ディープなオタクの昭和ドリーム・エクスプロージョン

兵藤晴佳

蘇る去年の冬の昭和ドリーム

 実家からは通えない辺りにある県内の大学に進学した後、最初の目論見どおりにダラダラ過ごして迎えた最初の冬のことだった。

 前日の夜更かしで大幅に失った睡眠時間をぬくぬくとした朝寝で取り返そうとしていた僕は、煎餅布団の枕元に置いたスマホの着信音で目が覚めた。

 そんなことで起き上がる僕ではない。

 秋月雄偉あきづき ゆうい。19歳。

 自分で言うのも何だが、将来何をする気もないまま大学の4年間を過ごすと決め込んで開き直ったオタクだ。

 キモオタと言いたい奴には言わせておけばいい。

 そもそも、そこまで言ってくれるほど付き合いのある友人は心当たりすらない。

 ましてや彼女なんか、どうせできはしないのだ。

 やりたいことができる時間を有効に使わせてもらう。それだけだ。

 だから夕べの夜更かしも、固く決めたポリシーを実行に移しただけにすぎない。

 長いこと待ってようやく復刻された特撮SFロボットもののDVDボックスがようやく手に入り、僕は抱いて寝たい思いをぐっとこらえて封を切り、第1話から一気に見てやったのだ。

 1971年の4月から半年間、26話にわたって放送されたのを、TV予告などの特典映像も入れて12時間半にもわたって見ていれば、昼夜も逆転しようというものだろう。

 無視を決め込んで二度寝を楽しもうと布団に潜り込むと、再び着信音が鳴り響く。

 一晩中、26回聞き続けたオープニングテーマだ。


  驚かないぞ バンババン 

  誰も知らない バンババン


 意地でも起きてやるものかと腹這いになり、枕を抱えて布団の中にうずくまるが、着信音はしつこく歌い続ける。


  透明なんだぜ ギューン! 

  大巨人


 じっとこらえていたが、とうとう我慢できずに跳ね起きた。


  捕まえてみろ ババンバン

  捕まえてみろ ダダンダン


 挑発的なリフレインに怒っても仕方がない。

 だが、夜更かしの後にまどろむ楽しみを冒されては……。

 そもそも、僕にメールを送ってくる友人など、数が知れている。

 どうせ真坂幸平まさか こうへいだ。

 県外の大学に行って、知り合った女の子と自撮りした写真を週末のたびに送ってくるヤサ男。

 その手のメールだろうと思って、眠い目をこすりこすり開けてみる。

(久しぶり、元気?)

 先週もメール送ってきただろと思ったが、その物言いに引っかかるものを感じた。

 はっと目が覚めて、着信の時はスルーした名前を確かめた。

(サキ)

 その瞬間、忘れていた3年前の出来事が脳裏に蘇った。

 こんな冬の日々に起こった、あの不思議な事件。

 ボックスを買う前に手元にあった、1話分だけが録画されたDVD1枚。

 そこで僕は選択を迫られた。

 ……さて、このメール。返信するや、せざるや。

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