焔転生 ~吹き飛ばされたのは異世界だった?~
暁人
序章 プロメテウスに吹き飛ばされた
0話 オタリーマン、焔へ還る
俺こと
芸大を出てギリギリでなんか聞いたことあるかも程度のB級映画レーベルに就職、現在タバコの火ぐらいでいい感じに燃えそうなボロアパートの二階の角部屋で一人暮らし満喫中(そろそろ辞めたい)の26歳の冬。
未だラブラブであり、それでも子供がいないと寂しがる甘々な両親たち。そんなお砂糖の垂れ流し工場から逃げ出せれない高校生の弟が一人。俺は弟をイケニエに奉げて就職を理由に家を出た。
身長は175と平均(?)ぐらいで顔は・・・うん、ラノベの主人公みたいにカッコいい訳でもブッサイクと言う訳でもない(つまり普通と俺は声を大にして言いたい)。しかしいい人どまり。オタクだからか? 彼女を作ろう努力をしてみたものの「園やんさ、○○君と仲、いいよね? 相談に乗ってくれる?」を好みの女性から言われること数知れず。心、折れちゃうよねー。おかげで趣味の映画観賞なんかは男臭いアクション映画ばかり。まぁおかげで就職できた訳なんだが……。
「あっおはようございます。朝早いですね。これからお仕事ですか?」
軋むアパートの扉を開くと隣に美人さん。
最近引っ越ししてきた
「おはようございます。バイト明けですか? おつかれさまですね」
「はは、やっぱりわかっちゃいますか? 夜勤のコンビニお給料はいいんですけど、やっぱり眠くて眠くて」
「あー自分も学生の時やってたからわかるなー。でも学業に支障でないようにねー。じゃないと俺みたいに講義で爆睡しちゃうよー」
「はい、しっかり寝てから午後の講義に挑みますっ! では失礼しますね」
「はーいお休みなさい」
自分、なんでもないように話していますが、とても緊張しています。そもそも社会に出てから美人さんと話すのは全然ないんだから。あっ女子とは話すぞ。会社にいる女性であることを捨てたような恰幅のいい後輩とあの映画の銃剣突撃のシーンは泣けるよねっ! とか、それなら二等兵を助ける為に戦車に身を曝す大尉の方が泣けますよーとか・・・ほら、全然話すしっ! 女子が苦手って訳じゃないしっ! 会話、出来たしっ、出来るしっ!!
高杉さんの部屋の扉が閉まるの見届けてから歩くだけでキィキィと鳴ってる廊下を渡り、これまたギシギシと悲鳴をあげる階段を下る。確か、今日は某指輪系のファンタジーを
もっかい言うよ。褐色のお姉さんがタングステンを求めて旅に出るという話だ。うん、なんでタングステンやねんっ! ファンタジーらしい鉱石にしろよっ! オリハルコンとかっ! オリハルコンは金とかの合金だったって言うならミスリルでもいいやんっ! あっこれはやっぱり指輪系ファンタジーのパクリになっちゃうから無しで……
でもそれ以上にドワーフ要素って褐色肌だけなの? もっとこう髭モジャとか筋骨隆々とか無いの? ふぁんたじー仕事してって感じの映画なんだけど……。
これ、需要ある?
みんなどんなデザイン案出してんだろ? 俺、突っ込みしかないや。
あー仕事いきたくねーなー。どーせ突っ込みなんぞイランって言われるだけだろうしな。
なにも考えず、サバゲーしたいわー。
ぼーっと重い足取りで駅に向かって歩いていると後ろからドンっと結構強めな衝撃が肩を押した。
「タラタラ歩いてんじゃねーっぞっ! 燃やすぞコラっ!!」
と言って走り去っていく黒ずくめの男が見えた。
たく、なんだってんだ。こっちはアンニュイなんだぞ。使い方合ってるかしらんけど。何気なく後ろを振り返ってみると俺の愛すべきボロアパートの方からこれまた黒い煙が立っていた。
おい
アパートに向かって歩き出す
おいおい
黒い煙がどんどん大きくなっている
おい、そんな……
スーパーで買い物する時よく特売コーナーで見かけるオバちゃんがケータイカメラで煙の方角を撮っている
おい、お前、もう燃やしてるやん……
俺のアパートが燃えていた。
野次馬が集まってきていた。朝、顔を見たら挨拶する程度のご近所さんたちが俺を見て無事だったかい! と言って喜んでくれる。パッと見た感じボロアパートの住民らはみんな避難しているようだ。住人らは呆然とまるで一人で見るキャンプファイアーみたいになんの感情も宿っていない瞳で盛大に燃えるボロアパートを見つめていた。
しかし、なにか忘れている。
呆けている彼らの肌はみんな白い。俺が朝会った彼女の肌は何色だっただろうか? いやそもそもあのボロアパートに住んでいるのは彼女を除いて全員男。だれか、ひとり、いない。
朝の会話、彼女はなんて言っていただろう。ほんの数分前の話なのだが、燃えているアパートを目の当たりした俺も少なからずショックを覚えているのであろう。頭がフリーズしている。
「はー高杉ちゃん、今日夜勤でよかったわねぇ。これこそ不幸中の幸いって言うのでしょうねぇ」
隣にいた野次馬オバちゃんの独り言を聞いて一気に脳が覚醒した。彼女がいないのだ。ここに。
助けなければ
他には何も考えていなかった
カバンを投げ捨て、邪魔な野次馬と言うボーリングのピンに、自身はボールの如く、ストライクを狙う勢いで駈け出した。後ろからアンちゃん諦めろっ! とか、焼け死ぬつもりかっ! という声が俺の背中を追いかけてくる。当然、俺自身はそんなつもり一切ない。これは人命救助だっ! つか朝しゃべったばっかりの人を助けられる距離に居て、見捨てるなんて出来る訳ねーだろうが
火がついた板階段を駆け上がり、熱で曲がった古びた鉄パイプを蹴って身体から遠ざける。階段上がってすぐの俺の部屋にはまだ火が回っていない。大丈夫。これならまだ彼女を連れて戻れる。戻れるはずだ。
「高杉さんっ! 火事だっ! 起きてっ!」
ドンドンと扉を叩く。じんわりと扉が熱い。
「高杉さんっ! 開けるからねっ!」
高校の時のケンカ殺法その一の形っ!ヤクザキックっ!
一回目は大きな音がしただけ、少し距離をとってからのーヤクザキックっ!
二回目で軋む音がした。次は助走をつけてからのーヤクザキックっ!
「園田さんっ! 私はここにいますっ!!!」
彼女のよく透る声がした。
それも下から。
「え?」
俺必殺のヤクザキックっ! は高杉さんの部屋の扉を蹴り破っていた。
その瞬間、俺は炎に抱かれていた。音はしなかった。これがバックドラフトってやつか。案外冷静なんだな。映画じゃ主人公めっちゃ慌ててたのに。いや、もう身体が動かんから慌てようがないんだけかもしれないんだけどさ。
世界がゆっくりになる。
これは真横に吹き飛ばされてるんだなー。この浮遊感、ジェットコースターで体験したことある。動かせるの目だけだった。そして視覚に捉えたのは吹き飛んで半壊しているボロアパートの一階部分と俺の部屋があった場所、その孔から見える張り裂けたガスボンベ。
さすが年季の入ったボロアパート。俺の死因はバックドラフトじゃなくてガスポンベの大爆発かよ。映画のようにカッコよくはいかないなぁ。
まぁ、いいかぁ高杉さん、助けられなかったけど助かって。
親父、母さん、
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