第14話 救済への道

 足音が近づいてくる。


「この者は目が見えないようです…」

「そう」


 話し声が聞こえる、きっと私の事を話しているのだろう。

 私は生まれつき目が不自由だった。それでもかじろうて生活していけたのだけど、数ヶ月前、まったく見えなくなってしまった。

 まったく働けなくなった私に両親は泣きながら謝ってきた。これ以上養う事が出来ないと。


 分かっている、今の私は唯の足手まといだ、ギリギリ生活出来ていたのが、働き手が一人減ってしまって…食べる量をどれだけ節約した所で貯蓄の無い家だ、このままでは破綻してしまう。

 ガリガリに痩せている私の事だ。たとえ売られても買い手はつかないだろう。目が見えない、見た目も芳しくない、そんな私の行き着く先は…

 この世界には処分屋という職業がある。私のようなただの荷物を処分する職業が。

 そして私は引き渡されたその日に得体の知れない匂いのする穴に突き落とされたのだった。


「殺してください…」

「何を言って、せっかく助かった命なのに!」


 せっかく助かった…ですって!?何も分かっていない!私は…死ぬ為にここに来たのに!後もう少しで死ねたかもしれないのに!

 私は思わず大声をあげそうになり口を開く、と、口の中になにかが放り込まれた。これは…甘い…飴?


「落ち着きなさい。あなたは生きていたくはないのですか?」

「そんなの生きたいに決まっているじゃないですか!でも、私はもう…生きていく術を失ってしまったのです!」

「そう、それは良かったわ」


 そう言って冷たい手を私の頬に当ててくる。

 え…なにが良いの?この人は私をバカにしているのだろうか。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 なんて事だ…そりゃそうだ、目が見えないのに生きていて良かったなどと。目が見えずにどうやって暮らせば…

 この世界、全盲の者が働ける場所などどこにもないと言うのに。


「何が良いと言うのですか、あなたは私をバカにしているのですか」


 全盲の女性が、少女に向かってそう言ってくってかかる。

 慌てた冒険者の一人が相手は貴族だからおとなしくしているように伝える。

 だが、その女性はそれを聞いても尚、態度を改めようとはしない。まるで殺して欲しいかのように。


「ねえ、マルクス、目の見えない人たちが働ける場所は有りませんの?」

「俺が知る限りは聞いた事がないです」

「そう、…娼婦とかは無理なのかしら?」


 そうか、娼婦なら…


「でも、色々通っているけど見たことないなぁ。あっ」


 俺はお嬢様の前でなんと言うことを。うぉっ、隣のミリスの視線が痛い…


「無いのなら作ればいいですね。一から作るなら体の不自由な方でも不便の少ない施設にできますし」

「えっ、お嬢様が経営なさるので?」

「最初はね、ゆくゆくはどなたかにお任せすることとなりますけど」


 ミリスがものすごく微妙な顔でお嬢様を見ている。

 お嬢様、娼館についてほんと内容をご存知なのだろうか?


「あなた次第ですわ、イヤだと言うなら事務でも…」

「私働けるのですか!本当に!?こんな見た目なのに?」


 お嬢様は全盲の少女の頬を両手で挟みこんで話をする。


「一般的に美人は1000人に一人と言われているのです。それにしてはパッと見は結構いけてる女性は多いですよね、さて、それはどうしてでしょう」

「え、えーと…お化粧とか?」

「はい正解。女性は化けるのですよ。さあ、あなたも男性を化かせてあげませんか」

「で、でも私お化粧なんてしたことないですし」

「そこは私に任せておきなさい」


 フフフとなんか悪そうな笑みを浮かべている。アレさえなければお嬢様も絶世の美人なんだが。

 と、呟いた冒険者は隣の女性に頬を抓られている。


「しかし、娼婦と言うのはいいのか悪いのか」

「あら、あなたは娼婦をバカにしているのですか?職業にキレイ、汚いはあれども、良い、悪いは有りません。すべての職業は世の中に必要とされて平等に存在するのですよ」


 そ、そうか。そうだよな!どんな職業であれ、必要とされ、生きるための手段として存在する。それに忌憚はありえない。


「犯罪は別ですけどね」


 …ですよね。俺、暗殺者ギルド抜けようかな。


◇◆◇◆◇◆◇◆


(うわーキレイ…勿体無い!勿体無いよ!これなら貴族の妾でも…あ、それよりは娼婦がましかも?)


 オレ達の元には日々様々な技術が集まってきている。

 派遣により技術を覚えた子供達が集めた知識を一元管理しているからな。

 その中で化粧に使えそうな技術がいくつか見つけ色々試してみた。


「大丈夫です。特にお肌が痛んでいる風には見えません」

「ありがとうございます。神父様」


 この世界には回復魔法がある。そして神官連中はその回復魔法のプロであり、こうして化粧水が人体に影響が出ないか見定めてもらっていた。


「しかしほんと見違えましたね…これなら教会の巫女でも、おっと」

「あいかわらず口の軽い神父様ですわね」

「ハハッ、なんのことやら」


 この神父はちょっとした理由で教会を追われていたとこをこっちへ取り込んだのだ。

 まあ、ちょっとした理由と言うか、単に貴族の不興を買った訳だが。

 あと、先ほどポロッと言った教会の巫女だが、ようは高級娼婦、神殿が非公式で貴族連中をもてなす時に呼ばれる女性達のことだ。

 ほんとこの世界は腐ってやがる。


 ちなみに、フェイリースも多少なら回復魔法が使えるのだが、授業をさぼってた所為かあまり役に立たない。


(いやだってあれよ?人の解剖とかすんのよ?こわいじゃない?)

「人というかモンスターだろ」


 回復魔法の授業では人に似たモンスターの死体を用いて授業が行われていた。


(見た目が人と一緒なら一緒じゃない!)


 いやまあ、そのとおりなんだが。


(つーか今はあんたが私なんでしょ?自分でやりゃーいいじゃない)

「いや、オレもあれはあんまりやりたくないかなぁ」


「あ、あの、ありがとうございます!私、見えないけど、頑張ります!」

「世界の経済にもう少しゆとりが出てくれば、心にもゆとりができる人が増えます。そうすればあなたを身請けしたいと言う人も出てくるかもしれません」


 オレは少女の頭をなでながら慰めの言葉だと知りながらそう答える。

 だが、その3ヶ月度、少女は身請けされることになる。


「お前か神父!」

「ハハッ、なんのことやら」

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