清正の城
若狭屋 真夏(九代目)
虎之助
加藤主計頭(かずえのかみ)清正はもともと刀鍛冶のせがれであった。秀吉の母大政所と清正の母が従妹であったため、それが縁で当時長浜城主であった羽柴秀吉の小姓となり170石を与えられた。次第に彼は頭角を現してゆく。
武将として数々の戦場に赴き、または城の縄張りを行い秀吉の信用厚い武将に成長していった。
いわゆる「賤ヶ岳七本槍」の一人である。
この功績により3千石を領し、世間に勇名を響かせた。
やがて秀吉による天下が平定すると秀吉は関白に叙せられる。
と、同時に清正も主計頭に任官された。
九州平定によって肥後の領主となった佐々成政が改易をされると、肥後北半分の19万5千石を与えられ、「大名」に列した。
このとき清正は居城である「隈本城」に入り、大改築を行った。
そして城の名前も「熊本城」に改めている。
清正の友人であり同じく子飼いの武将福島正則は子供のころから素行不良で、その「市松」が清州城の城主となると聞き民衆はたいへん恐れた、と言われている。
しかし清正にはそういった素行不良のうわさは聞かない。むしろ「清正公(せいしょこ)さん」といわれ神格化されている。
築城の名手である清正が作った城は数知れないがもっともこだわったのが居城「熊本城」だろう。
この熊本城に「不思議」な間がある。
「昭君(しょうくん)の間」と言われるものである。ここには清正自身も入ったことがない。それなのに豪華絢爛で質実剛健を旨とした清正には「につかわぬ」間である。王昭君という中国の悲劇の女性の物語が絵で描かれている。
明治10年西郷隆盛軍がこの熊本城に攻め入った。俗にいう「西南戦争」である。
清正はこれを予言していた、と言われている。
城には銀杏の木が植えられていて、俗に「銀杏城」と呼ばれている。
清正はあるとき「この銀杏が天守閣まで高く成長したら、また戦乱が起こるでろう。」そう漏らした。
それが西南戦争であった。
結局西郷軍は熊本城を落とすことが出来ず、鹿児島に戻ることになる。
「おいは官軍に負けたんじゃなか。清正公に負けたとでごわす」
と西郷は言ったという。
今年の大分熊本地震で熊本城も被害にあった。しかし、当時としては最新鋭の地震対策をなされたことがわかっていた。
「なにごとも朝鮮出兵が悪かったのだ」といいながら清正は酒をあおった。
「そういうな、太閤殿下が天で聞いておるぞ」そういうのは石田三成である。
「佐吉も、あんなおいぼれのよまいごとなど聞かなくてもよかったのじゃ。」
「わしは太閤殿下の命に従ったのみである。」
「ふん。おみゃあも知っての通り、若いころの秀吉さまはすごい人だった。それが天下を取って関白に叙せられてから、お人が変わられた。」
「うむ」三成は酒を呑んで聞いている。
「尾張の百姓上がりのどこがわりーんだ?なにうえ「大政所」さまを内裏におったことにして、自らを「天子さま」の隠し子だといっておる。そげーな嘘すぐにばれるわ」
「。。。。。」佐吉は返す言葉が無かった。
「やっと殿下によって平定された天下でほっとしちょる時に、朝鮮出兵だわ。大名は疲弊しとるだが。わしの領地でさえ百姓に重税をかけてほんとにすまねーおもってる」
「それは皆同じだ」
「佐吉よ~。わしゃーなにもおみゃーがわりーとはいっとらせんがね。太閤殿下がわりーのよ。秀次公の祟りじゃねーかとおもってる。」
そういうと再びに酒をあおる。
「秀次公は。。わしらが子供の時からしっちょる孫七郎さまはそりゃあ優しいお方だった。よくわしらが遊んでやったでねぇの。そんなお方を切腹させて正室側室といわず、子供から侍女まで殺しおった。ありゃあ人間のすることじゃねえ」
というと清正は横になった。
「あの時秀次さまは謀反を計画しておったのだぞ。それが露見して高野山に逃げたられた。太閤殿下も苦渋の決断であったぞ」三成は反論する。
「じゃあ。女子供まで手に掛ける必要があったのか?仮にも殿下の身内ぞ。秀次さまの御子がこれからの豊臣家を支えたかもしれねぇ」
「。。。。。」またもや閉口する三成である。
「おりゃーな、佐吉、豊臣家が徳川の下で大名家として残るのも悪くはねぇと思っている。どうせ、殿下と北政所さまが一代で作り上げた天下。天下は天下人のもとにあっての天下じゃねぇか?」
「家康に従うというのか?」
「従うわけじゃねぇよ。もし秀頼さまに牙でも向いてみろ、この虎之助喉笛にかみついても内府を殺してやるよ。だか、それとこれとは別だ。もはや太閤殿下の御威光はない。そうなったら、、、、」
「いうな。お前と呑むと酒がまずくなる。」そういって三成は席を立った。
「お前は所詮虎の威を借る狐なのかもな。でも俺はお前のそういう所が好きだ。まっすぐで、純粋で、欲がない。そういう人間を俺は初めて見た。」
「すまない」三成はそういうと加藤の屋敷を出た。
「あいつの事だ。戦でも起こすかもしれない。」
そういうと再びに盃に口を付けた。
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