違うのよ」

「はぁ?・・・」

 少年は話が見えないと小首を傾げていたが、紫音には何となく分かった。

・・・もしかしたら、私が悪い女ということでしょうか?・・・

「もしも助けてくれなかったら、生徒会長は逆恨みしてアキトの邪魔をするんじゃないかな」

 美貌の准尉は真顔で少年に言った。

 逆恨み担当の紫音はため息を吐きたくなったが、グッとおさえて少年を見詰めた。

「えーっ・・・・もしかして、脅してる? 脅迫ぅ?」

 少年の声に少しだけ抑揚が生まれた。そして、それまで興味を示さなかった4人のビアンカが視線を鬼月准尉に一斉に向けた。

「な、何を言ってんのよ。私がアキトを脅すわけないでしょう。そ、そんなことしたら、セシリーに嫌われてしまうわ」

 准尉は慌てて弁解するように言った。中尉にというより、ビアンカたちに向かって言ってる。

「へーっ、そうなんだぁ・・・・」

 中尉の膝に乗った赤毛のビアンカが、その愛らしい目を細め背中下からハンドガンを引き抜いた。

「ふーんっ、偉くなったなぁ、ルナ」

 黒髪のビアンカは足元に置いた重機関銃に手を伸ばす。

「セシリーに報告するです」

 メガネのビアンカは真面目な顔で頬を膨らませた。

「今後はルナ准尉様とお呼びするですか?」

 銀髪にヘルメットのビアンカだけは、なぜか嬉しそうに笑っている。

「・・・・・・・」

 中尉の肩に頬を載せていたブロンドツインテールのビアンカが顔を上げると、鬼月准尉は慌てて両手を前に突きだした。

「いやいや、ちょっと待ってっ」

 手のひらを振りながら、准尉は困り切った表情でビアンカたちをなだめている。

「なんだよ?」

 ハンドガンを握りしめた赤毛の少女が、代表するように聞いてきた。

「逆恨みするのは、この会長。友達を見殺しにされれば、自然とそうなる・・・・かも・・・しれないわ・・・・」

 そう言った鬼月准尉が、紫音に視線を振った。

 何とか説得しなければ、もう後が無い。

 悪い女になって脅迫して友達が助かるなら、どんな女にでもなっただろう。しかし、こんな状況で、選ぶ言葉を間違えてしまっては、兵学校まで帰ってきた意味が一瞬で消えてしまう。

「お願いします。もう、彼女たちを助けられるあては、中尉殿しかいないんです」

 紫音には、友達の救出を懇願するしかできることがなかった。14歳の男の子に頼るしかない現状と、ただお願いしますとしか言えない自分の無力感が情けなく悲しくなってきた。

「お願いします・・・・助けてくださいっ、お願いします・・・・」

 自然と涙があふれだした。

 泣きながら、何度も何度も懇願した。

 涙で霞んだ視界で紫音は少年を見詰め、何度も何度もお願いしますと言っていた。

 鬼月准尉もビアンカたちも何も言わず紫音を見ていた。唯一、彼女の視線を受け止めてくれなかったのは「国防軍首都圏特殊作戦攻撃軍特務第二中隊中隊長」の古代アキト中尉だけだった。

 しかし、それまでずっと下に向けられていた少年の視線が、突然上に向けられた。

「あっ! わかった。これが噂に聞く学校の「いぢめ」ってやつだね」

 なぜか少年は少し嬉しそうに言った。

「ち、違うでしょぅ・・・・」

 あきれ顔で准尉が突っ込んだ。

「そっかぁ・・・僕がここで拒否ると、生徒会長さんに「いぢめ」にあうんだねぇ・・・・」

「い、いや。これは「いじめ」じゃなくて「泣き落とし」という技だ」

 紫音はワザではなく本気ですと言いたいところをグッと我慢した。

 すると、少年の視線が少し下に向けられて中空を彷徨った。

「ところでさぁ。紫音の名字は美しい山って書いて、美山紫音でいいのかな?」

「は、はい・・・・・」

・・・この子は、美山の姓を知っているというの?・・・

「じゃあ、僕が協力したら、将来何か困ったときには、お返ししてくれるんだよねぇ?」

「は、はい。喜んで協力させて頂きます」

 美山の姓に、今さら何の価値も無かった。しかし、生徒会長という名前が何かの役に立つのなら、協力を惜しむ気はなかった。全ては、4人の同級生を助け出すためなのだ。

「ふーんっ・・・・」

 古代中尉はウンウンとうなずき、そして顔をあげて鬼月准尉の顔を見た。常に視線を落としていた少年にしては、明らかにイレギュラーな行動だった。

「ルナさぁ。泣き落とし作戦はいいとして、君は後で本気で泣くハメになると思うんだけど、それでもいいの?」

 彼はまっすぐ鬼月准尉の顔を見て話した。

「ちょっ、ちょっと待ってよっ! 学生救出するだけの簡単な作戦でしょ。ねぇ、そうだよね?」

 鬼月准尉は慌てた顔で立ち上がり、たったまま少年を見下ろした。美貌が震えていた。

「さぁ? 成り行きによるんじゃないかな? 部隊を動かすには、それなりに物資も必要だし、彼女たちに物資の補給とかできそうにないじゃん」

「そ、そうだけど・・・・・」

 力なく准尉は答えた。声に怯えがあった。

「いつも教えてたじゃん。戦争なんて所詮経済なんだって」

「じゃ、じゃあっ。学生たちを助けてもらえるんだね?」

 悲しげな顔で准尉が聞いた。声に力は無かった。

「うーん。どうしようかなぁ・・・・」

 少しもったいぶるように言うと、少年は再び視線を下に向けて続けた。

「じゃあ、仲間を助けるために、この学校に残ってる生徒を動員して救出作戦をやるってのなら、考えてもいいかな」

「えっ!・・・・」

 唐突な提案に、紫音は思わず驚きの声をもらしてしまった。

「大切な仲間を助けるために、みんなで出撃できるのかな? 君たちは」

 自分たちの血は流したくないのだろうと、彼は言っている。

「わ、私がお願いしていることは・・・・それは・・・・」

 紫音の言っていることが、自分たちに都合の良いお願いだと分かっていた。分かっていたから、言葉が見つからなかった。

 そこで、鬼月准尉が話に割って入った。

「分かったわ。ここの学生を動員して出撃させる。それなら、手助けしてくれるのよね」

 そう言ったのが鬼月准尉だったので、少年が小首をかしげながら言った。

「うん。いいけど、ルナが勝手に承諾してもいいの?」

「ちょっと話させてくれるかな」

 鬼月准尉に腕をつかまれ、紫音は椅子から立ち上がって部屋の隅に連れて行かれた。

「あとは、あなたの決断次第よ」

 美貌を寄せ鬼月准尉が耳元で囁いた。

「で、ですが、4人を助けるために何十人もの生徒を死なせる訳にはいきません。それに、学校に残っている戦力は新2年生抜刀科生だけです。彼女たちはゾンビにさえ、まともに立ち向かったことはありません」

 3年生の友人を助けるため、後輩を死地に連れて行くなど出来はしなかった。

「それは、ビアンカの援護がなければの話だわ。何にだってリスクはあるのよ」

「・・・・・・・」

 答えに窮した。

「ねえ。腹をくくるしかないのよ」

「し、しかし・・・」

 准尉と目を合わせられなかった。

「あなたたちに都合よく、世界は回ってくれないのよ。自分で判断して切り開くしかないわ。判断なんて、ある意味で賭けなの。抜刀隊本部でビアンカ中隊のウワサは聞いたでしょう。もう、この子たちに賭けるしか無いのよ」

 その言葉が正しいと紫音も思う。だからといって、2年次生女子を、あの地獄に突撃させることなどできない。

「兵学校の学生を出撃させるには、とても難しい手続きが必要です・・・・」

 言い訳を探して、自分に言い聞かせるように言った。実際、学生といえど分隊以上の兵力を移動するには、厳密な規律によって禁止されていた。

「誰の許可が必要なの?」

「国防軍の出撃要請と憲兵軍・治安維持軍の兵力移動許可と兵学校長の出撃命令が必要です」

「そんなの、アキトならものの数分で取得可能よ」

「そ、そうなのですか・・・・・」

 准尉に即答され、紫音は顔を伏せた。

 煮え切らない紫音に、准尉は彼女の腕を掴んで顔をさらに寄せてきた。

「悪いようにはしないから・・・・とりあえず了承してちょうだい。志願兵でいいから動員して出撃するのよ。今すぐ行動を起こさないと、生きている友達もじきにゾンビになってしまうわ」

「・・・・・・・」

 自分自身の煮え切らなさに、紫音は自分にガッカリしてしまっていた。

 一瞬、「魔術師」の顔が浮かんだ。彼に相談すれば、と思考回路が高速回転した。しかし、それが無意味なことだということは、コンマ1秒で答えが出た。

 そこまで思考して、やっと紫音は決断した。

「わ、分かりました・・・・・」


  ◇◇


 古代アキト中尉の提案を受け入れた紫音は、急ぎ入校式が行われている大講堂へと向かった。

 治安維持軍武装兵突入の影響なのか、兵学校内部には人気が全くなかった。正門の方から騒音が聞こえてきたが、何の音なのかは定かではなかった。

 大講堂入り口から一歩中に入ると、警備担当の抜刀科2年女子が驚きの表情を見せた。

「か、会長っ!」

「美山生徒会長・・・・」

「生徒会長っ!」

「みんなっ・・・・」

 駆け寄ってくる後輩の表情は、みな不安に押しつぶされそうな顔をしていた。紫音たちと同じように治安維持軍武装兵に銃を向けられたのだろう。

 この子たちを、あの戦場に連れて行くのかと思うと、自分が間違っているとしか思えなかった。

 一斉にしゃべろうとした後輩たちを制して告げた。

「みんなも講堂に入って、今から大事な話があります。特に警備の抜刀科生徒全員に話さなければならないことがあります」

 もう、迷ってはいられないと決意していた。

 大講堂ホールから廊下を通って中二階のステージ脇控え室へと入った。

 そこに、彼はいた。

 ワンガン兵学校戦術指揮科3年次首席「魔術師」というあだ名の同級生が、紫音の登場に驚きの声をあげた。

「紫音、どうなってるんだ? 君達、前線から戻ったのか?」

 生徒会副会長でもある彼の声に、その場の生徒会役員たち全員が紫音の登場に駆け寄ってきた。

「教官達が謹慎処分になって、校長と主席教官が治安維持軍に連行されてしまったのよ」

 そう早口にしゃべったのは、戦術級予備兵科3年女子の生徒会役員だった。

 治安維持軍藤原中尉の言葉と、彼女の言動が一致していることを確認すると、紫音は生徒会関係者たちに冷静な表情で言った。

「今、時間が惜しいの。詳しいことは帰ってから話すわ。全兵学校生徒は、講堂に集合しているのね?」

「帰ってからって・・・・ああ、前線にいる生徒以外は、全員そろってるよ」

 古代アキトという少年は頭数に入っていないみたいだが、今はそんな議論はしていられない。

「二年次生に志願兵を頼みに戻ったの。すぐに出撃するわ」

「はぁっ!」

 その場の全員が驚きの声を上げていた。

 大講堂には、合計1200人弱の生徒がいた。

 ステージ上に紫音が姿を現すと、2.3年生のエリアからは私語が消えたが、紫音を知らない1年生たちの声はおさまらなかった。

 中等学校を卒業したばかりの少年少女は、この時代、とても我が儘で世間知らずな人間に育てられていた。

 バンパイア戦争から40年ほどがたったころから、この抑鬱された世界からせめて子供だけでも、自由で幸せな環境で育てようという教育体制が出来上がった。

 自由気ままに育った15歳の少年少女は、兵学校に入学したばかりで自分たちの立場をあまり理解していなかった。

「一年生は私語を慎みなさい。ワンガン兵学校生徒会長美山先輩からお話しがあります」

 ステージ下で、生徒会役員でもある抜刀科2年次首席が大きな通る声で、ざわつく1年生を静めてくれた。

 ステージ下で睨みを効かせてくれた彼女に、片手で敬意をあらわとた紫音は、早速要点だけを話した。

「ワンガン予備兵学校に入校おめでとう。私は本兵学校生徒会長を務めます、抜刀指揮科3年の美山です。本日の入校式は諸般の事情により中止といたします。生徒は各自の寮で自習をしていてください」

 何の説明も無しに入校式中止を伝えると、全生徒が一気にざわめき始めた。

 そこで全員を一喝してくれたのは、戦術戦闘指揮科首席で副会長の「魔術師」だった。

「全員、私語は慎め!」

 軍の指揮官を養成する戦術戦闘指揮科首席だけあって、彼の一声で全員が口をふさいだ。

 戦術の魔術師と教官にまで言わせる才能と、統率力まで備えている彼の姿に、紫音の心が一瞬揺れた。

 しかし、現実を直視すると、答えは簡単に出てくる。紫音は「魔術師」という存在を頭の中から排除し、再び口を開いた。

「各自速やかに寮に戻ってください。なお、二年次抜刀戦術科生は話があるので、このまま全員待機してください」

 そう紫音が告げてから5分後。

「二年次抜刀科生二百四十八名、そろっています」

 抜刀戦術科2年次首席に、そう報告され、紫音はステージからおりた。

「ありがとう」

 そう言って彼女にも席に着くように言って、紫音は二年次生全員に話し始めた。

 ステージ上には、生徒会役員全員が集まって紫音の話を聞いていた。

「みなさん心して聞いてください。私はすぐに前線に戻らなければなりません。つきましては、一緒に前線に行ってくださる志願兵を募集します」

 紫音が話し終えると、一瞬のざわめきの後、最前列に着席していた生徒が立ち上がって発言した。

「なぜ、出撃命令ではなく、志願兵なのでありますか?」

 2年次抜刀科序列3位の女子だった。

「我々は命じられれば全員出撃いたします」

 続けて立ち上がって発言したのは、2年次抜刀科首席だった。

 彼女たちの発言に続くように、2年次抜刀科女子生徒全員が立ち上がって、みながそろって出撃すると声をあげてくれた。

 しかし、そう簡単なことではないことを、紫音は伝えなければならなかった。

「今回の出撃は予備兵力としての出動ではありません。戦場に孤立した三年次抜刀隊生徒の救出作戦になります」

「・・・・・・・」

 孤立・救出作戦と聞き、講堂に残った全員が息をのんだ。

「救出って・・・ゾンビとの遭遇戦になったのか?」

 そう質問したのは、ステージ上の「魔術師」だった。

「遭遇戦・・・・そうね。ただ、問題なのは大規模なゾンビの侵攻により、渋谷防衛線は崩壊して最終防衛ラインを再構築中なのよ」

「そ、そんなっ・・・・・」

 紫音の説明に、みな言葉を失った。

 本来なら、機密ということもあり、話したくない内容であった。しかし、2年次抜刀戦術科生には知る権利があると思って、あえて話したのだ。

「最悪の場合、多大の犠牲を出すことも考えられます。もしくは救助部隊も全滅ということも考えられます」

 最悪の想定を告げると、静かだった2年次生たちにも動揺が広がっていった。

「よく考えてから判断してください」

 紫音は昨日の悪夢を語り始めた。

 紫音の話を、全員が立って聞いていた。

「昨日、我が抜刀科生228人はゾンビ大集団と遭遇、部隊は敗走しました」

 口にしただけで、あの光景がよみがえった。

「私たちは、今朝の点呼で百五十三人しかいませんでした。不明の大半が戦死したと思われます」

 生存者153名にどよめきが起こった。

「しかし、昨日の敗走直後、一部生徒が廃ビル地下に退避していることを救難信号で確認しています」

 そこで抜刀科女子が手をあげた。

「重装殲滅騎士団に救援を依頼してはどうですか?」

 その質問に、紫音は顔を横に振り悲しげな表情で答えた。

「私たち抜刀隊は、重装殲滅騎士団の命令で前線に出撃しました。そして、重装殲滅騎士団を逃がす盾となったのです」

「そんなっ・・・・」

 紫音の言葉を信じられない者もいたかもしれない。それでも、前線の現状だけは伝えなければならなかった。

「前線司令部には救助要請を願い出ましたが、相手にされませんでした」

 紫音の頭の中を、嫌な記憶ばかりが積み重なっていく。

「防衛ラインは壊滅状態で、軍は戦線を維持するだけで精一杯の状況です」

「では、我々だけで、救出作戦をするということですか?」

 後ろの抜刀女子からの質問だ。とても不安そうな顔だった。

「いえ、それこそ全員戦死しかねませんので、そんな無謀な作戦ではありません。特殊戦闘部隊に救援作戦の援護をお願いしています」

 抜刀科序列で席順が決まる関係から、後方の生徒ほど不安を感じる者が多いのはしかたなかった。

「二年次生徒は、一度寮に戻ってください。そして、志願する意思のある者だけ、出撃準備をして30分後正門前に集合してください」

 そう言った紫音は、視線を席順後方に向けた。

「志願しなかったからといって、誰も責めたりしません。自分の意思と決意の固い者だけ志願してください」

 無理に参加しなくていいと、本当は一人一人に言いたかった。

「以上、解散してください」

 紫音が告げると、前列に陣取った10名が真っ先に敬礼した。続いて、その後ろ半分ほどの生徒が慌てて敬礼した。しかし、最後尾の20名ほどは、敬礼をする余裕もなくヒソヒソ話しに夢中だった。

「会長。我々も一緒に行くぞ」

 紫音が話し終えると、ステージ上にいた「魔術師」他の生徒会役員たちが集まってきた。

 戦術戦闘指揮科の男子3人に、戦術予備兵科と魔法技能科の女子2人だった。

 本心では、とても嬉しかった。しかし、現実は、現実として告げなければならなかった。

「いえ、あなたたちでは戦力にならないからいいわ」

「何を言っている。これでも戦術戦闘指揮科のトップだぞ」

 そう言った魔術師の横には、2年次戦術戦闘指揮科首席もいた。

 戦術戦闘指揮科の魔術師と呼ばれるエリートの彼ならと再び思ったが、それは模擬戦での話でしか無い。

「戦闘指揮ならプロに依頼したわ」

「プロ? さっき話していた特殊作戦部隊か?」

「ええ。だから、指揮官は不要なのよ」

 戦術戦闘指揮科の新1年生に頼んだとは言えなかった。

「それより、残った生徒達のことをお願いね。治安維持軍の乱入で動揺してるでしょうから」

 紫音がそう言うと、魔術師は思い出したように難しい表情で顔を寄せてきた。

「乱入してきた治安維持軍を追い返したのは、君なのか? 生徒会室に将校が行っただろう」

 他の生徒会役員に聞かれないよう、彼は小声で尋ねた。

「まさか。あの人達は、治安維持軍諜報部よ。あなたも何も言えなかったのでしょう?」

「ああ、正直、人生で一番ビビッたかもしれない」

「ええ、私たちも生徒会室で危うく連行されそうになったわ」

「マジか、よく助かったな。身分を開示したのか?」

 魔術師の言葉に、紫音は眉をひそめた。

「いいえ。鬼月ルナ准尉に助けていただいたの」

 魔術師の顔が驚嘆の表情に変わった。城塞都市外にほとんど出たことの無い彼でさえ、鬼月ルナ准尉の驚異的な活躍は耳にしているのだ。

「鬼月ルナ准尉って、あのヨコハマナンバーワンの鬼月ルナ准尉?」

「そう、渋谷迎撃戦の本当の英雄、鬼月ルナ准尉に救出作戦を相談したの。それで今、彼女と兵学校に帰ってきていたところよ」

 魔術師が驚きの声で鬼月ルナ准尉と言ってしまったため、周囲の学生も何事かと寄ってきた。

「ごめん、行かないと。軍に関することだから話せないのよ」

 後のことは役員に託し、紫音は急ぎ会長室に戻った。


  ◇◇


「志願兵募集要請してまいりました・・・・」

 会長室に戻り、紫音はソファーに座った古代中尉に報告した。

 古代中尉やビアンカと呼ばれる少女たちは、かなり自由な感じで座っていたが、鬼月准尉だけは雰囲気が変だった。

 鬼月准尉は戻った紫音に振り向いてくれなかった。

「准尉・・・?」

 心配になり声をかけると、ようやく顔を向けてくれた。

「どうだった・・・・?」

 振り向いた准尉は、紫音に無理に笑って見せていた。瞳が真っ赤に充血している。

・・・泣いてたの? ど、どういうこと? 泣かされたの? この坊やに・・・

「は、はい。推測ですが50名は志願してくれると確信しています。20分後には正門前に志願者が集合します」

「そう、なら大丈夫ね」

 白い指先で、鬼月准尉はこぼれ落ちそうな涙をぬぐった。

・・・な、何があったの?・・

 准尉が泣くほどの何かが、気にならないはずはない。だが、ここで女の涙する理由を聞いていいのかも分からなかった。

 しかし、困惑する間もなく、古代中尉が口を開いた。

「じゃあ、後はセシリーに任せてあるから、あんたたちは彼女の指揮下に入ってくれる?」

 すぐに出撃ということなのだろう。やっと、救出作戦実行までたどり着けたのだ。身が引き締まる思いで、紫音は少年に敬礼した。

「はい。中尉殿」

「ん? 中尉とか言わないで。あと、今日のことは他言無用だと、隣の連中にも徹底しといてね」

 少年は敬礼を返すでもなく、少し面倒臭そうに話した。

「は、はい。では・・・どうお呼びすればよろしいのでしょうか?」

「え? アキトでいいよ」

「はい。アキトさん」

「アキトさんかぁ。なんかちょっと・・・・まあ、いっか」

 肩をすくめた少年に、鬼月准尉が柔らかな口調で言った。

「ね、ねぇアキト。あなたも失礼よ。紫音は学校の先輩なんだから、あんたとか言っては駄目よ」

 鬼月准尉の喋り方が少しというか、かなり優しくなっているように感じられた。涙した影響なのか・・・・

「先輩? 何の世話にもなってない奴なんて、そんな奴は先輩とは呼ばないよ」

 軍人のくせに上下関係を否定するところも、子供だと思ったが、そんな少年に鬼月准尉は優しく微笑んだ。

「そんなに怒らなくていいでしょ。ところで、アキトは一緒に出撃しないの?」

 可愛く小首をかしげる表情は、まさに「ヨコハマナンバーワン」の鬼月ルナそのものだった。

 元々、こんな話し方なのか、鬼月准尉は女性らしい表情と柔らかな口調で少年に尋ねた。

「何でぼくが、こんなしょうもない作戦に出ていくの?」

「そう言われると、身もふたもないわねぇ・・・・」

 ぶっきらぼうな返しに、准尉は少し女っぽくため息をついて見せた。

「一応、各方面には話を通しておいたから。ひとふたいちはちには、渋谷方面軍守備隊全軍による反攻作戦が始動するんで、それまでに救出作戦は完了するから」

 鬼月准尉の顔をチラチラと見つつ、少年は驚くべき事をサラリと言った。

・・・は、反攻作戦?・・・

「ほ、本当ですか?」

 彼が方面軍を動かしたということなのか? しかし、あのボロボロの防衛線を死守するだけで精一杯の前線部隊に、反撃する能力など絶対に無いはずだ。

「うん。君たちがひとふたまるまるに突出してゾンビ共を蹴散らし、ひとふたいちはちまでに花火を上げられればね」

・・・・12時00分に前線を突破するの?・・・私たちが?・・・

 どう考えても、無理な作戦計画に思えた。既に10時を過ぎている。兵力の移動だけでタイムオーバーだと感じた。

 詳しく話を聞こうとしたが、鬼月准尉が立ち上がり紫音の腕をつかんだ。

「よし。それじゃあセシリーに紹介しないとね」

 そう言った准尉に引っ張られ、紫音は疑念の山を抱えたまま部屋を出なければならなかった。

「なんだ、ルナもう行っちゃうのか?」

「早くクッキー持って来いよ」

 部屋を出る間際、ビアンカたちが准尉に声をかけてきた。

「はっ、配給出たらもってくるから」

 少し面倒臭いといった感じでビアンカたちに言った准尉は、中尉に小さく手を振りながら言った。

「じゃあね、アキト」

「う、うん」

「あなたたち、古代中尉殿の対応は任せるわ。くれぐれも刺激しないように接してちょうだい」

 生徒会長室を出て、紫音はすぐに不安げな顔で立っている2人の役員に話した。

「か、会長は・・・?」

「私は今から2年次生を引き連れて前線に行きます」

「ま、マジですか・・・」

「あと、中尉殿の階級とかは決して他言無用。今日の出来事も誰にも話しては駄目よ」

 お願いね。と一方的に2人に後を託し、紫音は准尉と生徒会室を出た。

 一刻も早く、准尉に聞かなければならないことがあった。

 何から聞いていいのか、頭の中で整理できていなかったが、廊下に出た瞬間、紫音は一番引っかかっていたことを尋ねた。

「私が出ている間に、何があったのですか?」

「ん? ああ、大したことではないわ・・・・」

 泣いていた理由を問いただされたのだと察した准尉は、視線を外して答えなかった。

「わ、私には知る権利があります。2年次生を前線に連れて行くのです。何があったか教えてくださいっ!」

 廊下を並んで歩きながら、紫音は准尉の腕を掴んだ。ギュッと握ると、彼女はとても嫌そうな顔を向けてきた。

「何があったかって? さっきアキトから聞いたでしょう?」

「な、何を・・・・・」

 准尉が涙する理由など少年は話していなかった。

「私は、あなたの友達を助ける手助けで、ここまで来たわ。数人助ける程度なら、簡単な作戦だからいいかと、とても単純に思ったのよ」

 准尉の表情は暗かった。

「だけど、その作戦は、渋谷方面軍司令部奪還作戦の一部に組み込まれて実行されることになってしまったのよ」

 少し投げやりな口調で准尉は言った。

 しかし、紫音には、それは凄いことにしか聞こえなかった。

「この救出作戦を全軍の反攻作戦にリンクして、国防軍が援護してくれるということでしょうか?」

 国防軍の全面的な支援が得られるのなら、救出作戦もスムーズに行くと紫音は思い。希望が心の中で一気に広がった。

 しかし、その解釈は全くの間違いだった。そもそも、そんなことで准尉が泣く理由がなかった。

「あなた世間知らずなだけかと思ったら、ただのバカなの?」

 立ち止まった准尉が不機嫌な顔で紫音を睨んだ。

「渋谷方面軍に、反撃作戦を行うような戦力は無いのよ」

 立ち止まった准尉は、不機嫌な顔のまま再び歩き始めた。

「し、しかし、中尉が先ほど・・・」

 そう言うと、再び准尉は足を止めて冷たい視線を向けた。

「渋谷方面軍司令部奪還作戦は、アキト中隊単独による戦闘行動なのよ。中隊の攻撃力でゾンビ共を蹴散らした後から、国防軍は反撃を開始するの。いくらアキト中隊が強くても、大規模戦闘になれば多数の戦死者が出るわ。私にとって、ビアンカは姉でモデラーズたちは妹なのよ。私は中隊で4年も守られて生きてきたの。だから正式に作戦が立案されて、私は後悔したのよ」

 准尉の説明の半分が、紫音の理解を超えていた。それでも、自分たちを助けるために、彼女の大切な人達が命を落とすのだということは理解できた。

「もっ・・・申し訳ありませんっ・・・・」

 准尉と視線が合わせられず、紫音はうつむいてしまった。言葉が見つからなかった。

「謝ってる暇なんてないわ。作戦開始時刻が迫ってるのよ」

 准尉にうながされ、紫音は再び歩き始めた。

 正門前に集合するように言った志願兵と合流するため、紫音は准尉と共に兵学校センター棟正面玄関から外に出た。

 建物正面玄関前には、2年次抜刀科生が整列していた。200人以上は確実にいた。

「み、みんなっ・・・・」

「二年次生抜刀隊二百四十八名集合しました」

 紫音が駆け寄ると、2年次抜刀戦術科次席が報告した。

「欠員ありません」

 2年次抜刀戦術科首席が誇らしげに言った。その力強い言葉に続き、全員が紫音に向かって敬礼した。

「みんな、ありがとうっ・・・・」

 その後輩たちの姿を見ただけで泣きそうになってしまった。

「正門前集合と命じられましたが、このようなところで集結するしかありませんでした」

 2年次抜刀隊全軍の指揮官的立場の首席女子が、視線を正門前に向けて話した。

 グランドを挟んだ正門前には、見たこともない軍が展開していた。

「あ、あれはっ!」

 78抜刀中隊で話は聞いていたものの、そこに出現していた部隊の兵力に紫音は驚かずにはいられなかった。

「は、はい。私たちにはよくわかりませんが、あれが会長が言われていた援護部隊でしょうか?」

「た、たぶん・・・・」

 グランドの全てが、装甲車のような車輌に埋め尽くされていた。数十輛連なった中に、巨大な重戦車が鎮座している。

 そして装甲車の周囲を、金髪のモデラーズ兵がズラリと取り囲んでいた。数は300人以上。これほど一度にモデラーズ兵を見たのは初めてだった。

 モデラーズ兵の戦闘能力は、そのランクにもよるが、人間の何倍もの射撃能力があると言われていた。クローン培養する施設の確保も難しい時代であったので、これほどの数のモデラーズ兵を指揮する、あの少年の力は、紫音の想像など及ばないのだと感じた。

「いい、今から紹介するけど、セシリーには逆らわないでよ」

 紫音の背後から現れた軍服姿の准尉に、その場の全員が慌てて敬礼していた。

「は、はい」

 ウワサの殲滅のセシリーに会うのだ。緊張しないわけがなかった。

「何か、注意すべき点がありましたら教えてください」

 そう紫音が言うと、准尉はくるりと回って4列縦隊で付いてくる女子たちに告げた。

「いいこと。もうすぐ可愛い女の子がゾロゾロ出てくるけど、決して「可愛い」とか言って触らないこと。いいわね?」

「・・・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・」

 2年次生女子たちは、鬼月准尉の言葉の意味を理解できず、ポカンとした顔をしていた。

「みんな。准尉殿の言葉が聞こえましたか?」

「は、はいっ!」

 紫音の声に反応し、女子たちは慌てて返事をした。

「本物のビアンカちゃんを見てないので、仕方ないかと」

 そう言った紫音に、准尉が眉をひそめた。

「あの子たち、ビアンカちゃんなんて可愛いもんじゃないのよ。下手に触ろうとしたら本当に撃ち殺されるわよ」

 そう准尉に言われた紫音は、後輩たちにあらためて軍事行動中の行動規律を順守するように伝えた。

 2年次女子248名を引き連れ、鬼月准尉についていく。日本刀をたずさえた集団が接近しても、モデラーズ兵たちは完全に無関心といった感じだった。

・・・軍服じゃないのね、この子たち。男物のワイシャツ?

 近づくと、モデラーズ兵たちの服装が妙に艶めかしいことに気づいた。

 真っ白な大きめのワイシャツをワンピースでも着こなすかのようにまとい、ウエストには弾倉ベルトが巻かれている。

 足元は戦闘ブーツだが、そこから伸びた足はカラフルなニーハイソックスに包まれていて、ソックスの長さが短いモデラーズの太ももは、ワイシャツの下からその美脚をのぞかせていた。

「セシリーは?」

 外周警戒中と思われるモデラーズ兵に准尉が尋ねる。ブロンドモデラーズ兵は、重機関銃を肩に担いだまま、圧倒的に目立っている重戦車の方を指さした。

「ありがとう。あと後ろの女子は、全部フレンドリーだから」

 そう准尉が突然言ったので、紫音は慌ててモデラーズ兵に敬礼してしまった。

「・・・・・」

 紫音が敬礼した姿を見て、後続の女子たちも次々とそのモデラーズ兵に敬礼した。そんな彼女たちに対し、モデラーズ兵は小首をかしげただけだった。

 ならんだ装甲車の横を進んでいく。モデラーズ兵たちが戦車の周りに集まっていて、その集団に准尉が少し黄色い声で言った。

「セシリーっ!」

 その明るい通る声に、モデラーズ兵たちの壁が動いた。

 重戦車後部に数名のビアンカが姿を現した。ブロンドに赤毛に茶髪にピンクに緑色とカラフルな髪の毛の美少女達は、とても可愛い表情でこちらに視線を向けた。

 鬼月准尉がビアンカの元に駆け寄った。そして、ひときわ目立つブロンドビアンカの前まで進むと、いきなり抱きついた。

「セシリーっ、会いたかったよぉっ」

 どちらかというと高身長の鬼月准尉が、よく見て12歳程度のブロンド少女に甘えて抱きついている様は、ちょっと危ない光景だった。

「先週会ったでしょう・・・・」

 ギューッと抱きつかれたセシリーは、その小さな手で准尉の背中を優しくポンポンと叩いてやっている。

 鬼月准尉とセシリーの絆のようなものが垣間見えた。

「あなたはどうして、こんなとこに来てるのかしら?」

 さんざんハグして頬ずり三昧をして離れた准尉に、セシリーがあきれた表情で質問した。

「セシリーに会いたかったからに決まってるでしょう」

 そう言って、准尉は再び抱きつこうとする。明らかにキャラが違い過ぎる。

 しかし、そんな准尉の好き好き攻撃をセシリーは片手で制止ながら、紫音たちの方に視線を向けてきた。

「まあ、お上手ね。ところで、その子?」

「はい。この兵学校生徒会長の美山です」

 作戦の本題に入ったためか、准尉の声もトーンが一瞬で下がった。

 しかし、その下がったトーンをカバーする黄色い声が、周りからわき上がった。

「何、この女がアキトをいぢめてた張本人のボスキャラ?」

 戦車の上に座って見ていた茶髪のビアンカが、紫音の名前を聞いた瞬間、その大きな碧眼の瞳をさらに大きく見開いた。

「おーい。みんな、ボスキャラ発見っ! 集合っ!」

 茶髪少女とならんで座っていた鮮やかな緑色の髪のビアンカが、大きな甲高い声で叫ぶと、さらに数人の可愛いビアンカが集まってきた。

「お、何々、いまからこいつを殺すのか?」

 モデラーズ兵の間から現れた、目つきが可愛くない赤毛のビアンカが紫音に突撃銃を突きつけた。

「い、いや。友軍だから」

 鬼月准尉が面倒臭そうに制止すると、赤毛のビアンカは「ルナはマジ、ケチだよな」とブツブツ言いながら、回れ右をしてモデラーズ兵の中に消えていった。

 そんなやり取りを見ていた他のビアンカたちは、楽しそうに笑っていた。

 紫音は生徒会長室で、あのビアンカたちを目の当たりにしていたこともあり、動揺せずにすんだ。

 場の雰囲気が落ち着いたところで、准尉が目配せしてくれた。

 紫音は一歩前に出て、セシリーに向かって敬礼した。

「ワンガン兵学校抜刀指揮科3年の美山紫音であります。古代中尉殿にはご無理をお願いいたしました」

「ええ、聞いてるわ。アキトがお人好しだからって、あまり面倒ごとを持ち込まれるのもねぇ」

 小首を傾げたセシリーは、その視線を鬼月准尉に向けた。

「ご、ごめんなさいっ・・・・・」

 彼女の視線に准尉は肩をすくめて、シュンとしてしまった。

「ルナ。あなたは自分の部隊に帰りなさい」

 セシリーの言いつけに、准尉はコクリと素直にうなずいた。

「あ、はい。私がこいつ連れてきてセシリーには、また迷惑かけちゃったね」

「ええ。そうね」

 セシリーは多くを言わず、准尉を手でシッシッと振って、行くようにうながした。

「作戦が終わりましたら、また、改めてお詫びに参ります」

 鬼月准尉は、初めて立派なエリート軍人のように綺麗に背筋を伸ばして敬礼をした。

 准尉から敬礼をされたビアンカのセシリーはというと、その小さくて透き通るように真っ白な美しい顎を振って、早く行けとさらにうながしただけだった。

 踵を返した鬼月准尉は、紫音の肩に手を触れながら美貌を寄せて耳元で囁いた。

「もう大丈夫だから」

 紫音の肩をポンと叩いた准尉は、その場から抜け出して走り出した。

・・・鬼月准尉・・・

 紫音は何も言えず、ただ彼女の後ろ姿を見送るしかなかった。

 鬼月准尉は、ビアンカ数人を車上に載せた見たことも無い戦闘車両に飛び乗った。

 兵学校正門前からは、グランドに集結していた戦闘車両がビアンカとモデラーズ兵を満載して出撃していく。

 本当は、新たに動員した二年次生抜刀隊をどう使うのか教えて欲しかった。

 それを教えてもらえなければ、安心などできなかった。

 彼女たちは入学からまだ一年で、訓練だけは積んだものの、実戦の経験どころかゾンビと直接対峙したこともない生徒ばかりなのだ。

「簡単に打ち合わせしておきましょう」

 不安な気持ちで残された紫音に、セシリーが優しい声で言ってくれた。

「は、はい」

「端末コードをフリーにしてね」

 セシリーの身長は、生徒会室で会ったビアンカと同じくらいだった。ただ、あの子たちよりは、落ち着いた雰囲気で安心できた。

「はい」

 言われるまま、戦闘指揮用端末のデータアクセスコードをフリーに切り替える。

 すると、作戦指示書が高速ダウンロードされ、端末モニターに映し出された。

『渋谷方面軍司令部奪還作戦・作戦コード・渋谷2回目』

「もう・・・こんな作戦が・・・・」

 古代中尉と会ってからわずか1時間だった。

「作戦コードにセンスがないとか言わないでね。アキトそういう細かいとこ、気にする子だから」

 そう言いながら、セシリーは前方少し下中空を見ている。その姿は、古代中尉の視線と同じだった。

「・・・・・・・・・・」

・・・三次元リアルモニター・・・

 バンパイア戦争以前の高性能指揮通信システムは、紫音も承知していた。

 装備の違いに感心しつつ、紫音は兵学校の端末で作戦指示書を開いた。

 事細かく指示された大量のデータと作戦詳細がモニターに展開された。

 初めて見る実戦の戦術指揮書だった。

 量が多すぎて何から読んで良いかもすぐには分からなかった。

 そもそも端末のページ数で300を超えている。

「今回の作戦は時間が勝負よ。あなたは、ひとひとよんさんからひとふたいちはちまでの流れを理解することに努めてね」

 セシリーは、とても簡単なことでも言うようにサラッと言った。

「は、はい。ですが・・・・・」

 紫音は最初のページを読むところからつまずいていた。作戦行動に使っている座標の書き方からして、暗号になっていたのだ。

「学生じゃ、しかたないわね」

 紫音のキョどった表情に、セシリーが少し肩を落とした。

 しかたない子ねといった感じで、まるで残念な子を見るような哀れみの視線を向けると、作戦を説明してくれた。

「いい、あなたは、ここの子を引き連れて前線に赴き、先行した部隊の交代要員としてこの子たちを配備するのよ。そして、交代した先行部隊は仲間を救出するために出撃してもらうわ」

・・・よかった・・・

 2年次生が予備兵の交代要員であることを知り、紫音は少しだけ肩の荷が降りたような気がした。

 しかし、すぐに新しい不安が芽生えてきた。

「私たちでも、援護して頂ければゾンビの大群を突破できるでしょうか?」

 そう紫音が話したところで、赤毛の少し目つきの悪い美少女ビアンカが進み出た。

 目つきは悪いが、それはそれで違う意味で可愛い。と一瞬思ってしまう。

「全小隊出撃準備完了っす。既に先行3個小隊は出撃を終えてます。あと、アキトの護衛はあいつらだけでいいんすか?」

「え? あら、そうねぇ。直衛だし憲兵隊の戦車が来ても多少持つと思うわ」

 少しだけ小首を傾げセシリーは言った。

「でも、さっきの治安維持軍なんかが本気で来たら、まずいっすよ」

「そうねぇ。ここの人達が一緒になって画策してたら・・・ねぇ」

 怪訝な表情で、二人は一緒に幼い美貌を傾けながら紫音をみつめた。

 凄く可愛かったが、凄く怖かった。

「あのっ、何のことか分かりませんが、私は決して何もしていません」

 紫音は慌てて、彼女たちの疑念を否定した。

「そうね。そう願いましょう。それに、いざとなったら吹き飛ばせば済むし」

 セシリーはフッと微笑みを浮かべて紫音を見ると、すぐに表情を引き締めて周囲に向かって檄を飛ばした。

「みんなっ、出撃よっ!」

 その声に答え、モデラーズ兵とビアンカたちが銃を突き上げて黄色い気勢をあげた。

「誰かリナとシモーヌを呼んできてちょうだい」

 脇に控えたモデラーズ兵に指示を出したセシリーが、パッと明るく笑って紫音に美貌を向けた。

「ごめんなさいね、話の途中だったわね」

 そう言うと、セシリーは再び作戦の説明をしてくれた。

「いいこと、前線突破は私たちが引き受けるわ。その後方を戦車が続いて、あなたたちは戦車の後ろから付いきてくだされば結構よ」

「それでは、私たちの任務は?」

 そう尋ねると、セシリーは小首を傾げつつ答えた。

「任務? そうねぇ、一応、オマケみたいな?」

「お、オマケですか?」

 声が変なところから出た。冗談かと思ったが、セシリーはずっと小首を傾げたままフリーズしていたので、説明が難しいのだろうと勝手に解釈するしかなかった。

「そうね。でも救出作戦が終わるまでは、ゾンビを近づけさせたりしないから安心してね」

 そう言って、まだ何かを説明しようとしたセシリーの脇に、モデラーズ兵とピンクの髪のビアンカがやってきた。

「呼んだにょ?」

 今まで遭遇したビアンカより、さらに幼い雰囲気で髪がピンクのビアンカがセシリーのすぐ横まで来た。大きく首を傾げ、とても面倒臭いといった迷惑そうな顔をしている。

「お呼びでしょうか、姉様」

 モデラーズ兵は、セシリーの脇で直立不動となり綺麗な敬礼をした。先ほどの鬼月准尉のような、完璧な美しい敬礼だった。

「リナとシモーヌよ。この二人がみなさんを現地まで先導します。友軍救出後の後退は、シモーヌが退避行動を支援します」

 そう紹介されたモデラーズ兵は、軽く敬礼してくれた。しかし、ピンク頭の美少女は視線すら合わせてくれなかった。

 この幼さ満載の女の子が、78抜刀中隊小隊長たちが言っていたリナなのだろうと思った。こんな子供が戦車で突入というところからして、信じがたかった。

 ちょっとご機嫌斜めなリナに、セシリーが質問した。

「リナ、ちゃんと作戦指揮書は読んだ?」

「読んだにょ。バッチリにょ」

 澄ました顔でリナと呼ばれたビアンカが言った。

「どんな作戦だったぁ?」

「ん? 前と同じにょ。シブヤの本部に殴り込むにょ」

「あらぁ? 何か忘れてるわよぉ」

「あーっ、アルファ33オメガブラボーに寄り道する件にょ?」

「ええ、そこまでは、極力発砲は控えてね」

「何でにょ?」

「それは、そこに友軍がいるからよ」

「ふーん。一緒に吹っ飛ばした方が早いにょ」

「うーん、あなたの作戦が間違ってるとは言わないけど、ちゃんと寄り道して友軍救出後に、再度突出して敵を殲滅するのよ」

「ふーん・・・・・」

 面倒臭い、といった表情でリナは答えた。今の会話を総合すると、この一番お子ちゃまな女の子が、紫音たちの指揮官と考えるべきなのかと思うと、少し胃が痛くなった。

 准尉と一緒に、セシリー派になろうと密かに思った。

「シモーヌの方も、いいわね?」

「はっ! 了解致しました。セシリー姉様」

 セシリーの言葉に、シモーヌはブーツを鳴らして答えた。

 シモーヌとリナはまるで対極の存在に思えた。

「二個小隊で守り切るのよ」

「お任せください」

 そう答えたシモーヌに、セシリーは紫音を指さして言った。

「それと、この子に作戦の概要を説明してあげてね」

 そこまで言ったところで、大型機関砲を搭載した装甲車が彼女たちの前に横付けされた。

 装甲車の上にはビアンカが10人ほど乗っていて、開けられたぶ厚い後部ハッチから、セシリーが乗り込んだ。

 セシリーの乗った装甲車が走り去ると、モデラーズ兵シモーヌが説明を始めた。

「いいか。お前ら抜刀隊はオメガブラボーに付くまでは、リナ姉様のタンクのケツにくっついてくだけでいい、何があってもタンクの後ろから離れるんじゃないぞ」

「戦車随行作戦の経験はありませんが・・・・」

 自爆ゾンビはどうするのかと聞きたかったが、もっと基本的な質問をぶつけた。

「今時、そんな経験のある人間はいないから安心しろ。ただ、後ろにくっついて駆け足で進むだけだ。タンクの車線から外れたら、対自爆ゾンビクラッシャーで吹き飛ばされるからな」

「了解しました」

 そう口では答えた紫音だが、そもそも戦車の存在さえ知らない学生に、対自爆ゾンビクラッシャーが何なのかなど分かるはずもなかった。

 あの少年と会話を始めたくらいから、あまり突っ込んで質問しないようにしていた。知らないことが多すぎて、話が前に進まないのだ。

「オメガブラボーでフレンドリーを拾ったらタンクがいなくなるので、あとはもう撤退するだけだ。いいな」

「大丈夫でしょうか・・・・・」

「ああ、殲滅戦で侵攻する訳ではないから取りこぼしのゾンビ共を排除しつつ、現状の前線まで撤収ということになるだろう。まあ、簡単な作戦さ」

「そ、そうなの?・・・・・」

「私の小隊の他にもう一個小隊で守るから、大丈夫だろう?」

 そう言われ、紫音はモデラーズ兵に頭を下げた。

「よろしくお願いします」

「あ、ああ。めんどくせぇなぁ・・・・」

 礼儀の無いシモーヌの言葉だったが、立場が弱い紫音は謝意を示した。

「も、申し訳ありません」

 そう紫音がシモーヌの目を見ながら言うと、彼女は小首を傾げて困った顔をした。

「あれ、使い方、間違ってたか?」

「えっ! い、いえ、確かにみんなそういう使い方をします。でも・・・・・」

「まあ、アキトに向かって言ったバカが、姉様に撃ち殺されそうになってたしなぁ。言葉って難しいよなぁ・・・うぜー!とか使うと、姉様たちは私を殴るんだ。それって、いじめだろう?」

 シモーヌは真顔でそう言った。

「い、いえ。それ以前に、そういった言葉は使わない方がよろしいかと」

 紫音はハッキリ言った。

「何言ってんだよ。前線兵士の大半は、「めんどくせぇ。うぜー。だりー」しか言わないぞ」

「そ、そうですね・・・・・」

 シモーヌの言葉に反論しなかった。確かにそうだし、そもそもこんな話をしても意味がない。

「見込みのようなものを尋ねてもいいですか?」

 無駄話をした分だけ、シモーヌとの距離が近くなったように思え、紫音は率直なところを聞いてみた。

「何の?」

「この作戦での帰還率はどれくらいとお考えでしょうか?」

「あ、そんなの聞かれても無理。私は、お前らにくっついて護衛するだけだから、どんだけの兵力と出くわすかも分からないし。アキトの詳しい作戦指揮書もビアンカ姉様たちしか読んでないし、先の事なんて答えようもないさ」

 そう話したシモーヌがフッと笑った。

「なんだ、やっぱりビビって止めたいとか、そんなことか?」

「い、いえ。決してそんなことは・・・・」

 紫音は否定したが、救助作戦を中止したほうがいいのではないかと、ずっと考えていたのも事実だった。

「ふん。お前の連れてきた兵隊たちを見てみろよ。マジ、ビビってねえか?」

 ビアンカとモデラーズ兵を満載した装甲車が次々と出て行く様子を、248名の後輩たちは不安そうに見ていた。

 不安になる気持ちは分かる。こんな大部隊を見たことなどなかったのだ。こんな部隊が投入される戦場とは、いったいどんなところなのかと心配にならないはずはなかった。

「まだ、若くて経験がありませんので・・・・」

 後輩たちの名誉のためにそう言った。前線後方予備戦力としての出撃が、また数回程度なのだ。

「みんなアキトより歳喰ってんだろ?」

「は、はい・・・・」

 返す言葉が見つからなかった。






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