第8話―王都と頭を抱える才女
マルティナ・ウルサイス17歳。すでにファインド・ラブの重鎮となっていた。間違いなく商会のナンバー2である。
その日、マルティナはいつものように郵便事業部が集めてきたメールや郵便の仕分け作業の指示を出す。最近はサイゾー会長やマルティナが直接手伝わなくてもそれなりに素早く仕分けが出来るようになっていた。本部は一時間ごとに戦場が訪れる。メールの集配が一時間に一度だからだ。
掲示板用の書き込みが店舗別に分けられる。
ここ「海が恋しいアホウドリ亭」。女性専用酒場「麗しき女神亭」。主に中高年や徒歩商人の集まる酒場「吹き下ろす山風亭」の三カ所だ。
女神亭と山風亭の分は郵便事業部がすぐさま担いで運んでいく。マルティナはいつも通りアホウドリ亭の分を手に取ると表の掲示板へと歩いて行く。現在男性用の書き込みは他のメンバーが必死にわら半紙に書き写しているところだ。女性の書き込みはまず、最優先で掲示板の黒板部分へと書き込まれる。
タイトルとニックネームと簡易情報だ。
慣れた手つきでマルティナは黒板へ書き写していく。それに合わせて酒場の男たちが集まってきた。返信は少しでも早い方が有利なことを知っているのだ。
(男は本当に馬鹿ばかりですね)
表情には出さずに白石を動かしていたが、最後の一枚で手を止めた。
(……一体どこの馬鹿ですか?)
マルティナはとうとうため息を吐いて、それは黒板に書き写さずにカウンター裏の本部に戻る。
壁際に並ぶ大量のファイルから一番新しい会員リンスとを取り出す。管理番号を探してこのふざけたニックネームを付けた人物を探す。そして。
「は?」
間の抜けた声に、書き物仕事をしていた何人かがマルティナに振り返った。そのくらい彼女から出るとは思えない間抜けな声だったのだ。
「どうかしましたか?」
「いえ、何でも無いです」
マルティナはファイルを持って自分の机に戻る。そして何度もその個人情報を見直した。
シャルロット・ガルドラゴン・ウォルポール。
本名も住所も本人であることを示していた。受付担当の印を見るとよりにもよってサイゾーの判が押されていた。サイゾーは時々間抜けなことをするが、こと仕事の事になればいい加減なことはしない。
さらに所在確認メールチェックもサイゾーであった。本会員証引き替えは本日で「麗しき女神亭」となっていた。
どうやらこの人物は今朝女神亭に訪れて本登録し、そのまま掲示板に書き込みをしたらしい。
マルティナは頭を抱えた。
だが全てのチェックをクリアしているのだ。しかも会長直々の。ならばマルティナのやるべき事は一つである。
こうして掲示板に信じられない書き込みがされることになった。
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タイトル「楽しい遊びに誘うのじゃ! 光栄に思
うのじゃ!」
ニックネーム「シャルロット・ガルドラゴン・ウ
ォルポール」
10代中・4月・人間・女・1区
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書き出された文字を見て、酒場中の男が絶句した。
◆
「なぜじゃ!? なぜ一通も返信が来ないのじゃ!!」
女神亭の一角で14歳には見えないロリっ娘が叫んでいた。
「シャルロット様……掲示板は必ず返信があるものではありませんから……」
ロリっ娘を宥めるのは全身銀色の騎士である。
「ならばなぜキシリッシュにはそんなに返信がきておるのじゃ!?」
近衛騎士になったばかりのキシリッシュは顔を引き攣らせた。姫様の命令で一緒に掲示板に書き込みさせられたのだ。
キシリッシュは考えた末に返信が無さそうなタイトルを考えた。
『友達と二人で来ている。短時間だけ食事を出来る方』
彼女の理屈では「二人」でかつ「短時間」さらに「食事だけ」という要素があればメールしてくる男性はいないだろうと思ったのだが、相変わらずキシリッシュは掲示板を舐めていた。
「よ……読み切れん……」
テーブルの上に積み上がったメールを見て思わず突っ伏してしまった。
「まあ良い。適当に選んでとっとと行くのじゃ」
「……は?」
「は? では無いわ! 食事にいくであろう? とっとと返事を書くのじゃ!」
シャルロットは適当に一通抜き出すと勝手にメールの中身を読んでしまう。
「こやつで良いわ。キシリッシュ! 返信するのじゃ!」
「あああ……」
キシリッシュは頭を抱えた。
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