第23話 これからのこと

俺達の呼びかけに村の皆は施錠を解き、家の外へと姿を現した。


フレムさんと村長の奥さんの元に女性が駆け寄り何か話している。


そして話の最後に全員が安堵の表情をとった。



「どうだ? 全員無事か?」


俺はフレムさんの元へと歩みを進め、声をかける。


「レオンさん。 ええ……丁度今確認をとり終わりました。レオンさん達のお陰で皆ケガもなく無事です」


「そうか。みんな無事でよかったな」


「本当にありがとうございました」


頭を下げながらお礼を言うフレムさんに合わせて、


周囲の村人達も頭を下げてくれる。



兵隊達が馬鹿でよかった……


いや、まぁそうなっても仕方ないとは思うが。


3人対1000人を超える兵隊の戦いだ。


普通に考えれば、驕るなと言う方が難しいだろう……


とんでもない名声や武勇伝を持つ武将や魔導師マジックキャスター


対峙したのなら対応も違うだろうが、俺達はついさっきこの世界に来たばかり。


更にはこんな辺境の村にそんな強者がいると考える方が難しいとは思う。


そのお陰で俺の挑発に乗ってくれて、村人達を後回し……


そういう対応をしてくれた。


仮に挑発に乗ってきてなくても村人達に手出しをさせはしなかったが、


気配の読み間違いなどで、少なからず被害が出てしまったかもしれない。


俺は安堵のため息を誰にも分らないようにそっと漏らした。



子供達の笑い声に振り向くと、リプスとイヴが子供達とじゃれあって遊んでいた。


守れてよかった……


自然と俺の顔が少しほころぶ。


「あの……レオンさん?」


フレムさんが控えめに声をかけてきた。


「どうした?」


「その……兵隊達はどうなったのでしょうか? 家の中までその……悲鳴などは聞こえてきていたので、想像はつくのですが……覚悟して家の外に出てみても……特に村の雰囲気に変化がないもので……」



なるほど。


フレムさん達は村中が血の海……


そして死体の山が築かれていることを覚悟して扉を開けてみたが、


そんな様子が微塵も見受けられないことに疑問を持っているんだな。


それもそうか……


ちゃんと覚悟もしてくれているようだし、


下手に追い返したなんて言う方がこの場合不安にさせるだけだろう。


より多くの兵を連れて戻ってくるかもしれないからな……



「全員殺したよ。 痕跡はこっちで全部消しといた。仮に捜索隊を出されても、この村にたどり着いたことはわからないだろう」


「ぜ、全員ですか!? それに痕跡まで……でも……そうですか……」


やはり覚悟をしていたのだろう。”全員殺した”という俺の言葉にも、


取り乱すようなことはしない。


そして、安心して喜ぶ……そんな表情もフレムさんからは感じることはできない。



「俺達が怖くなったか?」


1000人を超える人を殺した存在だからな……


そう感じたとしても仕方ないとは思うが。


「い、いえ! そんなことは。でも……そうですね……それだけ多くの人をレオンさん達が殺めたのは事実なのでしょうが、不思議とレオンさん達から恐怖を感じはしません。子供達もあんなに楽しそうに……」


今の尚2人と遊んでいる子供達を見て、フレムさんが微笑んだ。


「レオンさん達がいなければ、この村は終わっていました。ですが、あの兵隊達も同じこの国の人間なはずなのに……なんであんな選択をして、こんな結果にしかならなかったのかと思うと……手放しでは喜べませんね……」


フレムさんは残念そうに苦笑いの表情を俺に向ける。


村の皆がこんな目にあわされているのに、相手を思いやれる強さ……


「やっぱり俺はこの村の皆に関われてよかった……」


「え?」


ぼそぼそと話したのでフレムさんはあまり聞き取ることができなかったようで、


不思議そうな顔を浮かべているが、俺は言い直すことはしなかった。



「村の皆に声をかけてくれないか? これからのことを話したい」


「わかりました」


俺が話を切り替えたので、フレムさんも深く追及することなく、


村の皆の元へと向かってくれた。



ゲームのレオンと深い部分で繋がったとは言え、俺は元ただの高校生だ。


いきなり襲い掛かってきた魔導師マジックキャスターに龍。


野盗連中にモンスター、そして今回の兵隊達……


この世界にやってきて間もないのに、多くを殺してきた……


何も感じないという方が無理なこと……




な、はずだと思うのだが……


驚くほどに特に何も感じない……


ゲームの”あの”設定のせいなんだろうか?


それで行くと、もう俺は人……というか、エルフ、ダークエルフ、人魚など……


それだけじゃない……”生物”としての括りからも出ている可能性が高い。


そのせいで生物を殺しても何も感じないのだろうか?


俺が高校生だった頃の想いは間違いなくある。


しっかりと根付いている。


家族への想い、あの出来事……そこから生まれた悪を憎む心……


俺は間違いなく”レオンオレ”だ!


しかし、ゲームのレオンだって俺が操っていた。


つまりはゲームのレオンも俺なんだ。


だからこそゲームのレオンともこんなに深く繋がっていられるんだろう……



今まで襲い掛かってきた”人”については


悪だという認識が間違っていない自信はある。


その為あれほどの怒りを感じた。


しかし、その怒りが収まった時……


悪だとしても殺したことについて何も感じなさ過ぎて不安になったのも事実だ。



だが、フレムさんの先程の振舞いをみて自信を持ちなおせた。


大丈夫……俺の想いには間違いはない。


この村の人達を救えたことこそが善であり、あの兵隊達は悪。



高校生だった頃の俺……


あの政治家を殺したいと思わなかったかといえばウソになる。


一日中殺したいと思い続けた日は一日や二日ではない。


だが……そうはしなかった……


それは俺が、ただの高校生だったからだ。


手段がないという意味で言っているんじゃなく、


やはり、


”人を殺す”


そんな行動を起こす選択を高校生の俺では選びきれなかった……



それが今、”殺す”という選択肢に迷いはない。


だが、主軸にあるのは高校生だった頃の俺のはずだ……


自分で考えながら良く分からなくなってきたな……



元の高校生の俺が主体のままでも、


例えゲームのレオンが主体であっても……


俺は”俺”だ!


俺が”俺”であるために……俺が思う悪を裁いていく。



善を食い物にする悪が許せない――――




「…………様? レオン様??」


「ん?」


「どうされましたか?」


俺が考えにふけっている間に村人をはじめ、


子供達と遊んでいた2人も集まっていたようで、


リプスが心配そうに声をかけてきた。


その傍らには、やはり心配そうに覗き込むイヴの姿もある。


「ああ……すまない。ちょっと考え事をな……」


「私共が力になれることでしたら何なりと御申しつけ下さい」


「うんうん」


俺は2人の頭にやさしく手をのせると


「大丈夫だ。たいしたことじゃない。何かあればその時は頼りにさせてもらうさ」


そう言いながら微笑む俺に、


「かしこまりました」

「絶対だよ?」


2人がそれ以上追及してくることはしなかった。



そんな2人を引きつれて、フレムさんと村長の奥さん、


村の皆の元へと向かい声をかける。



「フレムさんから聞いたかもしれないが、さっきの兵隊達は全て俺達が始末した。痕跡などは全て消しているから心配しなくていい」


村の皆もやはりフレムさんと同じような複雑な表情をとりはしているが、


全体からほっと胸を撫で下ろした様な雰囲気は感じられる。



「そして集まって貰ったのはこれからのことを話すためだ」


「これから?」

「なんだろうね?」


そんな声があちらこちらから聞こえる。


「あの兵隊達と村の皆のやり取りは見させてもらった。ここの領主との決別と言う選択……俺は正しいと思う」


この言葉に村の皆の表情がまじめな物へと切り替わる。


「領主との決別……それはこの村単体で生きていくという選択になるはずだ。まぁ話を聞いている分には領主による一方的な搾取だけで、見返りはなかったように感じはするが……」


俺のこの言葉に反論するものが出てこないので、まぁこれも予想通りということか。


「しかし、こんな状態で放り出されてもこの村に明るい未来あすが待っている……とは到底思えない」


村の皆の表情が少しかげる。


「心配しなくていい。元の村に戻るまでの手助けはする!」


「元の村って?」

「それって……」


「まず、食料や薬の確保。次に村の建物なんかの修繕。そして、家畜や田畑を整えなおす」


言葉を続けるほどに村の皆の目が輝きだす。


「そりゃ……それができれば夢のようだけどさ……」

「ええ……夢のようさ」


口々にそうつぶやく。


「でも……そんなお金が……」

「それに人手だって……」


夢はすぐ現実という鉄槌によって無残にも砕け散ってしまう。


「まず、お金だが……」


俺はフレムさんに視線を送る。


するとフレムさんは力強くうなづいてくれた。


「今俺が言ったことをすべて可能にするだけの金額は用意してある。これからフレムさんや村長の奥さんを中心にして、村の復興のために何を購入しなければならないかを話し合ってもらいたい」


「皆! レオンさんがおっしゃってくれたことは本当よ。十分な金額を頂けているの」


「そんな!?」

「本当なのかい!?」


仕方のないことだろうがやはり皆がざわつく。


「でも、そんなお金……どうして提供してくれるんだい……?」


1人の女性が恐る恐るといった感じで俺とフレムさんに視線を送ってきた。


「そうね……勿論、私もそのことをレオンさんにはお聞きしたわ。レオンさん……後で皆にもそのことを説明してもいいかしら?」


「ああ……かまわない」


フレムさんはうなずくと、


「レオンさんの許可も出たし、買うものを決めるときに私から説明するわね」


フレムさんのこの言葉に皆はしっかりとうなずく。



「そして……次の人手についてだが……」


「そうよ……人手が」

「……そうね」


物資がそろっても人手がなければ復興には繋がらない……


つまり……


「俺が領主のとこに行って、村の男達を返してくれるように話をつけてくる」


村の皆が一斉に驚く。


「そんな!? 危険だよ!」

「そうさ……いや……でもあの兵隊達を相手にできるほどの御力だから……?」

「それもそうね……でも、それにしたってあの領主が話を聞くとは思えないよ!」


「ちらちらとは聞こえてきたが……領主が話を聞き入れず……そして、男達を集めている理由が……だった場合。俺は領主を殺すだろう……そうなるとここの領主はしばらく不在となるが、そのことについてどう思う?」



「どうだろうね……」

「…………う~ん」


村の皆は顔を合わせて悩んでいる。


そんな中、やはり皆を代表して口を開いたのはフレムさんだ。


「正直難しいことはわかりません。レオンさんが先程おっしゃったように、村から徴集されることは多々あっても、領主側から施されることはほぼありませんでした……領主不在となれば外交などに影響が出るのかもしれませんが、自給自足のような生活をしていた私達からすれば……これと言って影響が出るとは……」


「それを聞いて安心した。なら最悪の場合、領主は始末する。そして……領主の元へは俺1人で行こうと思う」


この言葉に即座に反応するのが2人。


「なぜです!?」

「ええ!?」


まぁ予想はしてたが……


俺は2人の方を向き、しっかりと目を見る。


「2人には別に頼みたいことがある」


「頼みたいこと……ですか?」

「んに?」


ただ置いていかれるのとは違うとわかって詰め寄ろうとしていた2人の足が止まる。


「そうだ」


そしてまず俺はリプスを見る。


「リプスに頼みたいことだが、買い出しに付き合ってやってほしい」


「買い出しに……ですか?」


「ああ……わかってると思うが、この村には余裕がない。一刻も早く揃えた方がいいものがあるはずだ。例えば薬とかな。そのために俺が渡した大金をもって歩かなければならない……後は言わなくてもわかるな?」


「つまりは護衛ということでしょうか?」


「そういうことだ。買い込む量も派手だろうからな。そういった所からも目を付けられるだろう」


「確かに……」


「それと……鞄とアロクネロスも貸しとく。もし後を付けられるような事態になったら必ずまくか始末しろ。この村が大金を持っていると目を付けられるとまずい」


「心得ました」


リプスはしっかりとうなずく。


「ボクはボクは~~!!」


イヴの声に振り向くと、


イヴはピョンピョンと飛び跳ねながら俺の指示を今か今かと待ちわびていた。


尻尾も全力だ。


「おう。イヴに頼みたいことは、俺とリプスが留守の間……この村全体を守ることだ」


「村を?」


「ああ、そうだ」


俺はイヴと同じ目線になるように少しかがむ。


「いいかイヴ? ここにいる村の皆をイヴが守るんだ」


イヴの目をしっかりと見つめるとイヴも雰囲気を察したのかまじめな表情になった。


「フレムさんを守ったイヴの行動。俺は本当にうれしかった。今のイヴならきっとこの村の皆を守ってくれると信じている……その耳と鼻、第六感もフルに使い、この村に害をなす物か、そうではない物かをしっかりと判断し、危険を未然にふせいでやってくれ。できるな?」


イヴの耳がピンッ!!っと勇ましく起き上がる。


「うん! ボクできる!! レオン様の期待に応えてみせる!!」


「いい子だ」


ワシャワシャと頭を撫でてやるが、


既にスイッチが入ったイヴはいつもほどは喜ばなかった。


その代わり、使命感にかられた強い眼差しを俺に向けてくれる。



正直イヴは俺と一緒に連れていくことも考えた。


村を留守にする間、リプスの障壁を張ればいいかと。


しかし、元魔剣……魔銃だったイヴに”守る”と言うことを考えてもらうのに、


いい機会なんじゃないだろうか? そう考えた。


フレムさんを自らの意思で守った今のイヴならばきっと大丈夫だろう。



「それと2人に確認しておきたいことがある」


「なんでしょうか?」

「??」


俺は2人の耳元に口を寄せささやく。


「2人は俺からの力の供給のお陰で今の姿になれてると言ってたな?」


「おっしゃる通りです」

「そうだよ」


2人はウンウンとうなずく。


「今回2人は俺から距離をとる。どれくらいの時間でその姿を維持できなくなると思う?」


俺の言葉に2人は顔を見合わせながら少し考え、相談を始めた。


「…………じゃないかな?」

「ええ……そうね。私もそのように思います」


本当に外見はまるっきし違うんだが、2人を見てると姉妹……


そんな言葉が自然と出てくるな。


ひとしきり相談が終わった2人がこちらを向きなおす。


「何分この姿になったのは初めてのことなので、明確にはお答えできないのですが……」


「ああ、それは仕方ない。 大体どれくらい……そんな程度で構わないぞ」


「それでしたら……姿を変えた後もずっとレオン様からの御力を頂き続けておりしたので……3、4日で維持できなくなる……そんなことにはならないのではないかと思います。そうよね? イヴ」


「うん! ボク、レオン様にお会いするまですぐにお腹空いちゃってたから、その辺の感覚は確かなんだよ! 昔500体の生気を吸った時に1週間はお腹空かなかったから、桁違いのレオン様の御力を頂いてる今なら、そこまで心配しなくていいんじゃないかな?」


「なるほど……」


500体は……何を喰ったんだろうか?


まぁその詮索はしないでおくか……


「それを聞いて安心した。2人がその姿を維持できないんじゃ今回の頼みは最初から破綻してたからな。それに……」


俺は2人の頭の上に手をポンッと置く。


「神剣と魔銃の姿に戻ってしまったら自分達の意思で動くことは難しいだろう……それでも手を出せる奴なんていないかもしれないが、万が一だってあるかもしれない。村の皆も大切だが……俺はそれ以上に2人が大切だ。何かあった時は全力で俺を呼べ。いいな? 常に2人の気配には注意しておく」


この言葉に2人の整った顔がどんどんとニヤケ……ブチャイクになっていく……


そして……


「レオン様!!!!」

「レオン様~~~!!!!」


満面の笑みで2人が俺に飛び込んできたので、


俺はそのまま後ろに倒れ込んでしまった。


状況は違うが、前にもあったな……


リプス、イヴそれぞれが全力で俺に体をこすりつけ、


「レオン様! レオン様!! レオン様!!!」

「う~~~~! わ~~~~~!! はうわ~~~~~~!!!!」


それぞれが大興奮だ……



「ママ? お姉ちゃん達何やってるの??」


「え……エマはあんまり見ちゃいけません……」


「ま~昼間っから仲の良いこと!」


「まぁあんな美男美女のイチャつきなら目に毒じゃないわね」

「アハハハ! 違いないわね!!」



ここはあの洞窟の中じゃない……


村の広場だ……


恥ずかしい……



しかし、2人の興奮は未だ治まることをしらない……


そして俺はこの2人から逃れる術をしらない……



気持ちをストレートに伝えすぎただろうか?


いや……でも、大事なことだしな。


濁してもな?


俺はもう考えることを止めた。


もういい……嵐が過ぎ去るのを大人しく待とう。


そう心に決め、俺はゆっくりと目を閉じるのだった――――










「ちょっ!? ちょっと待て!! リプス! 服を脱がそうとするな!! それとイヴ! ズボンを履きなさい! まて……まて……まて!! パンツに手をかけるな!! オイ!? コラ!!!! コラァ~~~~!!!!」




やっぱり抵抗しないと駄目だ。

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