金魚鉢14 告白~蒼猫悲話
「あの人が、フクスを取り戻そうとしてる……」
寝台の
ミーオは
ミーオとフクスは、
ミーオが客を
ミーオは激しくフクスを抱いた。嫌がるフクスの唇を
フクスの体には、ミーオに口づけられた
「フクスを捨てたくせに、どうしてレーゲングスさんはフクスをまた欲しがるの? 私、あの人が分からないわ……」
「ミーオ」
悲しげなミーオの頬に、フクスは唇を落とす。甘い息がミーオの唇から漏れ、フクスは体を震わせていた。
「嫌よ……。フクスは、フクスだけは私の側にいて……」
ミーオはフクスを抱き寄せた。フクスもミーオの背中に腕を回す。
ミーオの体は震えていた。怯えるように、彼女は眼をフクスに向けてくる。フクスは翠色の眼を優しく細め、ミーオの猫耳を
ミーオから聴かされた話を思い出し、フクスは顔を曇らせる。
兄がフクスの
その後、ミーオはフクスをこの部屋に呼びつけ
――私だけを、見て……。
そう涙声を発しながら、ミーオはフクスの体に涙を
一瞬、レーゲングスの
「どこにもいかないわ。ずっと、あなたの側にいるよ……」
あやす様にフクスはミーオの背中を叩く。ミーオは体を丸め、フクスの胸元に顔を押しつけた。
「私、あの人が嫌い。いつもフクスのことばかり見て、フクスを私から盗ろうとしているの。お父さんを私から奪った、金魚鉢みたいに……」
「お父さんを、奪った?」
ミーオが顔をあげる。彼女は瑠璃色の眼を悲しげに
同じ色の眼を持つ男性をフクスは思い出す。フクスを遊郭まで連れてきたくれた船頭だ。
ミーオの父親である彼は、娘のいる遊郭に客を運んでくる。娘であるミーオには会おうとさえしない。
その代わり、彼は娘のために花火を打ち上げるのだ。ミーオが落ち込むことがあると、いつも夜空を花火が彩る。その花火を見上げるミーオは、悲しげな笑顔を浮かべる
その原因が金魚鉢にあるとミーオは言っている。
「蒼猫は、幸福の象徴……。蒼猫の娘を抱くと幸せになれるって迷信があるの……。だから村の男たちは、お父さんに私を売るよう
彼女は、大粒の涙を零しながら両手で顔を
「たくさんの男たちに、私とお母さんは犯された。凄く痛くて、恐くて……。それでもね、お母さんは私の名前を必死になって呼ぶの。ミーオ。大丈夫よ、ミーオって。男たちがそれを笑って、お母さんをたくさん殴って……。お母さんは動かなくなって……」
ミーオの体が震えている。その震えが、腕を通じて伝わってくる。フクスはぎゅっとミーオを抱き寄せていた。
「お父さんが助けに来たときには、男たちはいなかった。お母さんは冷たくなって、私はお母さんにしがみついて泣くことしか出来なくて……。父さんにお願いしたの。殺してくださいって……。でも、お父さんは私をたくさん叩いて、泣いて、抱きしめてくれた……。金魚鉢で戦えって言った……。誰にも負けないキンギョになって、お母さんを殺した奴らに復讐しようって……」
ミーオが顔から両手を離す。涙に煌く眼を細め、彼女は
「だから私、頑張ってキンギョになった。嫌な男たちの相手もたくさんした。お母さんを殺した豚どもを
ミーオの微笑が、苦しげに歪む。彼女はフクスの胸元に顔を押しつけ、
ミーオの告白を聞いて、フクスは自失していた。
蒼色キンギョとして、金魚鉢で知らないものはいないミーオ。見習いフナの誰もが彼女に憧れ、ミーオ付きの自分を
そんな彼女に、深い闇が隠されていた。その事実にフクスは衝撃を受けたのだ。
「お父さんに、会いたいよ……」
ミーオの涙声がフクスの狐耳に突き刺さる。
「ミーオ……」
フクスはミーオを呼んでいた。ミーオが顔をあげる。父親と同じ瑠璃色の眼が大きく見開かれている。
「会いに行こう……。お父さんも待ってるよ……」
優しくミーオに微笑む。
「フクス……」
彼女は笑顔を浮かべ、力強く頷いてくれた。
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