EASYな日々

しょもぺ

第1話 空はとっても青いのに


彼女を手に入れて、はしゃいでいる奴を見ると


俺はくやしくてたまらなくなる


だってそいつは、『たかが女』を手に入れただけで

誰よりも有頂天になれるのだから


そんな簡単なことで満足出来る奴はズルい


誰よりも有頂天になれるように

誰よりも満足できるように


くそっ!

誰か俺にもそんな充実感を与えてくれっ!


だけど、俺の欲している物は何なのだろうか・・・?




EASY1  『空はとっても青いのに』


ある日の朝刊の片隅に小さく載った記事があった。

とある若い男が自宅の一室にて死亡。原因は不明。争った跡がないので自殺とも思われたが、自殺した際に使用した道具などは一切発見されていない。解剖した際にも病気を患っていなかったこともわかった。

ただ胃には食物が一切なかったことから、断食による衰弱死が原因とされているが、冷蔵庫には沢山の食料が入っていたという。この男の死については、原因不明と断定された不思議な事件であった。



気がつくと俺は

町のはずれの公園で芝生に寝転びながら

空の雲をぼんやりと眺めていた


天気は快晴。

春の心地よい風に吹かれると、なんだかお尻の筋肉が緩む様な感覚に陥る。

上を見上げれば、これ以上ないほど青い色をした空と、純白な雲がもくもくと続いていた。

俺は額の前に手の平を宛て、コの字に指を曲げ、雲を掴んでみようと試みる。

結果、もちろん掴める訳はなかったが、指と雲との距離さえ縮まれば、必ず掴めるだろうと思った。

そんなくだらない事を考えながら、俺はただ空をぼーっと眺めていた。


俺はふと、数分前の出来事を思い出していた。

思い出したくはなかったのだが、忘れる事の出来ない強烈な記憶が、俺の頭の回路に焼き付いてしまっていた。鼻の頭からは油汗がジットリと滲み、ゾッとして鳥肌が立った。

こんな時は自分の脳味噌をカパッと開封し、記憶の配線をニッパーか何かでプチッと切断したくなる。一時でも良いから全てを忘れ、この空をノンビリと眺めることに集中したいと切に願った。


ああ・・・!

もし、神様という存在が実在するならば!

そして、俺の願いがひとつ叶うのならば!

腕の一本ぐらいならくれてやっても良い!

切断器具は斧でもノコギリでも何でも良い!

そればかりか、自分の心臓さえ捥ぎ取られても構わない!


本当に願いが叶うならば・・・

俺はアンタの事を・・いや、アナタ様の事を一生崇拝することだろう。

そして、稼いだお金で崇拝堂を作り、地球上のみんなに拝ませるだろう。


だから!

お願いだから!

俺の願いを叶えてくれ!


「あいつと別れたい・・!」


俺は、もう一度手の平を額の前に宛て、指で雲を掴んでみようとした。

その時に、親指の爪の先に血がこびりついて固まっているのに気付いた。

それを人差し指の腹で擦ると、ポロポロと剥がれて落ちた。

「あいつの血・・・」

俺の右拳に、あいつを殴った感触が甦ってきた。そして、とてつもなく自己嫌悪してみたが、

「いや、悪いのはあいつだ!」とすぐさま自己弁論し、裁判の判決は一瞬で下された。


「・・・・・・ちゃ~ん!」(俺の名前)

遠くの方からあいつの声が聞こえ、俺はドキリとした。

土手からあいつが手を振って走ってくるのが見えた。


何故だ?!

何故あいつは笑顔で俺に手を振って来れるのだ!

さっきまで俺は、おまえを思いっきり殴り倒していたというのに・・・!

なぜ憎まない?なぜ俺を嫌いになってくれないんだ?


もはやこれまで。

絶壁から突き落とされ、暗い闇に包まれた絶望感が俺を支配する。


そして俺は、不機嫌そうにソッポを向きながら、“大キライな”あいつに向かって手を軽く上げた。

“大キライな”あいつは何事もなかったように俺の横に座り込み、腕を持って俺を立たせようとした。

俺は無言で立ち上がり、公園の土手へスタスタと歩きだした。

“大キライな”あいつは俺の腕に手を絡ませ組んできた。

さっきの事はウソであったような態度だった。

しかし、そうではないと決定づけるひとつの証拠が残っていた。

“大キライな”あいつの顔や腕には、青々としたアザがいくつも出来ていた。


俺はこれ以上、何も考えられる事が出来ないまま、“大キライな”あいつと一緒に住んでいるアパートへと向かって歩き出したのだった。


空はとっても青いのに

俺の心は土砂降りでも降りそうな

真っ黒い雲に覆われていた


この時、俺はアイツに殺意を持った。

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