漆黒の骸討ち

ゆでん

プロローグ 一歩目

「初代黒の骸討士推薦書類・・・。本物の様だな。」

壮年の髭を生やした男が、持っていた書類は机に置き、隣りの青年に視線を向ける。

「もう五年も前のものですか。よく掘り出してきたものだ。」

青年が、正面、腕を後ろに組んで立っている少女を睨む。

師匠せんせいが残していてくれたものだったので。」

少女の回答に、壮年のほうは視線を落とし、二枚目の書類に目を通しながら言葉を向ける。

「君の師匠は随分と用意の良いだったようだな。名前の欄に既に討士名が書かれておるよ・・・。うるし、君か。えー、歳は十七、住居は畿央か・・・。ん、両親の許可印が抜けているが?」

「両親は居ません。母は去年骸に成りました。父親は・・・行方知らずです・・・。」

視線を逸らした漆を、青年が睨みつける。

「何か隠しているのか?正直に話せ。」

「・・・まぁ、いいだろう。それ以外で不明瞭な点は無いしな。それでは漆君、書類審査は合格。実技審査は既に先代の推薦があるため免除。残りは筆記だな。」

「まぁ、基本動くだけの貴様らに筆記など意味があると思えないがな。」

「私も同意見です。香椎かしい少尉」

「・・・チッ!」

香椎と呼ばれた青年は立ち上がり、部屋を出て行った。

「・・・若いのは沸点が低くていかんな。さァて漆君、君に一つだけ聞きたいことがある。これは他の骸討士にも聞いていることだ。」

「なんでしょう。真島ましま中佐。」

漆は後ろ手に腕を組み、胸を張って姿勢を正す。

真島と呼ばれた壮年の男が

「君の大切な人、恋人、親、兄弟、友人が骸となってしまった時、確実に討つ《ころす》事は出来るかね?」

漆は組んでいた手を放し、仁王のかたちで真島に言葉を返した。

「大切な人が骸になってしまえば、"それ"はも骸であり、私の標的に他なりません。」

「・・・私は昔、大切な人を撃った。今でもあの人が骸だったらと、今でも思う。」

静かな沈黙のあと、真島が口を開く。

「なるほど・・・。それでは筆記、頑張ってくれたまえ。」

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漆黒の骸討ち ゆでん @yuden888

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