第7話―「それが何か想像もつかない」


 キシリッシュは狭いブースで「大空を翔る荒ぶるペガサス」様への返信メールを作成していた。


 さんざん悩んだ結果、彼女が書いたメールはは以下のようになった。


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 初めまして、私はキシリッシュ・ソードという

王宮騎士だ。

 ただ現在は王城と王宮を行ったり来たりしてい

る。


 男性の多い職場なのだが、周りは基本的に騎士

しかいない。

 王城に勤める騎士は皆真面目で勤勉。もちろん

私もそうだ。

 しかしそれ故に出会いという物が存在しない。

 諸事情でこちらの掲示板の事を知ったので、思

い切って登録してみた。


 貴殿の掲示板の書き込みを拝見し、興味を持つ

ようになった。


 今日は無理だが後日……三日後であれば時間を

空けられる。

 予定が合うようなら、一度お目にかかるのはど

うだろう?


 明後日までに場所と時間を指定していただけれ

ば対処出来る。ただし王都に限る。


 自分勝手なお願いだとは思うが、王都を離れら

れない騎士の宿命だと理解して欲しい。


 それでは返答を期待している。


            キシリッシュ・ソード

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 キシリッシュは正面の小窓をノックして、商会の従業員を呼び出した。


「よう」


「なんだ、サイゾーでは無いか。カウンターは良いのか?」


「今は新人がやってるよ……おいコニー! 規約が先だ!」


 サイゾーが怒鳴ると奥から「ふえええーい! 親方!」と情けない返事が聞こえてきた。


「商会というのはどこも同じだな」


「人手不足でね……。それで「待機」するかい? お相手は「待機」状態だぜ?」


「待機は三カ所の酒場のどこかでメールを待っている状態だったな……いや、報告もあるし今日は帰る」


「了解だ。相手の返信があればだが、明日中にはメールを届ける」


「私が聞いた話だと、民間の手紙配達業者は届くまで何ヶ月もかかると聞いたが」


「そりゃあ酷いな……。うちは完全に住所を管理しているし、速さが勝負なんだよ。それに……」


「それに?」


「実は郵便事業も考えている」


「ゆう……なんだそれは?」


「最初はこのわら半紙のサイズまでの封筒を一定料金で届けるサービスだ」


「それは民間の手紙業に手を出すと言うことか。随分とトラブルが多いらしいが……」


「ああ、送り手と受取手のどちらが金を出すのかとか、届かないとか、中身を抜かれるって奴だろ? うちはその点、メールの中身を覗くことさえ完全禁止、もしやったら速、冒険者ギルドに突き出して契約違反として罰金刑だ」


「確かに……ここまで徹底していたら、ここを使って手紙を出そうという人間も多くなるだろう」


「ああ、まずは74区画とその隣接区画からの予定だ。しかも利用料は大銅貨たったの一枚だ」


「なんだと?! それで成り立つのか……いや、それは今更だったな」


「切手システムを導入するからな……おっと今のは聞かなかったことにしてくれ」


「大丈夫だ、それが何か想像もつかない」


「なら良かった。……自宅に届いたメールだが、封筒は要返却だ。後日でかまわんがポストにいれるか窓口に渡してくれ。管理番号が振ってあるから空でかまわない」


「なるほど……この管理番号はそんなところにまで使われるのか……脱帽する」


「はは……終わりならブースを空けてくれると助かる、順番待ちが出来てるもんでね」


「ああ、それはすまない、それでは私は失礼する」


「またな」


 黒髪の青年サイゾーはラフな挨拶を残して小窓を閉めた。


 そうしてキシリッシュは王城に帰り上官に報告、その後王宮の王女へと報告した。


 出会い掲示板に問題なし……と。

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