えっちからあいへの進み方
しお
第1章 ふたりの進めない理由
第1話 えっちはいいけど付き合うのはだめ
1...
好きな人がいて、告白したのに真剣に受け取ってもらえない。
そんな経験はないだろうか。
「またむつかしいこと考えてる。ねえ、コウ」
雪野千愛(ゆきのちあ)、幼なじみの声は掠れ気味で、上擦っていた。
「……集中しないならやめるよ」
千愛の顔を見て、真剣に考えてしまう。
それもそのはず。
今、彼女は俺とまさに合体中。
制服はそのまま、パンツだけ脱いで千愛は腰を動かしている。
ここまできたら普通付き合ってるじゃん、と。
千愛がビッチだったらそうではないけど、お互い初めて同士で浮いた噂一つなし。
なら、当然そうなるはずだ。
付き合っていてもおかしくないって。
そうなっておかしくないはず。
少なくとも俺はそうなんです。
「俺たち……なんで付き合ってないんだっけ」
しおしおになっていく俺を半目で睨み、彼女はひどく面倒くさそうにため息を吐いた。
熱が離れていく。気持ちよさと一緒に、ぜんぶ。
「肝心なこと、大事な言葉をもらってないから。それともなに? 今日の挑戦、する気になった?」
「挑戦って?」
「あんたから言い出したんでしょー。泣いて土下座して、えっちさせてって言ったのはどこのどなた?」
「俺だ」
悲しいことに事実なんです。
「そのいま思い出した、みたいな顔しているあんたに質問。えっちする条件はなに?」
「……他の女子といちゃつかない。キスはNG。千愛だけ大事にする」
「それじゃあ挑戦の中身はなんだっけ?」
「えっちするのはいいけど、付き合うのは……千愛が認める一言を言うまでお預け」
「はいよろしい」
後始末を手早く済ませるとぱんつを履いて、ウェットティッシュで手を拭いて。
「それで?」
それから再び腰の上にのっかってくる。
だけじゃなく俺の肩に手を置いて、顔を覗き込んできた。
くりくりした大きな目に俺の「めっちゃ困ってます」という顔が映っている。
「ほらあ。いってみ? さん、にい、いち……はい!」
「……好きだ?」
「ざんねん。それじゃ動かないんだなあ」
悪戯っぽく笑うと、俺のほっぺたを両手でむにっと摘まんで、それから抱きついてきた。
別に千愛が好きでしているんじゃない。
行為が終わって帰ろうとする千愛を引き留めるために抱きついていたら、一ヵ月もする頃には彼女の方から抱きついてくれるようになった。
それだけだ。
なんていうか……あるよ? ある。甘やかされている自覚、みたいなのが。
「明日も来てくれる?」
そう聞くと、おかしそうに笑われる。
「なんで千愛は俺を甘やかしてくれんの?」
「さあ。それがわからなきゃ、挑戦は成功しないと思いますよー?」
俯いて、視線だけで見下ろす。
肩口にかかるくらいの、触るとふわふわな髪を撫でる。
一度撫でただけで、千愛はびくっと身体を震わせて飛び起きた。
真っ赤な顔をすぐに手で隠して言うのだ。
「そういう恋人っぽいのはお預け」
「えっちはいいのかよ」
「ただの幼なじみから、えっちありの幼なじみにレベルアップな」
いやいや。
「それどうなんだ」
「泣いて土下座して頼んだお前が言うな」
ごもっとも。
「じゃ、帰るね」
そう言って部屋を出て行ってしまう。
いそいそと後片付けをしながら、ため息を吐いた。
泣いて土下座してえっちさせてもらって。
お前じゃなきゃだめ、みたいな。
そんな、しょうもないエロマンガみたいな挑戦を乗り越えた俺は、その手前に越えるべき「告白して付き合う」ハードルを未だに乗り越えられずにいる。
相手は千愛以外あり得ない。
本当は告白の内容だって違うはずだった。
付き合おうと思ったら、その時はちょうど突然降った雨の帰り道で。
千愛のブラウスが透けてブラが丸見えで。
なにそれ、超えろい! と思って口から出たのが「えっちさせてください」で。
引っ込みがつかなくなって情けなさのあまり泣いただけなのだ。
「いいよ」
そう言われなかったら俺の「千愛が誰かに言ったら即死確実な俺の過去エピソード帳」に新たな記述が増えるくらいで済んだのに。
しちゃった。
え、あれ? OKなん? OKってことはどういうことなん?
実は経験豊富なん?
え、なにそれ。お前俺に黙ってそういうことしてたん? とか思いましたよ。
千愛のヤツ、めちゃくちゃ初めてでしたけど。
普通に痛がられて、俺も実は結構痛くて「きもちよくなるまでは付き合う、OKした以上は」なんていう千愛の覚悟に付き合っているうちに……これだよ。
なあなあのセフレ状態。
そういうとすごいことのように思えるけど、でも繰り返すけど俺も千愛もスクールカースト上目立つヤツじゃない。
結局大事でもどかしい関係がよりこじれただけっていうね。
千愛に言うと決まって「考えすぎ。だからだめなんだよ」とバッサリ切られる。
なあなあの告白もNG。
千愛が満足いく告白が出来なきゃ付き合えない。
でもえっちしてんだよ? これ以上特別な何かって、なんかあるのか?
俺にはさっぱりわからないんですけど。
ただ……えっちすればするほど思う。
もっと普通に、恋人っぽいことをちあとしてみたい。
たくさんえっちしても、どこかいまいちで。
それはきっと、愛がないからじゃないか、なんてことを俺は本気で思うのだ。
そう言うと千愛は決まって「童貞くさっ。きもっ」と言い返してくるので、もう言わないけどな。
つづく。
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