第12話―貨幣
「最近入り浸りだなぁおい、釘さんよぉ」
モイミール・ヤヴーレク。ニックネーム「もっくん」が、いつもの中途半端な高級服で入店してきたスパイク・ボードウェル、ニックネーム「尖った釘」に声を掛けた。
「こんにちはモイミールさん。皆さんこまめにメールをくれますからね、受け取りに来ないといけませんから」
「けっ……」
「……え?」
「……なんでもねぇよ」
モイミールは片肘をついてふてくされる。釘ことスパイクはまだ一度も掲示板に書き込みをしていない。にもかかわらずメールが大量に来るのは、今までにやり取りした女が、懲りずに何度もメールをスパイクに出しているということになる。
普通は仲良くなったら掲示板を通さずに直接の連絡手段を探す。でないと凄い勢いでポイントが減るからだ。だがそれでもその後に数回会えたら良い方だろう。
ほとんどの場合はその場でお断りされたり、それ以降の約束をブッチされて終わる。
それが釘様ときたらどうだ。会った女の方から、何度も何度もアプローチをかけてくる。これがイケメンパワーなのか?! モイミールだけではなく、バイエルやディックもその状況が面白くなかった。
何よりスパイクのせいで、返信率ががた落ちなのだ、怨みもしよう。
そんなダメンズの……いや、大半の男たちの恨みがましい視線に気づきもせず、スパイクは窓口に立った。
「やあサイゾー。今日はメールは来ているかい?」
「今日
「いや、広いテーブルの方がいいからこちらで」
「くれぐれも中身は他人に見えないようにな」
「承知しているよ」
スパイクは軽く手を振って空いているテーブルに座った。亭主に一番高いワインを注文する。ちゃっかりやたら高いワインを少量仕入れるようにしているあたり、以外に亭主もやり手なのかも知れない。
スパイクは一通一通丁寧に読み、かつその全てに丁寧に几帳面な文字で返信メールを記載していく。なおいつの頃からか彼は万年筆を持参するようになっていた。
「サイゾー、これを頼む」
「ああ……おっと、ラブポイントが足りないぜ?」
「それは失礼、いくらだったかな」
「それはこの表を見てくれ」
サイゾーが上質紙に書かれたポイント表を見せる。
ポイント購入額 購入ポイント数
100P 銀貨1枚
210P 銀貨2枚
320P 銀貨3枚
430P 銀貨4枚
550P 銀貨5枚
1150P 銀貨10枚(大銀貨1枚)
1650P 銀貨15枚
2300P 銀貨20枚(大銀貨2枚)
サイゾーの印象では銀貨一枚が大体千円ぐらいの価値だと認識している。
せっかくなので、この国の基本通貨と価値を記載しておこう。
小銅貨 1円
銅貨 10円
大銅貨 100円
銀貨 1000円
大銀貨 1万円
小金貨 5万円
金貨 10万円
大金貨 50万円
白銀貨 100万円
もっとも流通しているのは銀貨と大銅貨である。
最近は大銀貨を使う人間も多い。
なお、この国から両替商という商売は無くなっている。理由は国が全ての貨幣の価値を保証するようになったからだ。他国に流出しにくい様に、実際の価値よりやや少ない含有量なのだが、貨幣経済がまともに機能するようになり、問題視されていない。
「おや? 100ポイントが銀貨一枚だと、計算がおかしくないかな?」
「まとめて払ってくれたら、その分お得になってるんだ」
「なるほど、それは便利だが、随分とサービスが良いんだな?」
「まぁ、薄利多売だな」
サイゾーは苦笑しそうになったが、なんとか表情を崩さずに耐えた。
「それでは大銀貨二枚でお願いしよう」
「ありがとうございます」
サイゾーは大銀貨を受け取ると、手元の書類をざっと埋めた。
「じゃあ出しておくぜ。返信はいつも通りか?」
「ええ、くれぐれも実家には送らないでくださいね。もし一週間を過ぎたら、ポイントから預かりポイントだっけ? それを引いてくれて構わないからね」
「了解だ。今日は帰るのか?」
「ええ、これから待ち合わせがありますから。それでは失礼するよ」
さっと身を翻してスパイクはアホウドリ亭を去って行った。背後に怨嗟の舌打ちを背負って……。
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