ハーレム・オブ・ザ・デッド
和銅修一
第1話 死神との出会い
とある国にサーカス団が来たという噂を聞きつけて少女は急いでそこに赴き、ある男と再会していた。
「お久しぶりですね■■■。どうやら上手くいっているようで何よりです」
「姫様……。それはもう捨てた名です。今はしがないピエロですよ」
「ふふっ、やはり行かして正解でしたね。あの頃に比べると目に光が灯っています。貴方に必要だったのは私ではなく、人々の笑顔だったみたいですわね」
「これも姫様のお陰ですよ。それにしても今日はどうしてここに? まさか俺に会う為だけに来た訳ではないでしょ」
「いいえ、貴方に会う為に来ましたよ。それと最後の挨拶に」
「最後の?」
その意味ありげの発言に反応したが、時既に遅く彼の心臓には刃物が突き刺さっていた。
気を保つのが精一杯で男は跪き、姫様と呼んでいた少女を睨みつける。
「こ、これは一体」
「許してとは言いませんわ。こんな事をされて怒らない人間なんていませんから。ですがいつか必ず私が正しかったと知るでしょう。ではしばらくのお別れです」
彼が一番恐ろしいのは死ではない。
過去してきた事を考えると自分はいつ、だれに殺されてもおかしくはないし仕方のない事だと思っていたからーーだが、昔から知っている彼女がまるで悪びれる様子もなく刺してきた事が最も恐ろしい。
謎は残るが俺には関係ない。
自分の体は自分が一番知っている。俺はもう死ぬのだ。
***
死後の世界。
人間は何故かそれがあると信じている。
それは誰もが死を恐れている証拠だ。死んだ後の保険を生きている内にかけているにすぎない。無論、俺以外にも信じていない者いると思うが今だけは信じてみたい。
「起きて」
この世界には自分一人しかいないのではと不安になるほどの暗闇で少女の声が聞こえた。その声は冷たく、まるで感情がないかのようだ。
どうやら目を開けられるようで起きてみるとそこには先ほどの声の主である少女がこちらをじっと見つめていた。
黒いマントを身に纏った少女は黒い髪と黒い瞳に、それとは正反対の白い肌が特徴的な美しい少女で数秒魅入ってしまった。
「ここは……地獄か?」
俺はナイフで刺されて死んだはず。
それなのに体は無傷で、感覚がある。
「いいえ、地獄ではないわ。貴方が死んだのは確実だけど」
淡々と重要な事を口にする少女。
しかし、その言葉は自然と受け入れられた。
「死んだ……か。まあ、そうだよな」
「珍しい。普通は死を受け入れないのが多いのに」
「昔やってた仕事上、多くの死に関わってきたからな。それに俺は死んで当然の人間だ」
そう、死んで当然だ。何で姫様が俺を殺すに至ったかは分からないけど文句を言えない事をしてきた。それにここで騒ぎ立てても生き返るわけでもないし。
「魂は皆平等、死んで当然なんて者はいない。でも、貴方にはこれから働いてもらう。私の眷属として」
「何を言ってるんだお前」
「私は死神。貴方は死んで魂だけの状態となり、ここにいるの」
「そ、そんな馬鹿な」
死神というのも驚きだが、魂だけの状態とは信じ難い。この感じは生きていた頃と全く変わらない。
だがそれならば死んだ俺がこうしていられるのが納得出来るがあまりにも突拍子過ぎる。
「これが死神にのみ与えられし力、貴方に拒否権はない」
背中に突如として少女の両脇に登場した黒い棺。
そこからは肌がピリピリするほどの殺気が感じられる。
「その棺で俺を力ずくでどうにかしようってか? 自慢じゃないが戦闘では負けないぞ」
「争う気はないわ。それとここにいる間はここのルールに従ってもらうから」
「ルール?」
「まずここが何処かを説明した方が早いわね」
と近くにあったスイッチを押すと天井の灯りがついて自分がいる場所が明らかとなる。普通の一人部屋でどうやら暗かったのはカーテンが閉められていたからのようだ。
そしてそのカーテンを少女が開けるとそこには見た事のない光景が広がっていた。
「ここはゲヘナ。罪のある魂の牢獄」
そこは地獄ではないが、後に彼に相応しい場所なのだと知る事なるが今はただ混乱し、その美しくも不気味な街を見渡していた。
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