第35話 彼にもわかる彼女の変化

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 初めてゴムつけずにしてから……明らかに千愛(ちあ)が変わった。

 えっちになったというか。

 素直に楽しむようになった、というか。

 前ほど避妊についてうるさくなくなってきて。

 気持ちよすぎてつい流されそうになるから、俺自身が気をつけるようになった。

 それでも……わかる。


 前より濡れるし、早くなった。


「ん……んぅ」


 甘えるように腰の上で身じろぎして、首筋に顔を埋めてくる。

 唇が擦れるだけじゃない。

 わざと吸い付いてきて、痕をつけようとする。

 学校に通っていた頃はめちゃめちゃ警戒してたくせに、今ではむしろ率先してつけにくる。


 間違いない。千愛がえっちになった。

 指を動かすのに腰を合わせてくる。

 夢中だ。すげえ。夢中だ。

 前は冷めてたのに。


「もっと……」


 耳元で囁く声は熱にうなされているみたいで。

 ぎゅううと、締め付けてくる中の感触は本気で。


 ゴムをつけて繋がったら、もっと露骨に身体を動かす。

 まだ……千愛がえっちになってからの経験が少なくて。

 そういうの、お互いに慣れてないから。


「あぅ……」

「待った」


 抜けちゃったり、キスしてても歯がぶつかったりする。

 下手になったみたいだ。


 違うな。


 ……ごまかして、相手に合わせていたけど。

 本気でするようになったから、下手だったのがお互いに明らかになっただけだ。

 薄型の壁越しでも、千愛が貪欲に俺を求めているのがわかるし。

 しがみついてくる力も本物で、だから正直痛くもある。


 なのにそれに興奮して、俺もがつがつ求めずにはいられなくて。

 一回終わって外したら、たまらず舐めてきて。

 大きくなったらすぐに入れられて。


 隙間なく。

 上も下も、その間も。

 みっちり繋がって、吸い付いてくる。


 世界で認識するのはお互いの熱と気持ちよさだけ。

 だからここは俺と千愛にとっての世界の中心。


 ここには愛しかない。

 けだものにもどった俺たちは本能に忠実。


 それだと――……今の俺たちには早すぎる可能性が生まれてしまう。


 なのに。


「コウ――……コウ、もっと」


 甘えてくる彼女が愛しくて、愛らしくて。


 物理的な距離を作らない限り、俺たちは飽きることなくお互いを求めるのだと思った。


 ……こんなにえっちが気持ちよくて。

 これほどまでに千愛が可愛いなんて。


 焦る。


 もっと、これ以外で可愛いと感じないと。

 ……きっとずっと、溺れてしまうに違いないから。


 ◆


 真夜中、ふと目が覚めた。

 繋がったまま、夢中で脱ぎ捨てた服が床に散らばっている。


 俺の腕の中で千愛は気持ちよさそうに寝息を立てていて。

 えっちの最中から今もまだ――繰り返すけど、繋がったまま。


 正直……中に何回出したか思い出せない。

 このままじゃやばい。よすぎるからやばい。

 自制するには、千愛が可愛すぎて難しい。


「それだけ……じゃ、ないよな」


 ため息が出る。


 前よりもっとずっと、千愛を愛してる。

 たぶんきっと、千愛もそうなんだと思う。


 旅が俺たちを変えていく。

 深まれば深まるだけ、お互いを求めあわずにはいられない。


 でも俺たちはまだまだガキだった。


 だから油断していたら、帰った頃には結晶が……なんてことになりかねない。

 いやいやいや。


「だめだろ。それはだめだ」


 静岡で働いてみて実感したけど、今の俺には千愛と二人でいるのが精一杯だ。

 なんとかなるかもしれないけど。なんとかなる範囲でしかない。


 もっとちゃんとしないと……。

 きもちいいけど。きもちいいんだけどさ。

 それに見合っているのは愛だけで。


 愛だけじゃ足りなくて捨てられる人が世の中にはいるのだ。

 何より千愛がよくても、親父さんたちが許さないだろう。

 それじゃきっと、みんな不幸になるんだ。


 自分に流されてる場合でもねえんだよな。

 寝ている千愛を見れば見るほど感じるよ。


 俺には足りないものが山ほどあって。

 それは適当にさぼってた勉強とか、授業とかすら含まれるし……。


 ずぼらに放置してきたあの家のすべてが、今の俺そのものなんだって。

 ……ちゃんとしていた母さんは俺より凄かったんだ。

 やっと……認める事が出来た。


「……気づくの、おそくてごめんな」


 寝ている彼女を抱き締めて、静かに決意した。


 明日は一気に広島に行こう。

 帰ったらやりたいことが山ほど出来たから。




 つづく。

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