短い話
こもり匣
第1話「指環」
それは旅の途中、とある山深い村落の宿場に
その宿場は、
案内された部屋の扉を開けると、中は畳部屋ではなく、六畳ほどの広さの板間で、板の上に厚めの
窓の手前には、アンティークな木製の机が
卓上には、これもまたレトロなシェードつきの西洋ランプが置かれていて、
他にする事もなく、景色でも眺めてやろうかと窓に近づくと、どこかでコロンと小さな音がした。
どうやら床の上の何かを
見ると緑色の石の
何気なく
とは言え宿泊部屋は二階で、わざわざ一階の受付まで届けに行くのも面倒だし、気にするほど高価な代物でもなさそうだったので、中居でも部屋へ顔を出したら渡せばいいだろうと、取り
けれども、楽しみにしていた
そうして真夜中の事――。
何とも言えない奇妙な寝苦しさに目を覚ました。
暑いわけでも寒いわけでもないのだが、何故だか空気がとても不快で、全身に悪寒のような嫌な感覚と震えがあった。身体もひどく
ただ
不意に「カタン、カタカタ」と音がした。
音は窓の方から聞こえるようで、そうっと布団から首を伸ばして
最初は真っ暗で何だか分からなかったが、次第に雲間から月が現れ、
それは巨大な
目にした途端に
――ランプだ。
異形の物体が、西洋ランプに灯を点したらしい。
その
それは「腕」である。
死人のような青白くて異様に細長い複数の腕が、引き出しの虚空から草のように生えだし、天井に向かって伸びている。
あるのは腕ばかりで、頭も胴も脚もない。
気を失いかけながらも、持ち前の強い好奇心で、どうにか踏ん張って観察し続けていると、一本の腕が、何か小さなものをつかんで、月に照らすように高く
見れば、あの指環ではないか。
緑色の石が、ランプの光に輝いている。
指環に気づいた瞬間、耳元で誰かがボソボソ
何を言われたのかは、ほとんど覚えていない。何故ならば、その直後、完全に気を失ってしまったからだ。ただ、消え入るような弱々しい女の声で、
目覚めた時にはもうすっかり朝で、部屋の中は、窓から差し込む朝日に明るく照らされていた。
ランプの灯も消され、引き出しも閉じている。
怪異の
起きてから、あの指環を探してみたのだが、不思議な事に床にも引き出しの中にも、部屋中どこにも見当たらない。
数年後、再び村落を通りかかると、あの宿は
(お
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