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もらった書類を記入し終えそうなタイミングで扉がノックされた。返事をする。少し間があって、入って来たのは富士川教授だった。授業終わりだからか手に本を数冊抱えていた。
「悪いんだけど、扉開けておくの手伝ってもらえるかな。あと、この本たちも持ってほしいかも。」
教授の頼みを断るはずもなく、扉のあたりまで行く。私は教授の抱えていた本を受け取り、先輩は扉を押さえる。受け取った本をとりあえず教授の机に置く。
開けられた扉から次に入ってきたものは都市模型だった。持ち運びに不便なので台車に乗せて運ばれてきている。その台車を押しているのはM1の
「いやいや、ありがとう。この模型を他学部の子たちにも見せてあげたくてさ。持って行ってみたら思ってたより反応よくてよかったよ。でも、今度からはもう少し小さいやつだけ持っていくことにするよ。」
「教養棟ってここからだと少し遠いですから持ち運び大変ですしね。」
「そうそう。毎回、安川君に頼むのも悪いし。」
「えっ、僕が運ぶの担当なのは確定なんですか。」
安川さんは頼まれたことあまり断らない。だから、誰も無茶なお願いを彼にしないし、教授も無理のない範囲でしか手伝わせない。人が良すぎるのだ。模型を元あった場所に戻しながらもちゃんと私たちの会話についてきてくれるあたりも良い人だ。
教授の方は持って行っていた本を棚と机に戻し終え、コーヒーをいれようとし始めていた。
「みんなの分もコーヒー入れようか。」
「入れていただいてもいいですか。」
「私は先にいただいたので大丈夫です。」
「私も同じです。」
返事を聞いた教授は2人分のコーヒー豆を量って入れる。わざわざ豆とコーヒーメーカが置いてある研究室は珍しいと思うが、教授がコーヒーがないと頭が回らないという理由でおいているらしい。立派なカフェイン中毒だ。
「そういえば、篠田君は私に何か話があると聞いているのだけど。」
コーヒーが抽出されて落ちるのを見ながら、思い出したかのように、それでいて切り出すタイミングを狙っていたかのように教授がそう言う。
「あっ、そうです。奨学金の件で話があります。でも、その書類があと少し書き終わってないので、書いてからでもいいですか。」
「いいよ。今日は急ぎの用事はないからゆっくりでもいいよ。」
私も特に他の用事はないがゆっくりやるほどの量でもないので、手早く終わらせにかかる。書き終えたところでもう一度書類を見直し、抜けがないかをチェックしてから教授に声をかける。
「おっ、早いね。末永君からも軽くは聞いてはいるけれど、話をどうぞ。」
「私、大学院に進学しようと思っていることは話させていただいたと思います。そこで、進学するに当たって学費を軽くしたいので、成績条件のある奨学金を申し込みたいのですが推薦をいただけますでしょうか。」
「いいよ。末永君の時と同じやつだよね。その書類を渡してくれたら書くよ。」
思ってたよりも軽い返事で了承をもらえて驚きしながらも、先ほど書き終えた書類と教授に書いてもらう分を手渡す。
「これって、いつまでに申請すればいいの。私はいつまでにかけばいいのかしら。」
「院試を受けて合格してからの申請ですので合格した後にもらえたらと思います。」
申請要綱に提出期限が書かれているが、いつから申請できるかまでは、はっきりとは書いていないので曖昧な返事になってしまう。
「あれ、篠田さん、院試免除って言ってなかった。」
安川さんが疑問に思うのも無理はない。
「えっと、実質は免除なんですけど、形式的には面接だけは受けないといけないので合否はちゃんとでます。ほとんど受かるとは聞いてますけど。」
「大丈夫だよ。私も一昨年、受けたけど富士川先生と
「そんなので受かるんですか。僕なんてちゃんと院での研究したいテーマとか、研究したい理由とか、筆記試験についてとか色々話してやっとの思いで合格させてもらったんですよ。富士川教授もしっかりした質問ばかりで雑談とかそんな和やかな雰囲気ではなかったですよ。どちからというと圧迫面接みたいな雰囲気でしたし。」
「まあ、安川君の場合は他大学からだったってのが厳しめだった理由だけど、
安川さんがロンダリング組だったことは知らなかったただ外部からでなくても、最近はこの大学も院試の難易度をあげてきており、きちんと勉強してきた人間だけを通すようにはなってきているらしい。それを免除してもらえるならありがたい。
「院試はないからといって勉強をおろそかにはしないようにね。奨学金の支給の要件は院に行ってもちゃんと研究しているかだから、研究さぼってると奨学金止められるから。」
末永先輩は止められたりしないだろうに、さも経験者のように語る。
確かに、私が申し込もうといている奨学金制度は高等教育の習得、修士・博士課程における学習に専念できるように経済的支援を行うという目的なので研究へ取り組まないなどの事情があれば止められることがあるらしい。
「気を付けます。そのためにも今は春学期のテストと卒業研究頑張ります。」
話をここで一度まとめた。帰ろうと思ったからだ。
「お腹空いた。」
末永先輩がつぶやく。
腕時計に目を落とすと、いつの間にか12時を過ぎていた。
「もうこんな時間か。」
「ねぇ、りーちゃん。昼ごはん食べにいかない。よかったら教授も安川君も一緒にどうですか。」
「誘ってもらってありがたいですけど、僕はこのあとアルバイトがあるからいけないです。」
安川さんが残念そうに言う。
「せっかくだけど、珍しく弁当を持ってきてしまっているので私も遠慮させてもらうよ。」
富士川教授が鞄から弁当箱と水筒を出しながら言う。
「あら、残念です。りーちゃんはどうする。」
「私は行きます。どこかで食べて帰らないといけないので。」
「じゃあ、向日葵にでも行こうか。」
向日葵というのは学内にあるレストランの名前だ。うちの大学の食堂やレストランなどの食事施設は全て植物の名前が付けられている。
すでに先輩は荷物を軽くまとめて鞄にいれ始めている。私も筆記用具を鞄にしまい、行く準備をする。
「あぁ、末永君はこの後、話したいことあるからもう一度戻ってきてくれるとありがたいな。」
「わかりました。」
扉を閉める直前に、教授がそんなことを言った。
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