第8話―「高まるではないか」
昨日に出会い掲示板ファインド・ラブの調査を命じられた堅物姫騎士、キシリッシュは上の空で仕事をしていた。
「あうっ!」
「え?! すまない姫――じゃないキシリッシュ」
それは模擬戦の最中に。
「あっ!」
「おぎゃああああ! 熱い! あっつぅぅううう!!!」
「すっすまない!」
それは食事時に。
ガシャーン!
「あ」
「貴様! 王から預かる大切な武具を落とすとは何事だ?! フル装備で王城を一周してこい! 全力だ! 駆け足!」
「は……はっ!」
それは管理庫の整理の最中に。
同僚たちが端から見ていて病気に違いないと思うほどのドジっぷりであった。たしかに彼女にはそういうところもあるのだが、今日は酷い、酷すぎた。
汗だくで戻ってきたキシリッシュに同僚の一人が声を掛ける。
「おいキシリッシュ……」
「すまない。私はもう上がる。用事なら後日にしてくれ」
「あ、ああ……そうだな。家でゆっくり休むといい」
「うむ。それでは明日」
珍しいことに定時に帰ろうとするキシリッシュ。普段の彼女であれば武具の手入れや掃除などをこなしてから帰る。
同僚たちはこう判断した。
「生理……かな?」
残念な同僚たちであった。
■
「ただいま帰りました……おい、何か預かってないか?」
キシリッシュは帰宅すると真っ先に、玄関に待機していたメイドに声を掛けた。
「はい。手紙をお預かりしております。お部屋の机の上に置いておきました」
「そうか」
キシリッシュは住所を登録する時、普段住んでいる兵宿舎ではなく、実家にしてしまったのを思い出して、急いでこちらまでやってきたのだ。
「あら? 明日もお昼からですか?」
廊下ですれ違った母親のピューレル・ソードに声を掛けられた。
「いえ、普段通りですが今日はこちらに泊まろうかと」
「それは良いですね。貴女はいつも宿舎にいますから……今後もこちらに戻るのですか? 朝食は一緒に出来ませんが夕飯くらいは一緒に取りましょう」
「……そうですね、それも良いかも知れません」
「まあ……今まで頑なに王城で勤めると強情を張っていたというのに……どういう風の吹き回しですか?」
「いや……その」
「いえいえ、理由は何でも良いのです。私は嬉しいですから」
「そうですか。ならば今後も出来るだけこちらに戻ることにしましょう」
「大変嬉しいですわ……少々用事がありますのでお夕飯は一緒に取りましょう」
「わかりました」
キシリッシュは一礼すると早足で自室へ向かった。その背中を見て、ピューレルは口元に扇子を当てた。
「何があったのでしょうね?」
■
部屋に戻ったキシリッシュは、はやる心を抑えて、手紙を開いた。
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大空を翔る荒ぶるペガサスです。
返信をいただきとても嬉しいです。
それではさっそくですが、お約束の日付でお会
いしましょう!
時間は昼前の11時で、場所は74地区にある
「踊る雄牛亭」にしましょう。
74地区の人間に聞けばわかると思います。
美味しい肉料理の店ですのでごちそういたしま
す。
仲良くなれることを期待しています。
それでは。
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封筒にはこのメールの他に、差出人のプロフィール用紙も入っていた。さらに別のわら半紙が同封されていて「念のためプロフィールをお付けしました。封筒に入れて一緒に返還してもらえると助かります。この紙は裏紙にでもお使いください」と書かれていた。まったく行き届いたことだと関心のため息を吐いた。
それにしても……。
「高まるではないか……」
それが期待なのか、もっと別の物なのかはわからないが、キシリッシュの期待は最高潮に達していた。
「ペガサスの君……」
うっとりと、その顔は恋を夢見る乙女の表情だった。
■
次の日、キシリッシュは王城を3周走らされた。
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