第7話―お見合い
「……おう、そいつが俺の妹のアイリスだ」
ベランデッドの言葉に、サイゾーは首から錆びたような音を立てながら、ゆっくりと振り向いた。
すると彼の後ろに、観葉植物を挟んで、小さめの身体に赤茶っぽい髪の大人しそうな女の子が立ち尽くしていた。
「……妹?」
「いえす・しゅあー」
サイゾーが震える指で、少女を指さすと、ベランデッドは偉そうに頷いた。
「……なんか随分と若くない?」
「話したと思ったけど、年齢差がかなりあるからな。俺が成人した後に生まれたんだよ」
「そうだっけ?」
「ああ」
「……」
「「……」」
しばらく沈黙が三人を覆った。
「まあなんだ。アイリス、こっちに来い」
「は、はい……すみません」
「いや、なんていうか、こちらこそ申し訳なかったというかなんというか……」
アイリスがベランデッドの横に座る。サイゾーと向かい合う形だ。気まずい空気が三人に流れる。
「あー、じゃああとは二人でゆっくり楽しんでくれ!」
ベランデッドは投げ捨てるように言い放つと、慌てて立ち上がり、席を離れようとした。
「うをおおおおい?!」
サイゾーも慌ててベランデッドに縋り付く。
「お前! この状況で逃げるつもりかよ?!」
「ははは、俺は忙しいのだよ。妹は任せた! 好きにしていいからなー!」
「ふざけんな! ……うを?!」
ガタタンという音が上がると同時に、サイゾーの足が何かに引っ張られた。
「なんだ?!」
慌てて足首を見ると、いつの間にやらサイゾーが座っていた椅子と足首に紐が結びつけられていた。
「ちょ?! おま! 逃げるんじゃねぇええええ!」
サイゾーは半ばパニックで、椅子の脚から紐を下にずらせば外れることに気がつかず、自分の足首に堅く結ばれた紐をほどこうとして、結局ベランデッドを捕まえることが出来なかった。
「えーと……」
サイゾーがゆっくりと振り返ると、彼と同じようにアイリスも気まずそうな笑みを浮かべていた。
「ははは……」
言葉に詰まったサイゾーは、とりあえず日本人らしく作り笑いを浮かべた。
もちろん何の解決にもなっていなかった。
■
「えーと……とりあえず何か飲むかい?」
「は……はい」
「……何を?」
「サ……サイゾー様と同じ物を」
「お、おう……でも様はやめてくれ……」
「ではサイゾーさんと同じ物を……ダメですか?」
「いや、全然ダメじゃねーよ。店員さん! 紅茶一つ……いや二つ!」
気がついたら紅茶を飲みきっていたサイゾーはお茶を二つ注文する。無意識に冷めた紅茶を飲みきっていたらしい。
お茶を待つ間の沈黙が痛かった。ウェイトレスが紅茶を並べると、サイゾーはそれを速攻で口に運ぶ。
「あちっ!」
サイゾーは喉の渇きから、つい熱いままの紅茶を口にして、熱さに慌ててズボンに少しこぼしてしまった。
「あっ」
アイリスが慌てて立ち上がって、ハンカチを取り出すと、サイゾーのズボンにハンカチを当てて、水分を吸い取ろうと試みる。
「あ、あの! その! アイリスさん! そこは……!」
サイゾーがこぼした所、それは思いっきり股間の真上だったのだ。アイリスは自分がどこに触れているのかようやく理解して「ひゃう!」という声を上げて飛び退さった。
「すすすすすみません! 私! その!」
「だ、大丈夫だから。わかってるから……その、とりあえず大丈夫だから、座ろうぜ?」
「そ、そうですね……」
サイゾーは自分のハンカチを取り出すと座ってから、見えないように押し当てて水分を吸い取る。妙に恥ずかしかった。
「えっと……お兄さんは酷い奴だよな」
「そ、そうですね、自分勝手な所がありますから」
「困った奴だぜ」
「ええ……」
そうしてベランデッドをダシにして、少しずつ会話を広げていくのであった。
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