炎使いは燃えるのか。

初柴シュリ

第1話

とある王国の、とある王城。


窓一つない密室には、そのイメージに反して多くの人が集まっていた。



「おお、成功した!!」


「素晴らしい!! これで我が国も安泰だ!!」



ローブの者達や、綺羅びやかな服を着た若干肥満体型の中年が狭い部屋に立ち並ぶ中、部屋の中心に描かれた魔方陣には一人の青年が座り込んでいた。



「……」



青年、柊 彰人は無言のまま辺りを見渡す。自らのコートのポケットから手を出し、ボサボサに伸びきった霞んだ銀髪を掻き上げ、何かを思案し出した。


そんな彼の様子には構わず、周りの話は流れていく。



「周りの国が次々と勇者召喚に成功する中、我が国だけ取り残されること十年。長い月日だったが、それもようやく報われた……」


「ええ。これで我が国も文句なしに魔王征伐同盟へと加入することが出来ますね!!」


「よかった、私の魔方陣理論は間違ってなかったんだ……」


「やっと徹夜生活から抜け出せる……」



ホッとしたような、安堵の雰囲気が場に流れる。話を聞くに彼らも相当苦労したようだが、彰人はそんな話には毛ほども興味を示さなかった。思案は続いているようで、襟足まで伸びた髪をくるくると弄り始める。


と、いい加減彼らも彰人が動かないのに気付いたのか話を振り始める。彼らとしては彰人が手持ち無沙汰に見えたのだろう。少なくとも他人の事が気遣えるレベルには善人だと言える。


が、彼らにとって最も不運だったことは、自分が善人だからといって相手も善人とは限らないということだ。



「ああ、申し訳ありません勇者様。我々はヴァンクリーフ王国の代表でございます。混乱していらっしゃるでしょうが、どうかお話を――――」


「おい」



予想以上に低い声が説明を始めようとした大臣に掛けられる。少々無礼な物言いにむっとした大臣だが、そこは政治の世界に関わっているベテラン。そんな感情はおくびにも出さず、優しい声色で返した。



「なんでございましょう?」


「俺は何のために呼ばれた?」



以前他の国においての勇者の反応を聞いていた大臣であるが、それとの違いに内心で驚く。取り乱しもしなければ、喜びもしない。今までには無かったタイプだ。


彼の冷静さに頼もしさを覚えつつ、ここで関係を悪化させてはならないと正直に目的を伝える。



「それはですね、我が国の為に――――」


「ああ、もういいわ」


「へ?」



だが、そんな大臣の目論みはあっさりと外れ。


次の瞬間、彼らの視界は紅に染め上げられた。




◆◇◆




燃え盛る王城から一人の青年が出てくる。



「あーあ、かったりぃ。クソみてぇな組織にクソみてぇな所まで連れられちまった。全く、なーにが我々の為だ。そんな下らねぇ事で俺を呼ぶなよ」



背後では大きな火の手が上がっていると言うのに、彼は異常なまでに平常だった。そこらのコンビニに行った帰りとなんら変わらない雰囲気を纏わせ、欠伸をしながらパニックの起こった街の中を歩いている。



「あー……レンガ造りの建物に敷き詰められた石畳。まさかこんなところにATMなんてねぇよなぁ。クソ、マジで一文無しかよメンドくせぇ」



いくら炎が燃えていようと彼には関係の無い事である。何故ならば、彼は異世界において最強の炎術師だったのだから。


城から立ち上る巨大な炎すらも彼の支配下にある。彼が小指を動かすだけで、この街を炎で覆うことすら可能なのだ。実際、以前のの世界においても一つの街を攻め滅ぼした事すらある。その時も彼は今と一切変わらない表情を浮かべていた。


そうしてついた名前が『獄焔』。地獄の奥底で燃え盛る焔。全てを焼き付くす、終わりの炎。



「はぁ……さっさと帰り方見付けて寝るか。こういう大冒険は俺じゃなくて主人公に任せろっつーの」



異世界に飛ぼうが、『獄焔』に変わりはない。地獄の終着点が変わっただけの話だ。


彰人は今日も、かったるいと呟きながら全てを灼く。

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