第22話 無事でいられるわけもなく

 22...




 だるおもい……。

 けど妙にあたたかい。

 目を開けると、


「くう……ぐうう」


 コウの顔がすぐそばにあった。

 腰に腕が回っているだけじゃない。

 五感に訴えてくるのは匂い。


 なんでだろう。

 コウからお酒の匂いがする。

 お父さんが好きだからわかる。

 間違いなく、コウからお酒の匂いがする。


 普段はかかないいびきも多分そのせいだ。

 お酒を呑んだお父さんのいびきは相当だから。


 にしても……参ったな。


「そんなに強く、抱き締められても」


 トイレに行けないじゃない。

 なんとか腕を外して、暗い部屋を見渡す。

 カバンに這い寄って小物入れを取り出して……


 ◆


 布団に戻ってコウの腕の中におさまる。

 背中を預けるようにして、瞼を閉じる。


 腕にのせるのは頭で。

 こうしてくっついていられるのは、ただただ幸せ。


 だから……寝ていてくれてもいいのにな。


「ん、んぅ?」


 背中越しにコウが少し動いた。

 意志をもって腕が動く。

 彼の手が辿り着いたのは、胸。っておい。


「もしもし? 最初にそれはないのでは?」


 手を引きはがすよりも、コウが触ってくる力の方が強かった。

 そんなところ強引じゃなくていいのに。


「ちあ……」


 触ろうとする力は強いくせに、撫でる力はそうでもない。

 初めての頃に比べると、コウの手つきはだいぶ……その、なんだ。

 なんですかね。いやじゃない。


「ちあ……」

「なに、もう、なに」

「いいから」

「よ、よくない! お酒くさいし」

「気のせい気のせい」


 妙に熱っぽい声。

 耳元で出されても困るし、手は動き続けるし。

 腰まで押しつけてくるし。


「あのう。今日はちょっと」


 必死に手を引きはがそうとするんだけどだめ。

 腰を引き寄せてきて、何がしたいのかもう丸わかりで。


「こ、コウ?」

「したい」


 たった一言、それをいうなんて。


「ちょ、」


 腰を抱いている手が。手が。


「よ、汚れちゃうって」

「いい」


 ちっともよくないんですけど!


「まっ、待って、今日はだめだから」

「いいから」


 目が! 目が据わってますけど!


「いやなら言って」

「そんな言い方ずる――」


 文句を言おうとした口を塞がれる。

 割って入ってくる熱も、感触も。

 たった一つの意志だけが宿っている。


 簡単な拒絶じゃだめで、けど考える余裕もない。

 こういう時に限って保体の授業で先生が言ってたことが浮かんでくるし。


 もやもやするし。いらいらするし。

 ……もやもやするし。


 唇が離れたら、すっかりあがった息を吐き出して言う。


「中は、いいから。それ以外なら、なんでも、ね?」


 嫌がられたらどうしよう、なんて。

 強引にされたらどうしよう、なんて思ったけど。


「じゃあ、めいっぱいキスする」

「ふぁ――」


 据わった目つきで抱き寄せられました。

 腰に回っていた手も沈静化。胸の手はむしろ暴れ気味だし、もう片手も合流したし。


 長い。長すぎる。

 台詞にしたらひどいことになる。そんなレベルで長い。


 酔ってる。絶対酔ってる。

 こういう時じゃないとこうじゃないのどうなの、って考えるくらい……

 あたしも頭がゆるんでる。


 やっと離れた口で何を言うかと思ったら。


「いつもしてもらうばっかだから、今日は俺がする」


 で。めいっぱい優しく、いつも以上に熱っぽいから油断した。


「いい?」

「……うん」


 ちょろい。ちょろいあたしちょろい。

 そしてすぐに後悔した。一度許したらもうだめだって。


 コウの頭が腰に向かったのです。


 そりゃあもう。

 お父さんに教わった技を全力で駆使して撃退しました。


 無理だよ。無理。それはないよ。


 だからってコウを気絶させたのはやりすぎだった。

 まあ、その……


「お、おやすみ?」


 返事はない。

 ただ気絶しているようだ。




 つづく。

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