第23話 魔物よ、再び勇者を味わうがよい

 クプウルム王国の街に潜む勇者を狙う一匹の人に化けた魔物、彼はある噂を確かめるべく街をさまよい歩いていた


「勇者が消えたと言う噂が本当だといいんだが・・・正直会いたくもねぇんだよなぁ」


 魔物は教会の一件で負った傷が回復したばかりだった。病み上がりの身体に鞭を打ち情報収集しているのだ


「たくよ、なんで魔物のオレが神の加護なんてうけなきゃならねえんだよ。勇者をさらったじゃないかって噂の魔女が通ったって道はこの先か?」


 魔物は目的の道に出た


「話によりゃあ、ここを南に行ったんだよな。狂乱の魔女の工房に向かう道じゃねえかここ。面倒事が二倍になったりしないだろうなっ・・・なんだこれ」


 魔物のつま先に何かが当たる、それは手帳だった。魔物は手帳を拾い上げる


「うーん…どっかで見た手帳だな…って、まさかこりゃ!?」


「うわーん…探検の書はどこだぁ…」


 道の先から聞き覚えのある声が土煙と共に使づいてきた


「ちょっとゆうと!そんなに急いでたら落とし物なんて目に入らないじゃない!」


「どこだ!どこにある!僕の探検の書!」


「げっ!ヤツは!?」


 土煙と叫び声を上げながら近づいて来る物体、それは勇者だった。魔物は馬車に轢かれる前の子猫のように目を合わせ固まってしまった


「勇者がかついでる袋から頭を出してるあの女の耳…アレはまさか獣人!?ワーウルフか何かか」


 その時、魔物の思考は高速で回転し、ある答えを導き出した”あの袋のに入れられた女は魔物か、オレの他に潜入している奴が居るとは。いやそんな事より何で袋に入れられて勇者と一緒に居る、捕まったのか?勇者は何を急いでいる?てか姿を消したんじゃなかったのか??まさか…勇者が姿を消したと言う噂とそれほぼ同時に流れた勇者をさらったと思われる魔女の情報…これはつまり”


「あの噂は侵入しているスパイを誘い出し、捕まえるためのブラフっ!」


「あ!あの手帳!」


「ひぃい!!」


 魔物は勇者と完全に目があった


「捕まってたまるか!!」


「あ、待ってください!」


 魔物は全力で逃げた


「何で逃げるんです!その手帳を返して!!」


「アンタが怖い顔をして走ってるからよ」


 魔物は路地に入った


「くそっ、路地に入られたか!?」


「街の事ならあたしが詳しいわ、案内してあげる」


 魔物は狭い路地を駆け抜けていく、後ろに勇者の姿は無い


「へへへ、上手くまいたか」


「僕の探検の書・・・」


 勇者は先回りしていた!


「ひい!この道なら追ってこれまい!」


 魔物は狭いすき間を通り逃亡した


「ち、逃げられた」


 真理をかついでる勇者はこの道を通れない


「うーん、この先は多分あそこに出るはずね。ゆうと、この道の先を右に曲がって」


 勇者は真理の案内の通りに進んだ。行く先には魔物が息を切らして汗を手で拭っていた


「ぜぇぜぇ…もう追ってはこれ…」


「返してくださいよ探検の書」


「ひいぃ!!こなくそう!」


 悲鳴を上げた魔物はさらに逃亡した


「また逃げられた…」


「左に行って」


 真理の案内で勇者は先回りをする


「まってください僕の…」


「ひっ!まだまだぁ!!」


「上」


 逃亡した魔物を真理の案内で先回り


「今度こそ…」


「まってくださ-い」


 勇者はロープを掴み屋根の上から飛び降りて来た


「絶対に捕まらん!」


 魔物は逃亡


「今度は下」


 真理の案内で先回り


「ぜぇぜぇ…ここなら…」


「あ、いたいた。手帳返してください」


「げっ!何で水路から!?ええい!」


 また魔物は逃亡、その行く先々を


 先回り


 先回り!


 先回り!!


 先回り!!!


「今度はのこの樽の中に隠れて待ってて」

 

「この樽の中にですか?」


「うん、あたしはこの袋の中に潜って隠れられるから」


 勇者は真理の指示に従い樽に隠れた。しばらくすると魔物が勇者の隠れている樽の上に座った


「ふぅ、やっとまいてやった」


「返してくださいよ探検の書」


 勇者は樽の蓋を持ち上げて魔物に声をかけた


「うわわぁ!化け物ぉぉ!!」


 真理も袋から顔を出した


「観念しなさい」


「ひいい!諦めてたまるかぁぁぁ!」


 魔物は逃亡した


「それにしても本当に道に詳しいですね真理さん」


「衛兵から逃げたり、実験台を捕まえる時にちょっとね」


 魔物は薄暗い路地を必死に走った


「ひぃ…ヒィ・・・何で逃げきれねぇんだ…」


「次は右に曲がるはずよ」


「はい」


 後ろを走る勇者を女が案内している姿を見て魔物は確信した


「あのアマッ!俺を売りやがったな!」


 魔物は”殺す!無事に逃げ切った後に絶対になぶり殺しにしてやるクソアマが!!”と心に誓い走ったが失態を犯したことに気付いた


「しまった!この先一本道じゃないか!」


「よし、あたしが電撃魔法で止めるからその隙に…」


「わかりました、行ってきてください」


「行くって?」


 勇者は袋を投げるような姿勢をとった


「頭突きにスキルを乗せられたんだ…投げてもいけるはず!」


「え!?ちょっと!」


「ブン!」


 勇者はヘビーアタックをのせて真理を魔物に向かって投げた


「きゃあぁぁぁぁぁ!!」


「なっ!ぐげぇ」


「ドーン!」


 真理は見事に魔物に命中し、魔物は失神した


「ふー、魔法を使うまでも無かったみたいですね真理さん。よいしょっと」


 勇者は探検の書を取り戻した。真理は怒りに満ちた目で勇者を睨みつける


「あ、あんたねぇ!…ん?…ゆうと」


「どうしたんです真理さん?」


 真理は脈を確認する様に魔物の首筋に手を当てる


「この人…死んじゃったみたいよ」


「ええ!?」

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