第2話豊家の顔

豊家の顔といえば言うまでもなく太閤秀吉であるが

この頃関白職を譲った甥の秀次が京、宮中での対外的な顔であった。

しかし二人の顔はもはや別人で秀吉のそれは嫉妬、猜疑心、秀頼の今後の心配で

やつれ蛇のように眼光鋭く、口は今にも人を食いちぎらんと開いていた。

その相手は秀次であり、秀次の顔は殺されるかもしれない恐怖で蛙のごとく

目を閉じ地中(城の自室)に引きこもっていた。


利休の二の舞じゃ。


ずっとつぶやいていた。

利休とは言うまでもなく千利休。

わびさびという質素を旨とした茶道の体現者である。


利休、そちはこの太閤秀吉に対抗しておるのか


秀吉は金の茶室を創り、衣も派手であった。

北野大茶会

北野で開かれた東京ドーム数個分の広大な敷地における秀吉と利休の戦いであった。

かたや集まった人に権力、金力を見せつけたい秀吉の黄金の茶室。綺麗な女性たち。

かたや黒衣に身をまとい人も集まらなそうな土壁の茶室。

しかし当日行列は茶道の権威の茶を見たい、

黄金は褪せるが、侘び寂びの心にふれたい、

そんな人の心が利休の土壁の前にならばせた。

利休は凛とした顔で客をもてなす。

前の客は秀次。武将が並ぶ。


朝鮮しかない。褒美をやらねば。


殺意、嫉妬、性分であろうだれが敵でだれが味方か。


皆味方であるのに。。

利休は秀吉に質素倹約せねば豊家が滅ぶことを

商人上がりであるが故に知っていた。

その戒めは秀吉には届かなくなっていた。


新年のお祝いにに豊家の面々が訪れた。

もちろん秀吉が首座に座り

傍らには形式上大政所が座る。

茶々は秀頼とともに体調が優れぬと淀城に引きこもったままである。

秀次もまた恐怖心から引きこもっていた。

顔が見えぬ相手は好意があるときは想いは募るものだが

不明、もしくは敵意に変わったとき顔が見えねばその敵愾心は倍加する。

そこに不幸があった。


顔を見せたのは他に子飼いの賤ケ岳の七本槍の面々、といっても三成などは秀吉そばに仕えていたので出迎えるほうであったが。

そして茶々の幼馴染大野修理もまた淀城からの使者として大広間の謁見控え室に着座していた。

控え室の主役はというよりいつも衆人集まれば声の大きい豪快快楽な加藤清正が

中心に座っていた。

主題はこの頃はいつも朝鮮出兵の話であった。

以前の出兵の際兵糧弾薬の手配が遅く、それを指揮していた三成への不平不満であった。

ここにいるのはほとんど近江人であり口は悪いが同じ釜の飯を食って育った仲間への

叱咤激励でもあった。親しいからこそ憎しみも増すのであるが。


加藤清正は顔にでる。まっすぐな男である。この男が戦の面で今後を左右するようになる。

他の武将が清正の顔を見るのである。どちらにつくのか。

そんな中大野修理は小さくなっていたが耳は大きく誰が見方で誰が敵かを見定めていた。

そんな小さな修理を大きな清正が見逃すはずがない。


秀頼様はご健勝か!

はい。

今日はなぜ来られぬ。

お体の具合が悪く。。

なにお体がお悪いのか!

軽い風邪でござる。

ではご健勝ではないではないか!見舞いに参る!

床にはいっておりますれば修理が伝言仕る。

いや顔を身に見舞う!

平にご容赦を。

なぜそちが独断で断る!

平にご容赦を。

なにがご容赦じゃ!

平に


といいかけた途端清正の拳が修理を襲う。

ご容赦を。修理は控え室を抜け、淀城へ帰っていった。


どうしたのじゃその顔は!なにか殿下よりお咎めがあったのか?

茶々がこの幼馴染を気遣ったが修理は恥ずかしげに自室へと下がっていった。

修理はこのときの恨みを後に晴らすことになる。







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