future story-1(2)


花火の余韻も冷め、皆もすっかり寝静まった頃。時計の針は0時をとうに過ぎ、夏特有の暑さを残しながらも心地よい風が吹いていた。虫の音と波の音だけが辺りに静かに流れている。


寝静まった皆をよそに、俺は1人寝床から起き出して来て物音に気をつけながら手荷物を探り、目当ての物を持って縁側へと向かう。ぽんと放り出されたままの下駄を履いて家の庭の脇から砂浜へと出た。


空は深い藍色にきらきらと泡を散らしていた。虫の音は遠のき、波の音だけが大きく、しかし優しく辺りを包んでいた。


俺は家から離れるようにして砂浜を歩く。旧民宿街の辺りまでくると50センチくらいの棒に赤いリボンが巻かれたものが目に入った。俺はそこに先程から手にしていた物を放った。ぽすっと音がした。それは小さな線香花火だった。



「今年も、キミの好きな線香花火を、しようか。」


誰も聞く者のいない砂浜で、そういって俺はろうそくに火をつけた。


袋に10本ほど入った線香花火に次から次へと火を灯す。

相変わらずすぐに燃え尽き、瞬く間に本数は減っていった。


「綺麗だな。」


言葉が口からこぼれた。本当にそう思った。キミが言っていた、儚くて綺麗だという線香花火。じゃあ俺は、今は一体どっちのことを言っているんだろう。それももう分からなくなりつつあった。あまりに時が経ち過ぎた。


それでも、俺は線香花火だけは他の人とはしないと決めていた。今日みたいに誰かを多少傷つけたり、がっかりさせてしまったとしても、自分の中で譲れないたった1つのことだった。


キミと交わした約束。来年も一緒に花火をしようね、とキミは言った。それから時は経った。叶えられぬ約束を胸に夏を越えてきた。花火をした夏もあった。でも、線香花火だけは、キミが好きな線香花火だけは俺にとって特別な存在だった。キミとの約束を果たせていない今、これは俺の心ばかりの反抗だった。


最後の1本がパッと明るく火を燃やす。それもまたすぐに、淡い光へと変わっていった。


きっと、俺はこの儚くも強く綺麗なこの光を独り占めしたかったんだ。


淡い光の瞬きは、実際はほんの数秒だっただろうが、幾分か長く感じる数秒だった。


それから、今年は新しく持ってきた40センチくらいの棒に途中で拾った大きな貝殻を緑のリボンで結びつけて、その場を後にした。

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