第6話 幕開け

倒した龍の側に降り立ち、


リミットの開放を解除し人間の姿に戻った俺は龍の顔の位置まで歩いていく。


「おい?」


 ………………


反応はない。 まぁ死んでいるのだろう。


しばらく見ていると尻尾の部分から徐々に龍の身体が光に変わり飛散していく。


最後に顔の部分が消え去るとそこに手のひら大のクリスタルが残った。


手に取るとしっかりと力を感じることが出来る。


何かの役に立つこともあるかもしれない。ありがたく貰っておこう。



クリスタルをポケットにしまい込み、辺りを見渡した。



派手に暴れたが、


助けに入ろうとする者やこちらに向かってくる者の気配は感じられない。


あの男は一人で行動していたのだろう。



「さて……いきなり襲われたから考える暇なんてなかったけど……俺は一体どうしたっていうんだ?」


やっとそんなことを考える暇ができ、自身の状況について整理しようとしていると、


目の前の空間に切れ目が入り、中からひょっこり見知った顔が現れる。


綺麗な金髪に深紅の瞳をした美人な女性だ。


「リリス?」


「あ~~~!! レオン君!! それに君達もちゃんと来ているね!!」


リリスの視線は背中のホルスターに収められた剣と銃に向けられ、


満足そうにウンウンと頷いている。


「レオン君も立派になって!! その服装も決まって……決まって?」



言葉はそこで止まりリリスの首がどんどんと傾ていく。



「決まってないね? なんというかボロ?? どうしたのそれ?」


もっともな感想だろう……ダメージ加工の度をはるかに超えた穴だらけの服が


決まっているなどと言われたらどうしようかと思った。


「どうしたのかは俺が聞きたい……気が付いたらこの場所に寝ていて、ゲームの主人公の服装をしているかと思えば、いきなり変なのに襲われた……何故かゲームの感覚が残っていてその通りに戦えば難なく戦闘は終わったはいいが、これからどうしようかと考えを巡らせてみればリリスが現れる……いったいどうなってるんだ?」


「あらまぁ……いきなりそんなことになってたんだねぇ……でもまぁ片付いたならよかったじゃないか。こちらとしても一番のネックの能力関係の説明が省けて楽だし」



まさか狙ってあの男をけしかけたんじゃないよな? 


ないとは思うが……悪びれもなくそんなことを言うリリスに少しだけ疑いの視線を送る。


「ムムム……何やら疑いの視線を感じるんだけど、あの時と違って君の顔には書いてないぞ……こっちに来てちょっと性格も変わってるみたいだし……あの素直だったレオン君は何処へ……」


ヨヨヨと言った感じでリリスは俺にもたれかかる。



「あら~! レオン君もしかしてあのゲーム大分やり込んだ?」


身体にふれて何かに気が付いたのだろうか?


「ああ……面白かったからつい夢中になって」


その言葉を聞いているのかいないのか


俺の全身を隈なく観察したり触ってみたりを繰り返し


リリスは非常に満足しているようだ。


「いや~ここまで出来上がっていると通常よりはかなり早いけど、もうすぐ聞こえるかもね!」


「聞こえる?」


「【アポカリプス】と【ダーインスレイヴ】だよ! 持ち主の力に比例してこのクラスの子達なら話ができるはずだよ」


剣と銃だぞ? 確かに使ってみてとてつもない力だとは思ったけど……


それがしゃべるって……


馬鹿らしいと一蹴してやろうかとも思ったが純真無垢な視線を向ける


リリスにとてもそんなことを言える雰囲気ではない……


ヤレヤレ……茶番に付き合ってやるか……


「おい! お前達」


ぶっきらぼうに剣と銃に向かって声をかけた。


「はい レオン様」

「やった~! お話しできた!!」



ほらな? 返事なんて聞こえてくるわけが………



「おおお!!! この子達女の子だったんだ!!」


あれ? クールビューティー? そんな印象を受ける凛とした声と


何処か幼さの残る活発な感じ、どこかで聞いた気がするんだけど……どこだったかな?


しかし……嘘じゃないよな……どうやら声はリリスにまで聞こえているらしいし……


空耳ではないのだろう。


「本当にこの2つから声が聞こえてるのか?」


正直いまだに半信半疑だ、リリスがなにかやっているのではないか? 


そんなことを疑ってしまう。



「はい、私の名前は【アポカリプス】です」

「【ダーインスレイヴ】だよ! せっかくお話しできるのにレオン様あんまりだよ!」



口なんてついていないので明確にしゃべっていることは確認できないが、


不思議とそれぞれがちゃんと喋っているということは伝わってきた。


「マジか……」


ホルスターから抜き出し、それぞれを目の前に構える。


するとどうだろう……


【アポカリプス】はその色鮮やかに光り輝く赤色は更に光を増し、


ゆらゆらと蠢く様子は生き生きとしている。


【ダーインスレイヴ】も金色で掘られた模様はより色濃く浮かび上がり、


その全身の漆黒の度合いも何段階も跳ねあがっているように見えた。



「素晴らしいね!! こんなに生き生きとしているこの子達を見るのは初めてだよ!! レオン君にはいったいどれ程の力が宿されているのか……」


リリスはあの店で見た時と同じ……いやそれ以上に興奮している。



「テンションMAXな所申し訳ないんだけどな……俺の身に起きたこの状況を説明してもらえないか?」


「ああ!! ごめんごめん……ちょっとあまりにも初めてのことが多くてね……長く生きていると大抵のことじゃ驚かないんだけど今回は本当に特別で……」


長く生きてって20年ちょっとだろ?


もしかしてよくある見た目20代実年齢ウン百歳とかいうあれだろうか……


”リリスお前いったい何歳?”


と思わず出てきそうになる言葉を寸前の所で飲み込む。


自分より年下の男に年齢を聞かれて、


機嫌が悪くならない女性なんて恐らくマイノリティだろう……



「おほん! じゃあ説明するね。レオン君に私は聞いたよね? ”この世界に嫌気がさしていないかい?”って。君は”はい”と答えた。だからこのゲームを手渡した。流石に既に戦闘まで済ませてしまっているようだし薄々は勘付いていると思うけど、あのゲームはレオン君を元いた世界から、この世界に送り込むための通行証みたいなものだったんだよ」


「…………」


正直目を覚ました段階でリリスが現れていれば何を馬鹿な……


なんて言葉も出てきただろうけど、あんなことの後だ……


それを否定することの方が難しい。



「フフッ……素直に飲み込んでくれるね? では次に、なぜゲームをやる必要があったか? これもまぁわかるよね? 簡潔に言えば、送り込む世界に対応するためだよ。辺りを見ればなんとなくわかるけど、レオン君が元いた世界ではありえないことがおこっただろう?」


「ああ……なんか人が平然と魔法みたいなものを使って、龍まで出てきた」


「龍だって!? へ~!! そこはあとでちょっと詳しく聞きたいな……とりあえず話をつづけるよ。ゲームのジャンルはね、送り込む人と送り込まれる世界によって変化するんだ。以前私のお客さんになった人は確かスゴロクみたいなゲームだったと言っていたよ。レオン君の場合は今回やり込んだゲームで、この世界だったってことだね」


「以前のお客さんって俺みたいな奴がまだいるのか? となると……ここにも俺と同じ境遇のやつが?」


「ん~とね、世界はね……それこそ無限に存在している。そして1つの世界に異世界から転移させられるのは1者のみ……これはなんで? とかじゃなくて世界の理だから追求しないでね。ちなみにね? レオン君がもとにいた世界にも転移してきている者がいるんだよ?」


「なんだって!? あそこにもこんな魔法使ったりするようなやつがいたの?」


流石に聞き捨てならない。


手品師とか超能力者とかそんな肩書で生きていたんだろうか?


「私のお客さんではないから詳しくは知らないけどね……転移する世界によってゲームも変わるっていったよね? あの世界に転移されている者のゲームは、経営シミュレーション系のゲームだったって聞いている。レオン君の世界で最近何か突然爆発的に進化したり、発展したような業界はなかったかな?」



……思い当たる節はある。


IT業界……そしてゲーム業界だ。


特にゲーム業界の進歩なんて他の業界に比べると


劇的すぎるほどの急成長を遂げている……



「思い当たる物があるようだね? 恐らくはその近辺に転移した人がいると思うよ?」



突如リリスは何やら提げていたカバンをごそごそとあさりだした。


「やっぱり長くなりそうだ。この世界には私のお店を定着させてあるからそこで話そうか。お茶とお菓子もだすから」


取り出したのは小さいハンドベル。



鳴らせば店の人がやってきてくれる……そんな感じの代物だ。


リリスはそれを小刻みに振るうと綺麗なベルの音が辺りに響き渡り、


音が途切れるのとほぼ同時に周囲の景色が一変する。


そこはあの薄暗くて怪しい店ではなく、


年季は入っているが清潔感の漂う落ち着いた雰囲気の喫茶店のような場所だった。



「いい店だ……」


思わず口から洩れた言葉にリリスはすぐさま反応する。


「そうだろ? ここは私もお気に入りなんだよ。始めてレオン君がやってきたあのお店はどちらかと言うと倉庫って言う印象が強いお店だからね。ここはね……いわばVIP専用って位置づけで私は使っているんだよ。といってもここに来たのはレオン君が初めてだけどね……」


いつものあのポーズをしながらリリスはなぜか照れている。


「VIP専用って……」


「そういうこと! レオン君とその子達は私にとっては初めてのVIPってこと!」


「リリス様 ありがとうございます」

「やった~!! ボクは特別だ!!」


リリスのその言葉に背中の2個? 2人……


ん~~2人の方が何故かしっくりくるな……も喜んでいる。


「まぁ適当に座ってよ。飲み物は何がいいかな? そういえばレオン君のいた世界のコーヒーって言う飲み物、美味しいね! いい香りがして私はあれが好きだな」



今更だけどやっぱりリリスは俺の元いた世界の人間じゃないのか……


でもここまでくるとそんなことは些細なことだ。



「コーヒー入れられるのか? じゃあもらえるか?」


「いいよ~。 じゃあちょっと待ってってね」


リリスはカバンに手を突っ込むとサイフォンとコーヒー豆を取り出す。


あのカバンはあれか?


 ○次元ポケット……? 普段からサイフォンなんて持ち歩かないだろうし、


恐らくだけど、その認識で間違いないだろう。


店の中にコーヒーのいい香りが充満する。


俺もコーヒーの香りは好きだ。


コポコポと言う音と共に心をリラックスさせてくれる。


目をつむり、しばらく香りと音を楽しんでいると


「お待たせ。付け合わせの焼き菓子は私の手作りだからレオン君の口に合えばいいけど……」


まずそのカップと皿の見事さに驚いた。


キラキラと光り輝くその2つはクリスタル製。


綺麗に施されたカットが光を乱反射して見る者を楽しませる……


コーヒーを一口飲んでみる。


美味しい……


程よい苦みは後を引くことなく香りの余韻だけをのこしてスッと消えていく。


普段自分が飲んでいた物より美味しいと感じるのは豆のおかげか、


それともリリスの淹れ方なのか?


……きっと両者だろう。


そして焼き菓子だ。 見た目はクッキーと似ているのだが……


「うん!どちらも美味しい。 焼き菓子も今まで食べてきたものとは少し違うが、これはこれで美味しい」


「よかった! 君達にも何か振舞ってあげたいところなんだけど……」


「御気持ち大変うれしく思います。ですが私達はレオン様で満たされていますので」

「うん! すごいんだよ!!」


……俺の力のことを言っているんだろうがこの声で言われるとなんともまぁ……


それにどのみち剣と銃じゃ食べれないだろ……


「ですがこのままの感じでしたら恐らくは……」

「うんうん」


リリスには聞こえないような小声で2人はコソコソと何か言っている。


「さて、話の続きだね。で! ゲームを経て転移させられる者達は十中八九その世界ではバランスブレイカーと呼ばれる」


……確かにあの戦闘では男のこの世界での実力がどの程度なのかはわからないが


酷く一方的な物だった。


「なんでそんなことをすると思う?」


リリスは悪戯っぽく笑う。


「……さあ?」


本当に皆目見当がつかない。


「ちょっとは考えてよ……グスン。それはね……世界に劇薬とも言える者を一滴落とし込むことで、その世界がどう変化していくかを観察するため……」


「……観察って誰が?」


「………誰だろうね?」


「知らないのかよ!!」


思わず素で突っ込んでしまう。


「私が存在する遥か昔からそう導けと続けられてきたことだからね……私にもわからない」


何処か遠くを見つめてしまうリリスは本当に知らないのだろう……



「とりあえず! レオン君はこの世界で君の思うように生きればいいよ。他の転移者たちもそうしているし」


「他の転移者もリリスが俺みたいに相手してるのか?」


「今の純粋な私の担当はレオン君だけだね~。商品を購入しに私の店に来る常連さんはいるけどね。私のような存在も複数いるんだよ。あっ! そうだレオン君にこれを渡しておくね」


手渡されたのは先ほどのハンドベルだ。


「これを鳴らせばいつでも、どこにいてもここに来ることが出来る。何か必要なものがあったり、困ったことがあれば遠慮なくここに来ると良いよ。そのうち別の者が担当するお店なんかにも行けるようにもなると思うし」



正直困ることだらけだろう……素直にハンドベルを受けとる。



「次にこの世界のことだけど……この世界は”ルクス”と呼ばれている。一部科学が発展している国なんかもあるみたいだけど、基本的には魔導を利用した世界で、情勢は人間種の他に亜人種…さらには幻獣の類……神に悪魔……そういった物達が凌ぎ合っているってところかな?」


「まるっきしファンタジーの世界だな……」


「戦闘をこなしたって言ってたけどその時のことを教えてもらえるかな?」


「ん?……ああ、まぁ突然だったからな……うまく説明できるかはわからないが……」


俺はあの男との戦闘、そして龍との戦闘のことを要点を絞って説明する。



「へ~! その男、この世界じゃかなりの実力者だよ!! 私の知識だけど属性魔法を動物の形状に変化させて完全に操るなんて、ほぼ最上位クラスの魔法だったんじゃないかな? しかしまぁそんな実力者なのに……たまたまレオン君に喧嘩吹っ掛けるなんて運の尽きだよね」


あ~やっぱあいつ強い部類の人間だったのか……


あの恐ろしく高いプライドはまぁ実力から来ていたんだな……


「そして気になるのは龍だね~……龍なんかの幻獣種はこの世界に存在はしているけど、そうそう御目に掛かれる存在じゃないんだけどね。しかも封印されてたとなると……それ相当だと思うよ?」


そういえばなんか欠片拾ってたな……


「龍が消え去ったときこれが残ってた」


ポケットからクリスタルを取り出すと適当にリリスに投げる。


「もう! 危ないじゃないか!! どれどれ~~」


危ないなんて言っているがその反応はなかなかの物で危なさは微塵も感じなかった。



いつの間にか取り出したルーペで隈なく全体を観察し終えると、


今度は卓上に現れた魔法陣の中心にクリスタルを置き、


しばし空中に視線を走らせている。


その視線の先にはこちらから見る分には何もないが


規則的に動いているところから見ても、


リリスにはモニターのような物でも見えているのだろう。


そう考えれば納得がいく。


「驚いたね……これは家に鎮座している商品達ともひけを取らないよ……ああ……もちろんその子達は別格だよ?」


リリスからは丁重にクリスタルが返された。


「このクリスタルの中身はそれはそれは高威力の雷の集合体だったよ。あまりに規格外の威力から意志と実体を持つようになったんじゃないかな? まぁその存在はレオン君に倒されちゃったけど……恐らくはこの世界での悪神……そんな風に捉えられていてもおかしくないだろうね」


「神だって!? いや……でもたいしたことなかったぜ?」


「さっきバランスブレイカーだって言ったろ? レオン君はどうも今までのお客さん達よりもゲームをやり込んでるようだから、かなりの力みたいだけど……普通に考えるやり込み程度でも十分その世界では脅威なんだよ……NewGame+って項目選んだだろ?」


「……ああ」


「強くてニューゲーム……全クリできるような能力や時には資産なんかも引き継いでくるんだ……」


なるほど……仮にあの龍がラスボスだとしても


それを倒せる能力を最初から保持しているってことか……


酷いな……



「レオン様 あの……お話の最中……失礼いたします」

「レオン様たいへんたいへん~」


「ん? なんだ??」


「おやおや?」


2人からの突然話を遮られ俺とリリスは視線を送る。


「どうやらレオン様のその強大な御力のおかげで我らは満たされました」

「お腹いっぱい!!」


「つきましてはあの……私達もどうなるか判りませんので少し離れた位置に置いて下さらないでしょうか?」

「危険……かも?」


「なんだって? おいリリスどういうことだ?」


「ええ!? 私も判らないよ……この子達クラスに力を完全に充填させた者なんていないもの……」


オイオイ……まさか行き場のない力が爆発なんてベタなことはやめてくれよ……


言われるがままに店の隅に2人を置き反対側に避難した。


「あ! ありがとう……レオン君優しいね」


こんな身体になっているので大抵のことには対処できるはずだ、


リリスを自分の背中に隠し、最悪リミッターを解除する準備をする。



【アポカリプス】の赤く蠢く光は直視するのも難しい


片や【ダーインスレイヴ】はその漆黒ですべての物を


覆いつくしてしまうのではないかと思われるほどその黒さを増していく……


「こりゃ……やばいことになりそうだ」


「すごいな~最高だな~もっと見ていたいよ~」


腕の間からひょっこりと顔を出しているリリスは心底楽しそうだ。


危機感持てよな……


最高潮に達した赤い光と漆黒は互いにぶつかり合いながら店の中で爆発した。


咄嗟にリミットを解除し人ならざる者に姿を変え、リリスを抱き背中を向ける。


「わぁ! 大胆!!」



こいつはどこまでも……




衝撃が来ると思っていたのだがいつまでたってもそれは訪れない……


「可笑しいな?」


振り返り確認してみようと思うと背中に柔らかな2つの衝撃がやってくる。


「嗚呼 レオン様」

「レオン様~!」


【アポカリプス】と【ダーインスレイヴ】の声だ。


背中に感じる存在を確認するために振り返ってみてギョッとした。




女性だ……女性が2人いる……


1人はエルフ 


長くピンと尖った耳が特徴的で長く透き通ったように白い髪は


毛先に行くにつれてほんのりと赤く染まりとても幻想的だ……


そしてその豊満な肉体は出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる……


思わず生唾を飲み込んでしまいそうな……


1度見てしまうとしばらく視線を外せそうにない



そしてもう1人……


身体の大部分は人間だが


特徴的なのはその耳とお尻の上辺りから垂れ下がっている尻尾だろう……


獣人と言うのだろうか? 


青みのかかったシルバーの髪やフサフサの尻尾、


少し肉厚で頭頂部にある大きな耳などから


猫と言うよりは狼……そんな印象がしっくりくる。


スレンダーな肉体から活発な雰囲気を漂わせているが


小ぶりで形のいい胸や女性的曲線はとても魅力的で、


とくにお尻の形と肉付きは最高だ……


フルフルと嬉しそうに揺れる尻尾がその魅力を更に引き出している



両者のこの世の物とは思えない……


転移してきた人間からしたらこの世とはどちらのことなのか……


いや、そんなことはどうでもいい……


そんな互いに別々の魅力をもった美女達に絶句する。



そして大問題がもう1つ………


両者とも何も身に着けていない……まさしく生まれたままの姿……



「……うわ」


自身の”男たる所以”の部分が激しく自己主張を始めているのがわかる……


「まぁ……」

「やった~~!!」


それは目の前の美女にも即バレた……



タイトなレザー製のズボンをはいていたゲームのレオンを呪いたい……



「レオン様! 私レオン様の御力でこのような姿に変わることが出来ました!!!」


「ボクも!! この姿ならレオン様にいっぱい甘えられそうですごくうれしい!!」


そんなことを言いながら2人はそのままの姿で俺の胸に飛び込んでくる。


この美女はいったいどこから? 


俺の力がどうとか……俺は美女を生み出す力でもあるんだろうか?


見下ろす先は刺激が強すぎるので店内に視線を泳がせる。


「あ………剣と銃がない………?」


「ほんとだね!! と言うことは?」


その言葉に剣と銃が無いことにリリスも気が付き美女へと視線を送る。


「私【アポカリプス】ですレオン様」


「ボクは【ダーインスレイヴ】だよ~」


嘘だろ……しゃべるだけでは飽き足らず……変身したのか?


「すごい!! すごいよ!!!! レオン君!!!!!」


今までで一番興奮しているリリスのせいで背中を押された俺は体制を崩した。


2人に抱き着かれていたため、思うように体を動かせず、


どこがどうなったのかはわからないが、


右手は【アポカリプス】の胸を……


左手は【ダーインスレイヴ】のお尻を各々鷲掴みする。


「アン……」


「キャ……」


艶っぽい声が漏れ、慌てて手を放そうとするのだが


その行為は2人に即座に腕を掴まれ阻まれる。


「もっと……この素晴らしい身体を触って感じてください……レオン様」


「レオン様に触れられるとボク……なんだかすごく幸せな気持ちになるんだ……」


こんな美女2人からこんな反応をされるなんて天国かな?


「いや~御三方……お熱いですなぁ~」


そんな様子を見ているリリスは俺の背中を楽しそうに小突くのだった。





ある程度その身体を堪能させていただ………


いや……やっとのことで2人から解放され、


【アポカリプス】【ダーインスレイヴ】は裸ではなんだからと


リリスによって用意された装備を着込んでいる。


なんでも最高の2人が最高に輝く最高の装備だそうだ。


【アポカリプス】はツヤツヤと煌く白を基調とした何処かドレスを思わせる


タイトな騎士風の軽装備だ。


胸元は大胆にバックリ開きその周りにはゴージャスなフリルで装飾されている。


随所に金の刺繍が施され、


所々に使われている黒の革がその美しい体のラインをより一層引き立てる。


腰の辺りから下がる服と同じ素材の布は何処かマントを彷彿とさせ、


高貴な存在であると言うことを周囲に否応なしに知らしめている。



【ダーインスレイヴ】は本人の希望でかなり露出度が高い服装だ……


【アポカリプス】のような服装を進めたのだが、なんでも動きにくいとのことで


最初はドラゴンの素材で作られた黒と赤の胸当てと籠手、


足にはすね当、そして腰は同素材で作られたかなり際どいハイレグTバックのみ……


尻尾があるとはいえ屈めばこぼれてしまいそうなそれは3人からの猛反対の末、


その上から……これもドラゴン素材でお尻など半分出てしまっているが……


黒のホットパンツをはくことでなんとか【ダーインスレイヴ】が折れた。



俺の穴だらけの服もリリスによって修復が施され、


3人が並ぶと見る者を圧倒するようなパーティーが完成した。



今は俺を挟んで右に【アポカリプス】左に【ダーインスレイヴ】と言う状態で


カウンターでコーヒーとお菓子の続きの最中だ。


人型になったため、2人もごく自然に初めての食事を楽しんでいる。


「リリス様 これ大変おいしいです!」


「うんうん! すごくおいしいね~ レオン様の味の次に!」


「ええ【ダーインスレイヴ】それには共感いたします。レオン様の味の前には全て物は無意味です」



俺の味とか……なんか誤解がすごそうだな……深読みしすぎか?



「いや~まさか家の最高の商品だった2人におもてなし出来る日が来るとはね~……お姉さん泣きそうだよ……」


リリスの冗談を真に受けた二人は【アポカリプス】どこからかハンカチを取り出し、


【ダーインスレイヴ】に至ってはアワアワと辺りをせわしなくかけている。


なぜだろうこの3人を見ていると心が休まる……




「でもさ~レオン君。ちょっと君の力あまりにも規格外すぎる……本来、意志をもってしゃべるってことですら、神や悪魔の一歩手前なんだよ? 今までのお客さん達もここまでは結構あったんだ。でもね? この子達はしゃべるどころか人の形をとっている……これはもう神や悪魔の領域に入っている……つまりはレオン君の力を吸収して新たな神と悪魔が誕生したってことだよ……」



凄い事なんだろうがいまいちピンとこないな……



「ん~~~つたわってないなぁ!! 神と悪魔なんて存在がホイホイ現れてみてよ? ありえないでしょ? 下手するとレオン君……は規格外だな……他の転移者と同等の力を持つようなのだっているんだ……そんな存在をレオン君は自分の力を吸収させて2人も誕生させているんだよ? それも自分はピンピンしたままで……」


「凄いと言われてもな……俺自身が苦しんで生んだわけでもないし、こう実感がないな…」


「そこがすごいって言ってるんだけどなぁ……」


リリスはどう伝えていいか困っているようだ。



「そうだ! 手っ取り早い方法があるね!!」


リリスがしばらくうなっていると何やらいい方法を思いついたようである。


「レオン君のゲームで変身した時ってその能力使うのに時間制限あったよね?」


確かに魔力ゲージが0になると自然にあの状態は解除されていた。


「ああ、確かにあったな」


「それを今試してみよう! どれくらい持つのかでまぁ比較対象なんてないんだけど、あんな凄まじい力をどれだけの時間使えるのか? ってことで大体のレオン君の力の総量が見えてくるんじゃないかな?」



なるほど……確かにそれは興味がある。



カウンターから立ち上がり一歩下がったところで人ならざる者へと姿を変える。


「ああ……なんと凛々しいお姿でしょうか……普段のレオン様も素敵ですがこちらのレオン様も……」


「レオン様~かっこいいです!!」


2人はその姿を前に両足に抱き着きその身体をこすりつける……



主人想いと言うかこれは……



まぁ正直嫌な気分ではない……


むしろこんな美女2人からこんなことをされてうれしくない男などいないだろう……



このままにしておこう!



そのまま5分が経ち、10分……30分……1時間……が経った



「いつまでやるんだ?」


あまりにも暇なのでついにしびれをきらしリリスに問いかける。


下の2人は結局最後まで同じ状態でそこに居続けた。


「めちゃくちゃだ!! レオン君? 君ゲームの時、この状態どれくらい維持してたか覚えてる?」


確かに、ゲームの中でもこの状態はバランスブレイカーだった


その為そんなに長くはこの状態を維持してはいられない……


「強化が最終段階まで行って3分くらいじゃなかったかな?」


「だよね? そうだよね??」


リリスが物凄い剣幕で唇が触れてしまいそうなほど近くまで顔を詰め寄るので


思わず身体をのけぞらせる。


「可笑しい……ねぇレオン君? ゲームをやっているときや再開するときに何か気になる事とか、気が付いたことなかった??」



気になる事ねえ……


そりゃあゲームの内容とか要所要所に残ったままになってる謎なんかは


今でも気になっているけど……


気が付いたことと言えば………ああ



「そういえばゲーム中にプラチナトロフィーの実績を解除したんだ。で、何が起こるのかと楽しみにしていたらそのゲーム中には何も起きなかった……クリアしてみると・NewGame+の下に”・NewGame+ Eternal Mode”ってのが新たに表示されてて、そのEternal Modeのせいでここに今いるんだろうけど……リリスあれはあんまりだぜ? あんな隠し要素普通のやつがプレイしても見つけられないだろ? 常連の客にしたいならもう少し簡単な物をだな……」


「ええ!? いや……すべてのゲームはそれをクリアして・NewGame+を選択すれば、その世界に転移される仕組みのはずだよ? Eternal Mode?? そんなの聞いたことがないな……そのプラチナトロフィーの実績の解除をした時ゲーム上では何か言ってなかった?」



なんだ? Eternal Modeを選んだことでこの世界に飛ばされたんじゃないのか?



「確か……”世界すらも打ち破りし者よ……その力未来永劫語り継がれるだろう――”そんな感じのことを言ってたような……」



「んんん?? すっごい意味有り気だねぇ……ちょっとゲゲるから待ってって」


”ゲゲる”?なんだそれ……


もしかしてそれグ………


見ればリリスはやはりこちらからは見えない何か……


画面のような物を目で追っている動きをしている。


グ……る


そんな認識であながち間違っていないんだろうな。



リリスの調べ物はなかなか時間がかかった。


その間、俺と【アポカリプス】【ダーインスレイヴ】の3人で雑談をしていた。


雑談と言っても先ほどの戦闘を2人がひたすら


「流石です」や「しびれた!」と言いながら俺をほめたたえていただけなのだが。



「いや~~お待たせお待たせ……私達のデータをもってしてもほとんど前例がなくてね……探すのに苦労したよ……」


雑談にも飽き【ダーインスレイヴ】が机に突っ伏して昼寝を仕掛けていた頃


やっとのことでリリスに動きがあった。


「Eternal Modeの記載は結局なかったんだけど似たような前例があったよ。そこからの推測になるんだけど……」


リリスの顔つきは神妙なもので、聞く側も思わず息をのむ。


「レオン君、君のその力はEternal……つまりは不滅……どれだけ使おうが底を尽きることはないみたいだね!」


どこから取り出したのか


パーン!! と派手に紙吹雪を散らし、クラッカーを鳴らしたリリスは笑う。


「……人が真面目に話を聞こうかと思えばなんだよそれ?」


「真面目になんて話せないでしょ? もう笑う所だよ? これ。だってさ……レオン君かなりやり込んでるから、その人と見分けが付かない状態でもこの世界じゃ規格外なの。それなのに、力を開放している状態なんてさ……ねぇ? そんな状態がずっと維持できるんだよ? もう笑うしかないでしょ?」


………ゲームのおまけ要素だとしても確かにそれはお祭りモードだ。


多分俺もゲームをしながら笑うだろう。


「………なるほど。 よくわかった」


ほらね? リリスの表情からはそんな言葉が読み取れる。




「さて……レオン君のあまりの規格外の力はまぁこの際おいておいて……大体のことは説明が終わったはずだよ。何かまたわからないことが出てきたら気兼ねなくここにおいで。じゃあ最終確認と行こうか?」


「最終確認?」


リリスは【アポカリプス】と【ダーインスレイヴ】の手を引き


改めて俺と対峙させる。


「レオン君……君はここ”ルクス”の世界に転移した。今ならまだ元の世界に戻ることはできる……でもリミットを過ぎれば2度と元のあの世界のレオン君に戻ることはできない。君の言葉で今宣言してほしい。【アポカリプス】【ダーインスレイヴ】とこの世界で生きていくかい?」


リリスの言葉に2人は瞳を潤ませすがる様に俺へと視線を送っている。



”2度と元のあの世界のレオン君に戻ることはできない”



元の世界に戻って何があるんだろうか?


家族もいない……友達だって……


あの世界に戻っても力の無い自分がいるだけ……


視線を目の前の3人に向ける。


【アポカリプス】【ダーインスレイヴ】そしてリリス


まだ会って間もないと言うのにこの3人を見ていると心が休まった。



「………ないな」



その言葉に2人の顔が引きつった。今にも泣きだしてしまいそうだ。


しまった……声が小さかった


「帰る理由がないな!」


今度は力強くそう言葉を発する。


泣き出してしまいそうだった2人はすぐさま満面の笑顔に変わり


俺の元に飛びつく。


「本当ですか!? レオン様!! 私一生……未来永劫御供致します!!!」


「ボクもレオン様とず~~っとず~~っと一緒にいる~~!!」


「おう!【アポカリプス】に【ダーインスレイヴ】!! これからよろしく……」


突如考え込む俺に3人は何事かと顔を覗き込む。


「どうしたんだい? レオン君」


リリスが代表して声を出した。


「長い……」


「長い?」


「そうだ……2人の名前が長すぎて呼びにくい!」


「ほぉ?」


【アポカリプス】………アポ? アホっぽいな……


【ダーインスレイヴ】 ……… ダー? イチ、ニー、サン!?



「よし! 決めた!!」


しばらくう~う~うなっていた俺の表情が晴れ、2人と向き合う。


「まずは【アポカリプス】!!」


「ハイィ!!」


突如、大声と共に右手人差し指でビシィ!!と指され驚いた【アポカリプス】裏声になりながら姿勢を正す。


「俺は今から【アポカリプス】のことを”リプス”と呼ぶ!!」


今度は【ダーインスレイヴ】に 向き直り同じように指を指す。


「次に【ダーインスレイヴ】!!」


「は~~い!!」


【ダーインスレイヴ】はリプスの時とは違いそれを予想できていたため元気のいい返事を返す。


「俺は今から【ダーインスレイヴ】のことを”イヴ”と呼ぶ!!」


意見があるなら正直に言え! 善処する」


その提案に2人は顔を見合わせる。


「素晴らしいです! 意見などあろうはずもありません!!」


「ないで~~~す!!」


そう言いながら嬉しそうに再び抱きついてくる。



「アハハハハ!!! あの【アポカリプス】と【ダーインスレイヴ】に愛称をつけるなんて……すごい……すごいよ!! レオン君はやっぱり私のとっておきだ」


そこにリリスも加わり4人はお互いに笑いあった。



父さん、母さん、姉ちゃん、婆ちゃん……


”俺はこの世界でこいつらと生きていくよ”




レオン、リプス、イヴ……そしてリリス。


彼らの冒険はこうして幕を開けるのだった――――

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