第375話 再会の時②

 アルフレッドと合流したコウタたちは、ハウル邸に向かった。

 馬車に乗って市街を移動し、ようやく見えたハウル邸。


「お帰りなさいませ」


 守衛はそう告げて、門を開いた。

 相も変わらない巨大な庭園を通って、コウタたちはハウル本邸へと到着した。


「おお~、懐かしいな」


 荷物を肩にかけて、馬車から降りたジェイクが声を零す。

 額に手を当ててハウル本邸の全容を見やる。

 四階建ての荘厳な館。

 全容といっても、すべてを一瞥できる館ではない。


「なんかすげえ久しぶりな気がする」


「まあ、実際に久しぶりだからね」


 コウタも同じく荷物を肩に、馬車から降りた。


「船旅の期間も合わせると、一ヶ月半は経っているから」


「もうそんなに経っているのですね」


 続けて、馬車から降りてきたリーゼが呟く。

 その後に、アイリと、着装型鎧機兵姿のメルティアも降りてきた。


『確かに私がこんなに長い間、魔窟館から離れることになるとは思いませんでした』


「……うん」


 アイリは苦笑を零す。


「……メルティアもいよいよ引き籠り脱却かな?」


『それは嫌です』


 メルティアはかぶりを振った。


『帰国した暁には倍以上の期間を魔窟館で引き籠るつもりです』


「……いや。メル……」


 幼馴染の揺るぎない意志に、コウタは遠い目をした。


「もう少し頑張ってお外に行こうね?」


『嫌です』


 コウタの声にも、メルティアは聞き入れてくれない。

 コウタは嘆息した。


「まあ、よいではないか」


 すると、コウタの腕に柔らかない感触が押し付けられた。

 コウタがギョッとすると、そこには腕を絡めるリノの姿があった。


「ギンネコ娘が引き籠るのならば、外でわらわと存分に愛を紡ごうではないか!」


『……何を言っているのですか。ニセネコ女』


 殺気じみたオーラを放って、着装型鎧機兵が前へ踏み出す。


『コウタは私と魔窟館でいちゃつくのです。あなたのターンなどありません』


「ほほう」


 リノが巨大な甲冑騎士を一瞥して、双眸を細める。


「そのような人形に引き籠る娘が、このわらわに敵うとでも?」


『当然です』


 ズン、と着装型鎧機兵が間合いを詰める。


『私こそが、コウタの一番なのですから』


 バチバチバチッ。

 二人の少女――一方は見た目が巨人――が視線をぶつけ合う。

 その傍らで、コウタは頬を引きつらせていた。

 その様子を、最後に馬車から降りてきたアルフレッドが見やり、


「はは、コウタも相変わらずみたいだなぁ」


 苦笑を浮かべて、そう呟く。

 どうやら新たに加わった女の子。

 彼女も、コウタに想いを寄せているらしい。

 相変わらずのモテっぷりだ。


「……ウム」


「……アレガ、コウタノ、ヘイジョウウンテン」


 アルフレッドと一緒に降りてきた二機のゴーレムが頷いた。

「ははっ」とアルフレッドが笑った。


(本当にアシュ兄にそっくりだなあ)


 コウタは、アルフレッドもよく知る、コウタの実兄に本当によく似ている。

 改めて、二人が兄弟なのだと実感する。

 ただ、それとは別で、アルフレッドにも気になることがあった。

 あの新たに加わった女の子。リノ=エヴァンシードさん。

 彼女はその美貌も凄いが、歩き方や重心移動が素人のそれではないことだ。


(これはまた、凄い子だな)


 顔にこそ出さないようにしたが、アルフレッドの目から見ても只者ではない。

 恐らくは、リーゼやアンジェリカも凌ぐ。

 自分やコウタ相手でも見劣りしない相当な実力者だ。

 流石に、このレベルは異常と呼んでもいい。


 ……果たして、何者なのだろうか。


(……後でコウタやジェイクに聞いてみるか)


 そう考えた時だった。


「お帰りなさいませ。アルフレッドさま」


 老執事が、ハウル邸から出て来た。

 ハウル家の執事長だ。

 アルフレッドは「うん。ただいま」と答えてから、


「お爺さまは?」


「旦那さまは、ただ今留守にされておられます」


「うん。そっか」


 祖父からは、今日は出かけると聞いていたが、改めて確認をして、アルフレッドは内心で少しホッとする。

 おかげで余計な騒動はなさそうだ。


「彼女たちは?」


「もういらっしゃってます」


 老執事はそう答える。


「応接室にて、お待ちしております」


「そっか」


 行動が早い。

 けれど、都合もいい。

 これで祖父がいない内に、彼女たちと面会が出来る。


「コウタ」


 アルフレッドは、コウタに声を掛けた。

 コウタは、緊迫感と共に対峙する少女たちに肝を冷やしていたようだが、


「え? 何。アルフ」


 助けに船とばかりに、アルフレッドの方に顔を向けてきた。

 アルフレッドは苦笑を浮かべつつ、


「どうやら、もう客人たちは来ているそうだよ」


「え? そうなの?」


 コウタは目を丸くした。


「まあ」「おいおい」


 リーゼやジェイクたちも驚いた顔をする。


「随分とお早いのですね」


「元々、この時期にコウタたちが帰ってくるって話はしていたからね」


 リーゼの感想に、アルフレッドは再び苦笑を零す。

 確かに随分と早い。

 きっと、彼女たちの方も、いつでも行動できるように構えていたのだろう。


「早速で悪いけど、荷物を部屋に置いたら面会お願い出来るかな?」


 アルフレッドがそう尋ねると、コウタが「うん」と頷いた。

 リーゼたちも「ええ。もちろんですわ」「ああ。いいぜ」と、それぞれ承諾の返事をくれた。メルティアだけは『あのお馬鹿さんですか……』と少し気乗りしない感じだった。

 ともあれ、全員の承諾は得た。


「うん。それじゃあお願いするよ。それと改めて」


 アルフレッドは、にこやかな笑みと共に告げた。


「歓迎するよ。みんな。ハウル邸へようこそ」

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