第19話 激昂の一撃
イヴを先頭にあの野盗たちのアジトを目指してしばらく歩いてきた。
時間はもう完全に深夜だ。
ここに来るまでの途中には、わかりやすい物から中々手の込んだものまで、
幅広い罠が数多く設置されていた。
ちなみにすべて引っ掛かった。
だが、こんな身体能力の一同なので、作動してから回避を始めてもいたって問題なかった。
と言うか回避する必要すらないのだが……
これが野生動物などを捉える物なのか、それとも野盗共を討伐しに来た相手用なのかは定かではないが、
あの大男は罠のことは何一つ言わなかった。
気が動転して伝えなかったのか……
はたまたあわよくばこの罠に巻き込まれて死んでほしかったのか……
ゲームのイベントなんかでも小悪党の命乞い程裏があるというもので、
勘でしかないが後者なんだろうなと勝手に考えていた。
「レオン様~多分ここだよ」
イヴが森林の深い場所にある巨石の、パックリと割れた裂け目を指さす。
大の男が5人ほど横に並べばつっかえてしまうほどの大きさだろうか?
岩の周囲に生い茂った草木のせいで、恐らく注意してみていないと見落としてしまうだろう。
「へぇ……意外にもちゃんとわかりにくいんだな」
俺は素直に感心した。
RPGなんかにある野盗のアジトなんてどれも
”ここにアジトがあります!”
そう大々的に宣伝しているような入り口が多いように思う。
洞窟の入り口に
それに引き換えこれはどうだ?
この裂け目を偶然見つけられた者がいたとしても、
野生動物が住んでいるとは思っても、ここに人間が住んでいるとはすぐにはわからないだろう。
「うん、やっぱりさっきの人達の匂いがするよ。 くちゃいもん……」
イヴは裂け目の中に顔を突っ込んでもう一度しっかりと臭いを嗅いだ。
どうやらここで間違いない様だ。
「ありがとう。イヴ」
「♪~~~」
礼を言いながらワシャワシャとイヴの頭を撫でる。
もはや褒めるというよりは俺が撫でたいだけなのかもしれない……
でもまぁイヴも喜んでいるし、ギブ&テイクってことで……
しかし完全に”忠犬”だよなこれは。
”本当は主人に忠実な子なんだよ?”
はじめてリリスの店でイヴについて説明受けたときにそんなこと言ってたっけ。
あの時の俺は魔剣と聞いて正直怯えていたけど、
今の尻尾を振って嬉しそうに目を細めるイヴを見ると、リリスのあの説明もうなずけるな。
「よし、中に入るぞ。 まぁ問題ないと思うけど、一応警戒しておけ」
「かしこまりました」
「は~~い」
先頭を行こうとする俺をリプスが引き止める。
「ダメです! レオン様。私かイヴを先頭と後方に置いていただき、レオン様は真ん中にいてくださらないと」
「ええ? 問題ないだろ。 それに俺は守ってもらわなくても大丈夫だ。むしろ二人は俺の後ろからついてくればいい」
元神剣と元魔銃だろうが、今は女性だ。
腕っぷしに自信がないのなら百歩譲ったとしても、
腕っぷしに自信しかないのに女性に守られると言うのはいかがなものか。
俺がそう思って訴えるのだがリプスは一向に引いてくれない……
「私は断じて認めません! レオン様の御側に控え、レオン様を御守りし! レオン様に全身全霊をもって尽くすのが私とイヴの使命であり、至極の喜びなのです。で・す・か・ら!! 普段レオン様はドンと構えて私達に命じてくださればいいのです。その御力を振るわれたい場合でしたら大人しく下がります。それ以外は認めません!!!」
「うう……」
尽くすとか何とか言う割には結構しっかり意見してくるよな……
その綺麗に整った顔を、唇が触れそうになるほど俺に近づけて猛抗議している。
少し目線を下にそらせば胸元がバックリと開いている服なので、
その見事な胸が声を荒げるたびにプルプルと自己主張していた。
……目に良すぎて逆に毒だ……
もういい……この状況を打破するために俺が折れよう……
「わかったよ……俺は真ん中でいい」
「やっと御分りになって下さいましたか!」
リプスは自分の主張が認められ目をキラキラと輝かせながら喜んでいる。
「じゃあボクがいっちばーん!!」
事の行く末を見守っていたイヴはそう言うと意気揚々と裂け目の中へと進んでいった。
「に……にばーーーん」
俺はそう言いながらトボトボとイヴに続く。
「さんばんです♪」
そしてにこやかなリプスが俺の冗談に合わせて後からついてきた。
「♪~~」
「…………」
「♪~~~」
テンションが高い前後に挟まれる、あまり釈然としない俺……
オセロのようにひっくり返ってテンションが上がればいいのに……
そんなくだらないことを考えながら真っ暗な道を歩く。
これも侵入者対策なのだろうか?
恐らく日中でも光が届かない深さまで歩いてきているのだが、一向に灯りのようなものは見えない。
つまり今ここは完全な闇の世界。
右も左もわからないそんな世界が広がっているはず……なんだろうが、俺の視界はそうではない。
昼間のように見渡せる、までとはいかないが、特に何の苦も無く洞窟内を見渡すことが出来る。
これもこの身体の恩恵か。
「で? イヴは何をやってるんだ??」
そんな暗闇に乗じて……いや、視界は開けているんだが、
イヴは俺の股間辺りに尻尾とお尻をグイグイと押し付けている……
「え? ごめんなさい!! 暗くてよくわからな~い……」
イヴはあたかも前が見えなくて困っています、そんな声をこちらに向ける。
「いや! イヴも見えてるだろ。さっき少し大きめの石を難なく避けてたの知ってるぞ」
「そうだったかな~?」
しかしイヴは一向にその行為をやめようとはしない。
やめさせようとイヴの肩に手を伸ばそうとしたその時、
「私も全く見えません」
そんなことを言いながら今度はリプスが正確に俺の背中に寄りかかってきた。
そのせいであの立派な胸が背中に押し付けられる。
「…………お前も見えてるよな?」
「いいえ……全く……これではレオン様を御守りできなくて私、泣いてしまいそうです」
「……………オイ」
なんで見えないのにそんなに的確に俺の耳に息を吹きかけられるんですか?
「歩きにくい! 2人とも今すぐやめろ!!」
「え~」
「それは……出来かねます」
3人はそんな感じで洞窟の奥へと進んでいく。
3人が歩いた後には、
新しい矢や槍……そんな物が切断された状態で落ちているのだが、
ここにも罠が設置されていたのは言うまでもない……
レオンとじゃれ合いたいならこの罠を理由に使えばよさそうなものだが、
その”理由”にすら成りえない程、3人にとっては意味を持たない物……そういうことだろう。
例えるならば、海水浴中に足でも引っ張って驚かせてやろうと潜って待っていたら、
その相手が原子力空母か原子力潜水艦に乗ってやってきた……そんな所だろうか。
「お? やっと灯りか」
途中の何度かの分かれ道などを経て、やっと篝火がぽつぽつと見え始めた。
流石にここまでくればあと少しで目当ての場所だろう。
そして3つ目の篝火を過ぎたとき、目の前に広がってきたのは巨大な地下空間だった。
中には無数の篝火が焚かれ、もう二度と帰ってこないであろうここの主たちの帰りを待っていた。
「へ~。こんな風になってたんだね。もっと狭いのかと思ってたよ」
「そうですね。私ももっとこじんまりしたものだと思っておりました。広さだけでしたら、なかなかかと」
そんな感想を述べながら地下空間を歩いていく二人。
しかし主人が付いてこないことに気が付き後ろを振り返った。
「レオン様?」
「どうかされましたか?」
2人の声にもレオンはこたえない。
かわりに返ってきたのは
「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そんな怒りに満ち溢れた叫び声と、
腕の一部が人ならざる者に変化した状態で、地下空間の岩肌を殴った凄まじい轟音と振動、
そしてそのレオンの一撃でもたらされた崩落音だった。
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