第3話 幸福とは

その日はあまりにも突然だった。

幸せなはずの私の人生は急に崩れたのだ。

その日はいつも通りの日になるはずだったのだ。


 「ねぇ、あなた?今日の健診は歩いていってくるわ。運動不足はよくないから。」

妻の絵梨えりが私に言う。

私は、リビングで新聞を読みながら妻の言葉に耳を傾けていた。

「そうか。君一人の体じゃないから気を付けるんだよ。」

「あら、今日は何時に出勤するの?そろそろ家を出ないとだめじゃないのかしら?」

妻の話はコロコロ変わる。

それでも愛しい妻の話は聞いていて苦痛ではない。

もうすぐ子どもも生まれるし、会社はうまくいっている、人々がうらやむような裕福で幸せな家庭。私は本当に幸せだ。

「そうだね。斎藤、妻が家を出たら私にメールしてくれ。」

斎藤は、この家で働いてもらっている。

本当の名前は斎藤怜さいとうれい

料理以外の家事をしてくれている。

料理は絵梨がしたいと言ったから任せないことにしたのだ。

「それじゃあ、僕は仕事に行ってくるよ。」


 こうして私は幸せな家を出たのだった。

まさか、これが最後になるなんて思いもしないで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る