第382話 隠れ里②
(……………あれ?)
その時、コウタは不意に目が覚めた。
目に映るのは天井だ。
それもあまり見たことのない造りの天井だ。
「……え」
目を瞬かせる。
むくり、と上半身を起こした。
どうやら、自分は寝具の中で眠っていたようだ。
ベッドではない。羽毛か何かを入れたシーツを上下に重ねた寝具だ。
「あ。これ、布団だ」
東方大陸アロンの寝具。
コウタが生まれたクライン村は、アロン出身者が開拓した村なので、コウタはこの寝具を知っていた。
よく見ると、自分の服も変わっていた。
灰色のアロンの和装である。浴衣と呼ばれる軽装だ。
周囲も、アロンの趣がある部屋だった。床は畳。壁には幾つも襖が並んでいる。
「どこだろ? ここ?」
コウタは立ち上がろうとするが、その時、気付く。
掛け布団の下の方に、誰かがいることに。
すう、すうと寝息も聞こえる。
「え」
少し驚きつつも、危険は感じなかったので、コウタはゆっくりと布団をめくった。
すると、そこに居たのは……。
「……アイリ?」
コウタの足辺りで、丸くなって眠るアイリだった。
いつものメイド服ではない。彼女も浴衣だった。色は桜色だったが。
「アイリ。アイリ」
肩に触れて声を掛けるが、起きる様子はない。
コウタが周囲を再び見えると、すぐ近くにもう一式布団があった。
アイリはそこで寝ていたが、こっちに移動してきたらしい。
二人の布団の近くには、綺麗に畳まれた元の服もあった。アイリの方には銀の王冠が着いたカチューシャ。コウタの制服の上には短剣も置かれている。
「布団が二つってことは、ここにいるのは、ボクとアイリだけってことか」
そう呟きつつ、コウタは立ち上がった。
次いで、短剣を手に取る。刀身を抜いてみるが、特に変化もない。
武器が置かれているということは、監禁という訳でもなさそうだ。
「……アヤちゃん」
コウタは、嘆息した。
状況は、正直言って分からないが、この事態を引き起こしたのは間違いなくアヤメだ。
彼女が自分に悪意を持っていないことは分かっているが、それでも強引すぎる。
「ボクやアイリを着替えさせたのも、きっと彼女なんだろうな」
出なければ、着替えさせられるまで呑気に寝ていたりしない。
アヤメは、自分やアイリを傷つけない。それを理解していたからこそ、自分の危機管理本能は、呑気にお休みになっていたということだろう。
「……けど、失態は失態だ」
コウタは、表情を引き締め直す。
自分だけでなく、アイリもいたのに、長時間、気を失っていたのだ。
兄が知れば、厳しく叱られることだろう。
「とにかく状況を確認しないと」
コウタは、まずアイリを起こすことにした。
しかし、「アイリ。起きて」と肩を少し強く揺さぶっても彼女は起きない。
コウタは仕方がなく、アイリを背負った。
服も着替えておきたいところだが、着替えている最中に誰かに来られることを考えると避けた方がいいだろう。
とりあえず、周辺を確認したい。
もしかしたら、メルティアや、リーゼもいるかもしれない。
コウタは短剣を片手に、背中にアイリを乗せて襖を開けようとした。
と、その時だった。
――ピシャ。
不意に、襖が開いた。
コウタが開けたのではない。いきなり開いたのだ。
コウタは驚き、一歩後方に下がった。
すると、入って来たのは、サザンⅩだった。
「え? 三十三号?」
蒼く輝く装甲。
コウタがお手製で造った竜の仮面。
間違いなく、三十三号こと、サザンⅩである。
「……ム。オキタカ。コウタ」
「あ、うん」
頷くコウタ。
「君も一緒に来てたんだ?」
「……ウム。デンセツテキニ、シズンダゾ」
と、どこか声を弾ませて、サザンⅩは言う。
コウタは「あ、うん。そう」と曖昧に笑いつつ、
「えっと、来たのは君だけ? リノとかは?」
「……ヒメハ、イナイ。イルノハ、コウタト、フクチョウト、オレダケ」
「……そっか」
コウタは、神妙な顔をした。
サザンⅩがそう言うのなら確かだろう。
最近少し忘れがちになるが、ゴーレムは機械だ。当然ながら気絶はしない。従って、今までの行動をずっと記憶しているはずだ。
「ここがどこか分かる?」
「……ドコカノ、ヤマオクダ」
「……山奥か。アヤちゃんはどこにいるの?」
「……コウタト、フクチョウヲ、ムイタラ、ドコカニイッタ」
「……剥いたのか。アヤちゃん……」
少し顔を赤くして反芻するコウタ。
まあ、流石に下着までは剥かれなかったようなので、問題なしとしよう。
「それで三十三号……サザンXは、どこに行ってたの?」
「……コノ、イエヲ、シラベテイタ」
「あ、そうなんだ」
どうやら、コウタがやろうとしていたことを事前にしてくれたようだ。
コウタは「ありがとう」と感謝する。
「……ウム。ヒマダッタカラナ」
その動機に関しては思うところはあるが。
「それで、ここについて詳しく聞きたいんだけど……」
と、そこでコウタは困惑の表情を見せた。
「流石に、そろそろツッコもうと思うんだ。サザンⅩ」
一拍おいて尋ねる。
「その足元の子って何?」
「……ム」
サザンⅩは、自分の足元に目をやった。
すると、そこには、
「……だあ!」
サザンⅩの短い足を掴み、二パッと笑う赤ん坊がいた。
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