第15話 実家

(どうやらあの二人、化粧品の試作中にデキテタみたいね)

「ちゃんと見張っとけよ」

(イヤよ!そんな出歯亀みたいなまね)


 まあ、結果として良かったのかも知れないが。

 どうしよう、さっそく娼館の目玉が居なくなった。


(ダメよ!子供達にはやらせないからね!)

「なんでそんな事をすると思ったんだ?」


 フェイリースは孤児達に情でも沸いたのか、オレがきつい事をやらせようとするとすぐ反対してくる。

 小さいうちから甘やかすのは良くないんだぞ。

 最初の頃はフェイリースが怒ってもどうせすり抜けるしと相手をしていなかったんだが…


(もしやったらキリキリよ、キリキリだからね!)


 オレが寝てるとキリキリキリと歯軋りでもしてるような音をたてて寝させてくれない。

 どんどん悪霊に近づいて…


(ああん!)

「なんでもございません…」


「お嬢様、お手紙が届いております」

「誰からでしょう」

「エルベラース家当主となっております」


 父親、か…


◇◆◇◆◇◆◇◆


「お父様、本日はどのようなご用件でございましょう」


 あれから一週間後、少女はフェイリースの実家に訪れていた。

 使用人に案内されて入った部屋には2人の人物が佇んでいた。

 フェイリースの記憶から察するに、父親と母親だろう。


「最近、学院に通っていないらしいな…」


 最近というか1年以上通っていないんだがな、情報が遅いのか?


「ねえ、フェイリース、あなた下町でなにしてますの?その…色々へんな噂がですね」


 その噂も1年以上前からだと思うんだけど。


(仕方がないのよ、お父様とお母様は国外でのお仕事が多いから…)


 久しぶりに両親に会えた所為か、フェイリースの目元は緩んでいる。


「王子との経緯は聞いた、もう王子も気にしていないと言う。そろそろ戻って来てはどうだ」

「そうよ、フェイリース。なんなら外国の学院にも通ってみる?ね?」


 その時、バタンと戸が閉まる音が。

 見ると侍女が戸に鍵を掛けている所だった。


「お二人ともぬるすぎます。お嬢様のなされたことはエルベラース家にとって害となすことでしょう」

「「ヒィ」」


 両親が侍女に怯えている。なんだこれ、ん、えーとこの侍女は…なんかモヤが掛かっているんだが…


(思い出したくない!思い出したくないのよ!)


 何々…うわーケツ丸出しでペンペンされてら。


(ちょっと見ないでよ!)


 どうやらこの侍女、代々エルベラース家に使えてる家系らしく、代々のエルベラース家の家人を厳しく躾けして来ていたのだ。

 フェイリースの記憶では、下手すると当主より権力がありそうな気配が。影の支配者みたいな。


「お嬢様、あなた、貴族の間ではなんと呼ばれているかご存知ですか」

「え、えーと…気狂い姫?」

「ほぉ、ご存知だというのに改めようとしてなかったと」


 うぉっ、なんか一気に気温が下がった気が。

 しまった、実家は比較的安全だと思ってゴースト執事を連れて来てないぞ。


「まあ、学院での出来事をカモフラージュする為でしょうが…少々やりすぎです」

「は、はい、申し訳有りません」


 なんか反射的に謝ってしまうぞ。


(あんたの言うパブロフの犬って奴じゃない)


 お前、人事だと思って気楽に言うな。


(ふっふーん、こういう時、ゴーストで良かったって思うわー)


 まったく…ん、


「ねえ、あなたはあの噂は信じていませんの?」

「あたりまえでしょう。少し視野を広げれば分かることです。最近広がってきている派遣業、お嬢様の仕業でしょう」


 この侍女…出来る!


「お嬢様が子供達を虐殺していると噂がたった時と同じくして、子供達を使いに出す派遣業が広まった。その子供達はどこから出てきたのでしょうかね」


 やはり、分かる人には分かるか。


「お嬢様が実験用として買い取ったとされる奴隷市場、急に質があがりましたね。誰もが「絶望はしない!」と叫びならがら全力で仕事に取り組んでくれると」


 あー、それはまあ、変な噂の所為だな。


「時を同じくして、体に不自由のある方が働かれてる場所が増えたとか。中には処分屋に出したはずの子供が居て大層喜ばれていた夫婦が居たとか」

「…よく調べていらっしゃいますね」

「お嬢様、あなたはエルベラース家の一人娘、我々が護衛しないとでも?」


 そういや時々レイズが言ってたか。

 何者かがチラチラと周辺をかぎ回っていると。

 まあ、害が無いからほっといたんだが。


「まあ、そこまではいいですわ。奴隷市場はちょっとヒヤッとしましたが」


 そう言って侍女は一際真面目な顔になって続けてくる。


「しかし、化粧品はまずかった。お嬢様、あなたは狙われていますわよ。様々な貴族に」


 なんでも侍女の方のお話では、派遣業は平民間の話、奴隷市場は『納得』して権利が委譲されている。

 しかし化粧品の販売は…すでに化粧品の販売ルートを牛耳っていた貴族がだいぶおかんむり。

 しかもその新しい技術を我が物にしようと欲深い貴族連中が動き出しているとか。


「それは…販売を取りやめるのも、情報を公開するのもどちらにしろまずいということですか」

「そのとおりでございます」

「分かりました、どこの貴族におしつけ・コホン、もとい、売りつけるかはあなたにお任せします」

「あなた様はほんとにフェイリース様ですか?」


(失礼ね!)


 少女はすぐにとって帰って、化粧品のレシピを従者に預けた。

 その際、こちらがもう作らないという証明するために作業者、ようは人身御供を求められたのだが、うちの執事に魂の濁ってる人を見繕ってもらってレシピを教え押し付けることにした。


「ふう、しかし貴族社会って怖いな」

(国王は国王で自分のことしか考えていないからね。貴族はやりたい放題よ)

「しかし、そこまで慌てるほどのことでしたかな?我々には十分な戦力がありますが」

「ばっかお前、死者の軍団作るならともかく、リッチの一人や二人なんか、教会が出てきたらあっという間だぞ」

「…私のことだけではないのですがね」

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