第18話 裕福の定義……
城の中は、正しく
床は……多分、元の世界で言うところの大理石みたいな石でできていて、ピカピカに磨き上げられている。
その中央に伸びる、踏めば沈み込む真紅の絨毯は豪華さを際立たせ、壁に一定間隔で備え付けられている金に光り輝く燭台は、穏やかな光を廊下に落とし込んでいた。
「燭台……ロウソクが無いのに炎だけが浮いてるのか?」
俺はその真意を確かめるべく燭台に近づく。
「油……があるわけでもないな……こよりもないし……」
となると、魔法か―――――――
俺は離れて据え付けられている燭台達を眺める。
ネートル村では見られなかった光景だ。魔法の利用は富の象徴でもあるのかもしれないな……
電気やガス、水道の普及率は先進国と途上国では雲泥の差だ。
この国がルクスにおいて、先進国なのか途上国なのかは定かではないが、途上国であったとしても、この城と、ネートル村の格差。
わかってはいたが富の一点集中が行われていることは明白。
「ん?」
俺の頬に、どこからか適度に冷やされた心地のいい風が吹き抜けて行くのを感じた。
天井を見上げてみても、煌びやかな装飾が目につくばかりで、空調の穴のようなものは見当たらない。
扉も……きっちり閉じられている。
空調まで魔法か……
働き手が連れていかれたせいで、明日の生活もわからない状況に自分の領地民が陥らされてるにも拘わらず、自分達は魔法を利用し、汗一つかかない場所で悠々自適暮らしですか?
ゾワッっと俺の中の”何か”が呼び起されそうになったが、ゆっくりとそれを沈めていく。
まだだ……何のためにアレを建造してるのかを確認しないとな。
それからでも遅くはない。
自分自身にそう言い聞かし、俺は廊下を進んでいく。
あてもなく廊下を歩いていくと、数多くの美術品を展示している場所があった。
彫刻に壺……裸婦画をみせたいのか、それを入れ込んでいる額縁をみせたいのか……どれもこれも煌びやかすぎて、俺には下品としか思えない物ばかりだ。
間違いない……これを良しとして展示している主は、悪趣味だ。
そして俺はある一枚の油絵の前で立ち止まった。
今まで見てきた中で一番”下品”な額縁に収まった、肖像画。
聞かなくても分かる。
こいつが”イーベル侯爵”だろう。
この人を不快にさせる笑み。たるみ切った頬……そして三重あご。
普通、肖像画を描かせる場合、3割増しくらいで美化させたりしそうなものだが……
こんななりで肖像画になることを良しとしたのか……それとも3割増しでこれなのか……
この人物あっての、この美術品達か……
俺はもう一度並べられている美術品をみる。
恐らくどれも高価なものなんだろう。
俺には理解できないし、理解したくもない。
「比べるのもおこがましいが……同じように壁に貼られた”あの”絵たちの方が、100万倍輝いてた。所詮こいつらは金を出せば手に入れることはできるだろうが、あの絵たちを真の意味で手に入れるには、いくら金を払ったって不可能だろうさ。つまり、あの村の方が”裕福”だと俺は思うがね……」
俺は背面に展示されていた過剰装飾の度をはるかに超えた剣を手に取ると、迷うことなくこの肖像画の眉間に突き立てる。
「ひどい剣だな……なんだ? この切れ味の悪さは……でも、よく似合ってるじゃないか……」
俺は駄作のコラボから生まれた、この新たな作品の出来栄えに満足すると、この場所を後にした。
外から見ていても広いとは思っていたが、本当にこの城、無駄に広いな……
目的の場所がわからないどころか、いまだに人と遭遇しない。
RPGのイベントで入り組んだ城の最上階に行かなければならないやつ位入り組んでる……
ゲームだと目につく扉を片っ端から開けていっても、中で遭遇した人物達が敵じゃない場合、世間話をして終わりだが……現実じゃそうはいかない。
兵士かメイドでもいてくれれば、いいんだが……
そんなことを考えながら二つ目の渡り廊下を抜けた先で、初めてメイドと遭遇した。
どうやら手分けをして、掃除をしている最中のようだ。
「すまない」
「はい? 何でございましょう?」
俺の呼びかけに、窓掃除をしていたメイドの一人が振り向き、固まった。
「どうした?」
「へぁ~」
「へあ? ヘアー? 髪に何かついてるのか? でも何で英語??」
俺は自分の髪に手をもっていくが、特に変わった感触はない。
「何を固まって……申し訳ありませんお客様……何か……」
次に床掃除をしていた方のメイドまでが固まった。
「なんなんだ? 流行ってんのかそれ??」
2人が俺を見て固まっているので、少し横にズレてみる。
すると俺の動きに合わせて視線はおってきた。
固まってないじゃないか……
「聞きたいことがあるんだが?」
こんなことをしている場合じゃないので、悪いが少しキツメの口調で呼びかけなおす。
「も、申し訳ありません!」
「失礼いたしました!」
2人はやっと目を覚ましたようで、深々と頭を下げる。
「いいよ。謁見の間に行きたいんだが、城が広すぎて場所がわからないんだ。どう行けばいい?」
「そ……それでしたら、このまままっすぐ進んでいただいて、二つ目の階段を終わりまで登ってください。その後、突き当りの通路を右に進んでいただくと、一際大きな扉が見えてきますので、そちらが謁見の間になります」
「そうか……ありがとう」
「いいえ。滅相も御座いません」
スタスタと言われた方向に進んでいくレオンをしり目に、2人のメイドはヒソヒソと話始める。
「え……すごいイケメンじゃない……?」
「うん……びっくりした……びっくりして固まっちゃった……」
「私も……」
「あんな人来てたっけ?」
「来てたら噂まわってきてない?」
「だよね……じゃあ今日いらしたのかな?」
「どれくらい滞在されるんだろう~私あの人のお部屋担当したい!」
「あ……ズルい……でも私が先にメイド長と面会あるもんね」
「ちょ!」
2人の盛り上がりが最高潮に達しようとしたその時、
「なあ!」
レオンが離れた位置から声をかけ、近づいてきているところだった。
「はい!?」
「は、はいい!!」
「もう一つ聞いてみたいことがあるんだが」
レオンが目の前にやってくるので、2人はかなり焦っているようだ。
「な、なんでしょうか?」
「2人は何でこの城でメイドをやってるんだ?」
「え?」
思いもよらない質問に2人は顔を見合わせる。
「ここの主は、君達が仕えるに値する人物だからここでメイドをしているのか?」
「それは……」
「え……」
この城で働いている以上、この質問の答えは決まっているはずだが、2人は言葉に詰まっている。
「教えてくれ」
レオンのまっすぐな眼に2人の口がゆっくりと開かれた。
「私達の家も一応貴族の端くれではあるんですが、今や没落貴族に名を連ねているんです……」
「私もこの子も奉公に出されてて……」
「奉公を出している家はかろうじて首の皮一枚つながりますから……」
「つまり、自分の家のためにここでメイドをしているってことか?」
「はい」
「ええ」
「そうか……なら、今から起きることを受けてどうするかしっかり考えろ。俺が言えることはそれだけだ。同じような境遇の者がいるなら、今の言葉を伝えといてくれ」
それだけ言うとレオンは踵を返し、謁見の間の方向へと姿を消していった。
「私達……こんな場所で何てこと口走ったのかしら……」
「うん……でも、あの目で見つめられたとき……なんでも受け入れてくれるような気がして……」
「あなたも?」
「今から起きることって……いったい何を?」
2人はレオンが消えていった方向から目を離すことができなくなっていた。
――――――――――
あとがき
電撃≪新文芸≫スタートアップコンテストの読者選考期間が終了いたしました。
読者の皆様のおかげで、読者選考を突破できたかな? そう思える状況で今を迎えられました。
何作が通過できるのかはわかりませんが、9月中に最終選考に進む作品を発表するとのことですので、読者の皆様にうれしい報告ができる事を願いながら執筆を続けていきます。
本当にありがとうございました。
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