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「昔はね、良く見に来たのよ。本当に」

「…そう」

「アンタを連れて散歩に来たり、お父さんとのデートでも何度も来たの。ふふ、プロポーズもここでだった」

 ふと、想像してみる。夕日を背に、母に指輪を渡す父の姿を。きっと、母は今のように幸せそうな笑みを浮かべていたのだろう。

「父さん、かっこいいな」

 素直に思った。ロマンチストと笑われるかもしれない、けれど、母を今こんな顔に出来たのはその父なのだから。

「アンタが出来た時もね、本当に喜んでくれてね。この世の一番幸せなことだって言ってくれて」

「うん」

 頭に浮かんだのは、手を取り合って喜ぶ二人の姿だった。

「夕日のように大きくて温かい人になって欲しいって、そうお父さんは名前を付けてくれたのよ。優陽って」

「…っ」

 なぜだか、目頭が急に熱くなった。

 父の事を恨んだことは、正直何度もあった。なんで自分には頼れる父がいないのか、どうして置いて逝ってしまったのか。強がって笑顔しか見せない母が、静かに涙を流す姿をみて思っていた。母さんを、一人にしないでくれ、と。

「ごめん」

「え?」

 小さくつぶやいた声は、吹き抜けて行った風がさらったようだった。

「なんでもない」

 ごまかす様に笑うと、母は不思議そうな顔をした。

「良い名前、付けてくれてありがと」

 母と、父に言った。二人の思い出の夕日のように、温かな人になろう。父の分まで、母のことを大切に思おう。

「ふふふ、それじゃあそろそろ帰ろうか。帰りは何か美味しいものを食べて帰ろっ」

 歩み出したいつの間にか小さくなってしまった母の背中を、愛おしく思った。これからは、面倒くさがらずに帰省することにしよう。父が傍に居られなかった分、自分が傍に居よう。

「また、連れて来てやるよ」

 そう言うと、母は振り返って嬉しそうに笑った。

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