第16話 純真無垢

「え~と……貴方達はレオン様やリプス、それにボクをこの後どうするつもりなのかな?」



イヴは2、30人ほどの男達に囲まれていた。


その男達の風貌は野盗や盗賊……そんな表現がピタリとあてはまる。


何かの毛皮を体に巻き付けただけの衣服に、部分的な金属の鎧を身に着けていた。


大部分が露出したままの肌は、土汚れは勿論、垢などもあるのだろう……


黒くなっている部分が目立ち、鼻が曲がってしまうほどの悪臭を放っている……


恐らく衛生、なんて言葉は聞いたことなどない部類の者達であることは明らかだ。


手には、勿論手入れなどしたことはないのだろう。


刃こぼれをし、黒く変色した血がこびり付いたままの剣や斧。


棘があちこち折れているモーニングスター……


各々が、そんな状態の一貫性のない武器をそれぞれ持っている。


そんな男達にイヴは純真無垢な顔のまま、首を傾げ質問を投げかけた。



「グヒャヒャヒャヒャ!! 嬢ちゃん腰つきはなかなかのもんだが、そっちはまだおこちゃまかな??」


黄ばみ、黒ずみ、抜け落ち……まばらな歯をさらけ出し、1人の男が唾を飛ばしながら下品な笑いを響かせる。


目の焦点が定まっていない。


酒に溺れているのか……それとも薬か……


外見だけにとどまらず、内面もそれに伴いまともではないのは明らかである。


その男の笑いのつられたのだろう。周囲の似たような容姿の男達も下品な笑いを響かせる。


「まぁわからねぇだろうが、向こうの色っぽい姉ちゃんと嬢ちゃんは、この後俺達の玩具になって貰う。具合がよけりゃ、一生俺達の玩具にしてやってもいいが、恐らく嬢ちゃんは売りに出されるだろうさ。獣人は高く買うマニアがいる。向こうの姉ちゃんは……グヘヘ、ありゃあ上玉だ。親方が一生玩具にするだろうな」


男は品位のかけらもないその眼差しで、


離れた位置で同じように男達に囲まれているリプスを舐め回す様に見つめている。


「玩具? それって面白い事なの?」


イヴは玩具の意味が分からず、真顔で男達にもう一度問いかける。


「グヒャヒャヒャヒャ!! ああ! 面白くて、楽しくて、気持ちよくて……そりゃ、もう病みつきになるほどだ。嬢ちゃん側は知らねーけどな! でも、どんなに泣き叫んでたやつも最後には自分から腰を振るんだぜ」


男の発言に周囲の男達も一緒になって盛り上がる。


「ふ~ん……よくわからないけどまぁいいや。レオン様はどうするの?」


結局男達から理解できるような返答を貰えなかったイヴの興味はそがれ、


レオンの処遇へと興味が切り替わる。


「レオン様だ? あのイケすかねぇ女みたいな顔した奴の事か? そうだなぁ……首跳ね飛ばした後に身包み剥いで、ケツの穴にその頭ツッコんでみるか?」


「ゲハハハハ! なんだそりゃ!! サイコーだな~オイ!!」


男の提案がよほど可笑しかったのだろう、男達の盛り上がりが最高潮に達した。




「ヒィ!?」




しかし次の瞬間男達は水を打ったようになる。


視線の先には、先ほどと何も変わらないイヴがいた。


「な……なんだぁ!? 今なんか…背筋が……」


「お……俺も」


だが、結局男達は自分達が何に怯えたのかは理解できなかったようだ。


「え~と……次はなんだったっけ?」


イヴは空中に視線を走らせながら指で何かを追っている。


それはまるでフローチャートのように見えた。


「おい、なにやって……」


「ああ! えっとね……こんなことをやったのは今回が初めてですか?」


「ああん? 自分が置かれてる状況を全く分かってないな。ここまで、恐怖心が無いと興醒めだが……まぁいいか。後で散々悲鳴は聞けるだろうしな。初めてなわけがないだろう? 俺たちゃこれでおまんま食って、己の欲求も満たしてんだ。回数でも聞きたいのか? そんなのもうわかんねーよ」


一度は静まり返った男達だったが、気のせいだと思ったのだろう。


先程と同等までは行かないにしろ、下品な笑いを響かせながらイヴとの距離を詰めだす。


その返答を聞き、イヴは再びフローチャートを指でなぞっていき……


「わかった~~!!」


何やらゴールにたどり着いたのだろう。 そう言いながら嬉しそうに飛び跳ねた。


その姿に流石の男達も困惑する。


「最初から可笑しな嬢ちゃんだと思ったが、なんだ……最初から壊れてんのか?」


互いに顔を見合わせる男達に向かって、イヴは大きな声で、



「いっただっきま~~~~す!!!」



そう宣言する。


「はい。 イヴ、大変よくできました。 今回は間違えませんでしたね」


その声を聞き、リプスがイヴに向かって笑顔で拍手を送り、


「えっへっへ~! ボクだってやればできるんだから!!」


そんなリプスにイヴはブンブンと手と尻尾を振って笑顔で答えている。




「ワケがわからん。 一体何なんだ? おまえた………」


ブチブチゴキッブチブチブチ…………


ブシャーーーー!!!!


その言葉を最後に、イヴに向かって先頭を切って話しかけていた男の首が胴体から引きちぎられ、


残された胴体から噴水のように血が噴き出した後、しばらくして力なく崩れ落ちた。



「ヒィ!! ヒエエエエエエエ!!??」


突然の出来事に残された男達は状況が呑み込めず、悲鳴と共に腰を抜かす。


崩れ落ちた死体の先には、やはり先程とは何も変わらないイヴの姿が……


ただ一カ所をのぞいてではあるが……



イヴの右手には先ほどの男の頭部がしっかりと握られていた。


引きちぎる際に一緒についてきたのだろう……背骨の一部が首から垂れさがっており、


息絶えた男の表情は、この世の物とは思えぬほど”苦悶”に歪んでいる。



「え~と……確か、頭をお尻の穴に突っ込むんだったよね?」


イヴは胴体のズボンを引きちぎると頭頂部から突っ込もうと試みる。


しかし、”それ”は男の頭頂部を受け入れるには小さすぎたようで、イヴも苦労している。


「うんしょ……うんしょ……う~~ん。 入んないなぁ」


人差し指1本の上に、バランスよく男の頭を乗せたままイヴは少し考える表情を見せ、


「そうだ!」


どうやら解決方法を見つけたらしい。


イヴは頭頂部から挿入するのを諦め、背骨側から男の頭を突っ込みにかかる。


背骨のでっぱりが男の”それ”に飲み込まれるたびに


ブチブチ


と音を立て、裂けながら飲み込まれていった。


「出来た~~! 本当だ!! これすごく面白いね。 傑作だよ」


背骨を全て飲み込み、上下が逆になってしまった男を見てイヴは指をさして笑い転げる。


「あれ? 君達が教えてくれたんだよ?? 傑作じゃないか……ホラワライナヨ」


純真無垢な笑顔。


しかしなぜだろうそこから感じ取れる……底の見えない……



”闇”



血の匂いに混ざって、どこからかアンモニア臭が漂い出した。


どうやら残された男達の内の数人が恐怖のあまり漏らしたようだ……



「あ……悪魔……」



誰かがそう呟く……



「君達は……ボクの玩具になるんだよ」



「た、助け……」


誰かのその言葉を最後に、


男達は……イヴによって……この世の物とは思えない苦痛を味わいながら、


この世に生を受けてからの、最後の使命をはたすのだった。




そう……イヴの”玩具”になるという使命を……

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