第11話―王都と人材育成


 水谷才蔵24歳ことサイゾー・ミズタニは日本からの転移者である。今のところサイゾー以外の転移者に出会ったことも、その痕跡らしき物を見つけたことも無い。サイゾーは異世界で「出会い掲示板」を設立し、商会長として頑張っていた。


「サイゾー会長、会員の方がアドバイスを求めています」


 メガネでボブカットの少女がサイゾーの元へ報告に来た。


「そろそろ俺以外でもちゃんとアドバイス出来る人間を育てないとな」


 一応コニータや他の社員(会員と区別するため従業員の事を社員と呼んでいる)に任せることもあるが、まだまだである。今はフォローしつつも人材育成に励んでいるところである。ちなみにそれなりに育った人間は順次「麗しき女神亭」と「吹き下ろす山風亭」に送り込んでいる。あとは実地とマニュアルで頑張ってもらおう。


「こんにちはラブレロさん、相談だって?」


「ええ、何度か掲示板に書き込んでいるのですが、返事が芳しく無くて……」


「なるほど、一緒に考えてみようぜ。今はどんな内容を出してるんだっけ?」


「これですね」


 やや老け顔のラブレロはわら半紙を取り出してサイゾーに見せると、青年は眉根を寄せた。


「ああ……こりゃあ……あんまり良くないな。自分のマイナス要素を出すんじゃ無くて、プラス要素を出してかないと」


「それだと会ったときにがっかりさせるだけで……」


「まずは会うことから始めないとな。幸い出会いを求めてる女性は多いからな。まずはあんたのアピールポイントを押し出して行こうぜ」


「うーん……」


 いまいち乗り気で無いラブレロに親切に説明している途中、申し訳なさそうにコニータ少年がサイゾーに声を掛けてきた。


「親方……」


「親方はやめろ。何だ?」


「親方に相談したいというお客さんが……」


「コニーが相手をすれば良いだろう? あとお客様な」


「いえそれが、親方が良いって……」


 見るからに凹んでいるコニータに苦笑してサイゾーは片手を上げた。


「わかった。ちょっと待っててもらってくれ」


「ふぁーい」


 先ほどまで話していたのだろう客の所まで戻ると二言ほど話してからカウンターに戻っていった。


「そろそろ基礎くらい覚えてもらいたいもんだがな……、おっと失礼。この文面なんだが……」


 サイゾーがラブレロと掲示板用の文面を議論している時、ずばーんと大きな音が酒場を突き抜けた。


「なんだなんだ?」


 驚いて音の方向を慌てて振り向くサイゾーと、酒場の隅で女性グループと雑談していたエルフのB級冒険者であるディーナ・ファンネルが素早く立ち上がり、音を立てた人物を見て……そして絶句した。


 白が基調のゴスロリドレスに身を包んで乗り込んできたのはこの国の王女の一人であったのだ。まさかレイピアを向ける訳にもいかず、サイゾーの横に移動するに留めた。


 当のサイゾーは苦笑しただけで、なんと王女を無視して椅子に座り直した。


「悪い悪い、続きなんだが……」


 サイゾーがレブレロとの話に戻ろうとした時、問題児が酒場中に響くように叫んだ。いや叫んだように聞こえた。良く通る美しい声なのが幸いなのか不幸なのか……。


「サイゾー! どうして妾が誰とも会えんというのじゃ!? これはお主の考えたシステムに問題があるからなのじゃ! 妾が出会えるシステムに変更するのじゃ!」


 ずんずんと早足でサイゾーの所まで歩み寄るシャルロット姫。後ろにはキシリッシュとメイドのメイアも付いてきていた。


「……ラブレロさん。ちょっとだけ待っててもらえるか?」


 ラブレロは何度も何度も頷く。その目はシャルロットに釘付けだった。サイゾーはゆらり・・・と立ち上がって振り向いた。


「良いかサイゾー! まずは妾用に特別な掲示板をじゃ……な……」


 マシンガンのように喋っていたシャルロットの語尾が途端に萎んでいく。その表情も枯れた薔薇のように引き攣っていく。


「な……なんじゃ……文句でもあるのかの……」


 振り返ったサイゾーは笑顔ではあったが、その目は全く笑っていなかった。黒い髪と黒い瞳がそう見せるのか、背中からどす黒いオーラが漂っているようだった。

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