第326話 妖樹の王⑤

 ――ガギィンッッ!

 処刑刀の刃と、槍の柄が交差する!

 数瞬の鍔迫り合い。

 敵機を弾いたのは、恒力値で勝る《木妖星》だった。


『――くッ!』


 コウタが舌打ちし、《ディノ=バロウス》は後方に跳躍する。

 強い衝撃に、重心をわずかに崩した。

 すかさず《木妖星》は、追撃の構えを取った。


『針葉樹の森に沈むがいい』


 ――ガッと。

 穂先を大地に突き刺した。

 直後、大地が震動する!

《ディノ=バロウス》はさらに後方に跳躍。腕を交差させて身構える。と、

 ――ズガンッッ!

 突如、地面が崩れ、無数になる不可視の槍が襲い掛かる!

 それは《飛刃》と同じ放出系の闘技。

 しかし、その形状は針葉樹を思わせる円錐型だった。

 名付けるならば《飛錐》とも呼ぶべきか。地中より撃ち出された無数の《飛錐》は、《ディノ=バロウス》の炎と装甲を削っていく。


『くそッ!』


 対し、《ディノ=バロウス》は《飛刃》で応戦する。

 再び放った《十字飛刃》だが、やはり《木妖星》には通じない。槍の一振りで粉砕される――が、その隙に《ディノ=バロウス》は間合いを詰めた。

 得物の差もあるが、遠距離戦では分が悪い。ここは接近戦に持ち込むべきだった。

 一気に接近した《ディノ=バロウス》は処刑刀を振り上げた。

 使う闘技は、切断力を格段に上げる《断罪刀》。

 まずは邪魔な槍を両断するつもりだった。

 だが、その考えも、レオスには読まれていたようだ。


『甘いぞ。小僧』


 くるりと槍を回転。

 柄に処刑刀の刃を触れさすと、まるで溶接でもされたかのようにぴったりと刃の軌道を操り、斬撃を逸らす。さらには、そのまま槍を半回転させて、石突きで《ディノ=バロウス》の肩を殴打した。

 わずかに後退する《ディノ=バロウス》。レオスはふっと笑った。


『目に見えるものばかりが茨ではないぞ』


 そう告げて、愛機に槍を回転させた。弧を描く回転ではない。柄を軸にした回転だ。

 ――ガガガガガガッッ!


『…………ッ!』


 コウタが目を見開く。

 直後、《ディノ=バロウス》に強い衝撃が襲い掛かる!

 またしても、装甲の破片が飛んだ。


(構築系の闘技――見えない茨か!)


 瞬時に、闘技の正体に気付く。《ディノ=バロウス》が、この闘技の要となる槍の柄を狙うとが、斬撃は虚空を斬るだけ。《木妖星》は後方に跳躍して攻撃を避けた。

 コウタは、下唇を噛みしめた。


(……本当に、強い)


 ――《ディノ=バロウス》と《木妖星》の死闘。

 それは、終始 《ディノ=バロウス》の方が苦戦を強いられていた。

 二機の性能には、さほど差はない。

 闘技の熟練度や闘技のレパートリーも、そこまで開きはないだろう。

 だが、戦闘経験値。

 それだけは圧倒的なほどの差があった。

 流石は、半世紀以上も裏社会で生きてきた老獪な化け物。

 コウタが繰り出す手は、ことごとく読まれていた。


(小細工は通じない)


 改めてそう思う。


「……コウタ」


 その時、後ろから声を掛けられる。

 不安を必死に押し殺しているメルティアの声だ。


「……メル? 怖い?」


「……いえ。それよりコウタ」


 メルティアは、ギュッとコウタの背中を抱きしめた。


「あの男は強いです。ですから、コウタは賭けに出るのですね」


「……メルには隠せないな」


 見事に心情を読まれたコウタは、苦笑を浮かべた。

 それから真剣な顔で言葉を続けた。


「このままだと、ボクらは負ける。《ディノス》の消耗も激しい。なら、まだ動ける今の内に賭けに出るしかないと思う」


「はい。分かっています」


 メルティアは頷いた。が、少しだけ眉根を寄せて。


「けど、どうしますか? 一体どんな策を……」


「うん。一つだけ考えがあるよ。もう準備も出来ている。あのね――」


 コウタは、メルティアに作戦を伝えた。


「ごめん。危険な賭けだ。凌がれたら《ディノス》はもう動けなくなると思う」


「はい。そうなると思います」


 コウタよりも《ディノ=バロウス》を熟知しているメルティアが同意した。


「恐らく、勝っても負けても《ディノス》は限界を迎えると思います。それほどの賭けになるでしょう」


「……うん」


 コウタは小さく頷いた。


「ごめん。無謀かな?」


「……いえ」


 メルティアは、かぶりを振った。


「それしか、勝算はないと思います。私は反対しません。ただ、《ディノス》が大破してしまうと、帰りは徒歩になってしまいますね。ですから」


 そこで、メルティアは悪戯っぽい笑みを見せた。


「勝って、月夜の森のデートを楽しみましょう」


「はは、メルは前向きだなあ」


 コウタは、そっとメルティアの腕に触れた。

 彼女の腕は少しだけ震えていた。

 恐怖を押し殺して傍にいてくれる彼女に、心から感謝する。

 そして、そんな彼女を守りたいという強い意志と、深い愛情が湧き上がってきた。

 コウタは怨敵を見据えつつ、告げる。


「じゃあ行くよ。メル」


「はい。あなたの望むままに」


 メルティアは、微笑みを湛えて頷いた。

 コウタは再び自分の腰を掴む彼女の腕に、そっと触れた。

 メルティアは瞳を閉じる。

 途端、《ディノ=バロウス》を覆う炎が収束し、左腕に炎で象られた処刑刀が生まれた。

 そして《ディノ=バロウス》は二本の処刑刀の切っ先を、だらりと下げた。


『……ほう』


 レオスが双眸を細める。


『潔いな。余力がある内に大技で圧し切る気だな』


『ああ。このままではジリ貧だしね』


 コウタは告げる。


『小細工はなしだ。これは今のボクが使える最強の闘技だ』


『ふん。受けてやる義理はないが……』


 レオスは、苦笑を見せた。

 同時に《木妖星》が石突きを地面に、ズンッと叩きつけた。


『それを凌げば俺の勝ちだな。分かりやすいのは嫌いではない。受けてやろう』


 言って、再び《木妖星》が絵を軸に槍を回転させる。

 すると、周囲の大気が渦を巻き始めた。


『――この闘技の名は《世界樹》』


 最古の《妖星》が厳かに告げる。


『元より、俺は攻撃よりも防御の方が得意でな。世界の崩壊にも耐え抜く世界樹のうろ。崩せるものならば、崩してみるがいい』


 大気の渦は、ますます舞い上がる。

《木妖星》を中心に膨大な恒力が渦巻いて天へと昇っているのだ。

 それは、可視化できていたら、森さえも突き出る巨大な大樹に見えたことだろう。

 ――《黄道法》の放出系闘技・《世界樹》。

 レオスの切り札とも言える絶対防御の闘技だった。

 一方、《ディノ=バロウス》は静かだった。

 嵐の前の夜のように。

 静寂の中、ただ、処刑刀を無造作に下ろしている。

 そして――。


『――行くぞ! レオス=ボーダー!』


 ――カッ!

 突如、《ディノ=バロウス》の両眼が光を放った。

 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――ッ!!

 そして湧き上がる魔竜の咆哮。

 同時に《ディノ=バロウス》の両腕が真紅の光に覆われていく。

《ディノ=バロウス》は地面を蹴った。

 不可視の《世界樹》に守られた《木妖星》へと向かって――。

 両腕の処刑刀を振るった。


 ――《残影虚心・顎門》。


 それも両腕による攻撃。双頭の魔竜の牙だ。

 最初の牙が《世界樹》に食い込んだ時、輝きを放った。

 しかし、気にせず次々と牙を突き立てる!

 ――四十八連の斬撃。

 それを超えても、さらに牙を放ち続けた。


『ぬ、ぬうッ!』


 流石のレオスも唸る。

 悪竜の騎士の切り札は、想像以上に苛烈なものだった。

 今や、神々しいまでの光を放つ大樹も、大きな軋みを上げていた。

《木妖星》もまた、一歩、二歩とゆっくりと後退している。

 だが――。


(分かるぞ。限界が近いことが)


 レオスは不敵に笑う。

 軋みを上げても《世界樹》は未だ健在だ。

 一方、明らかに、悪竜の騎士の動きは限界を超えている。

 恐らく数秒以内に決着がつく。

 そう考えた時だった。

 ――ガギンッッ!


『な、なに!?』


 レオスは大きく目を見開いた。

 突如、背後から強い衝撃を受けたのだ。

 唖然とする。一体誰が攻撃を――。

 そもそも《世界樹》の中でどうやって――。

 困惑するレオス。

 一方、コウタは双眸を細めた。


(――上手くいった!)


《木妖星》を襲った攻撃。

 それは、直前に虚空を斬った《ディノ=バロウス》の斬撃だった。

 ――《残影虚心》。

 自分の残影をこの世に残す闘技。

 まさに、この技の本来の力だ。


(これを小細工なんて言わせない! だって、これは彼女の技なんだから!)


 ――お前が、価値がないと言った彼女の技なんだ。

 コウタは《木妖星》を睨み据えた。

 想定外の不意打ちに、《世界樹》の防御がわずかに揺らいだ。

 そして――。


『世界樹なんて、吹き飛ばしてやる』


 悪竜の騎士は猛攻を止めた。

 その直後のことだった。

 莫大な炎が悪竜の騎士の背中から空へと伸びた。

 それは、巨大な手のような炎の翼だった。

 十指に当たるものが、すべて処刑刀である翼だ。


『《悪竜》の羽ばたき。防ぎ切れるのなら防いでみろ』


 コウタは告げた。

 同時に炎の翼は大きく広がった。

 そして――十刃が暴風と共に襲い掛かる!


『ぬううううううッ!』


 レオスは、歯を食い縛った。

 木々が吹き飛び、地表が剥がれる。光の《世界樹》が大きく軋んだ。

 しかし、それでも《世界樹》は、滅びの暴風を受け止めようとしていた。

 ――が、

 ――ギシンッ。


(……ぐうッ!)


 それは、致命的な音だった。

 槍の柄に大きな亀裂が奔ったのだ。

 その亀裂は、《世界樹》にも大きな影響を及ぼした。

 ――ビキビキビキッと。

 樹皮が剥がれ、幹が砕かれるようなる音が続く。


(――おのれ!)


 レオスは舌打ちする。

 もはや崩壊は止まらず、光の《世界樹》は遂に砕け散る。

 同時に槍も失い、《木妖星》は暴風に晒された――その一瞬だった。

 悪竜の騎士が、処刑刀を振り上げたのは。

 レオスは目を瞠った。

 悪竜の騎士の全身は、真紅の光に覆われていたのだ。


『――灰になれ。塵になれ』


 ギリ、と少年は歯を軋ませる。


『お前が滅ぼしたボクの村のようにッ!』


 ――ザン。

 とても静かな斬撃。

 それは、恐ろしいほどの切れ味だった。

 肩から、脇腹へ。

《断罪刀》と成った処刑刀は、《木妖星》を両断していた。

 さらに、真紅の《悪竜》は、横薙ぎを繰り出した。


 ――コウタ。今夜の晩御飯は何がいい?


 母の声が聞こえた。

 横薙ぎの一撃は《木妖星》の胴を切断した。

 悪竜の騎士の攻撃は終わらない。下段から上段へ――。


 ――ここは俺がどうにかする! 二人は早く逃げるんだ!


 父の声が聞こえた。

《木妖星》はさらに切断される。

 斬撃はますます加速する。今度は左から薙いで――。


 ――お前だけは必ず守る。兄貴に誓って。


 叔父の声が聞こえた。

 斬撃のたびに、声がする。

 隣の家のおばさん。宿屋のおじさん。

 村唯一の職人だったタツ爺。

 一緒に遊んだ幼馴染達。

 次々と声が聞こえては、消えていった。


『うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ―――ッッ!!』


 コウタは吠えた。

《ディノ=バロウス》の処刑刀は、すでに霞むほどの速度だった。

 そして、その猛攻に晒された《木妖星》の末路は――。

 ――ゴギンッッ!

 唐突に。

 何かが砕ける音を鳴らして宙に飛んだ。

 それは、《ディノ=バロウス》の右腕だった。

 肩から先が、吹き飛んだのである。

 処刑刀を握りしめたままの腕は、地面へと突き刺さった。

 反撃を受けたのではない。

 あまりの加速に、腕の関節が持たなかったのだ。

《ディノ=バロウス》は、ガクンッと片膝をついた。

 千切れた右肩から火花が散る。全身からは白煙が噴き上がった。

 真紅に染まっていた機体も、すでに元の色に戻っていた。

 操縦席のコウタは、無言だった。

 敵を警戒する様子はない。その必要もないからだ。

 ――《木妖星》はすでに両足だけを残して、刃の嵐の前に灰燼と化していた。

 すでに、勝敗はついているのである。

 けれど、コウタは怒りを抑えきれずにいた。


「――くそッ!」


 勝利してもなお、憎悪を吐き出す。


「くそッ! くそッ! くそッ!」


 操縦棍を握りしめても全く反応しない《ディノ=バロウス》に苛つき、拳を操縦シートに叩きつける!

 それでも怒りは消えず、さらに拳を叩きつけようとするが、


「……コウタ」


 そっと。

 後ろから、抱きとめられた。

 メルティアの温もりだ。


「……もう終わったんです。コウタ」


 メルティアは優しく諭す。

 コウタは、グッと下唇を噛みしめた。


「~~~~~ッ」


 そして振り向くなり、強くメルティアを抱きしめた。

 最も愛しい温もりをその腕に掴む。


「……メル……メルゥ……」


「……大丈夫です。コウタ」


 メルティアは、そっと彼の背中に手を回した。


「私はずっとあなたの傍にいます。だから安心してください」


「ううゥ……」


 コウタは彼女を抱きしめたまま、涙を零した。


「うわあ、うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ―――ッ!」


 そして誰憚ることなく、大声を上げた。

 強く、強く、メルティアを抱きしめたまま。

 メルティアは優しい眼差しで彼の背中を、ギュッと掴んだ。

 月夜の下で、コウタの慟哭は続く。

 愛しい少女をその腕に抱いて。

 こうして。

 悪竜の騎士と《木妖星》との死闘は幕を下ろしたのであった。


 ……………………………。

 …………………。

 …………。

 数十分後。


 ラフィルの森の一角。

 悪竜の騎士と、《木妖星》が猛威を振るった跡地にて。

 ――ボコンッ、と。

 わずかに残された《木妖星》の両足。

 その傍らで、一つの肉塊が蠢いた。

 ボコン、ボコンと蠢き続けるそれは、徐々に形を肥大化させた。

 そうやって数分後に現れたのは……。


「か、は……」


 頭の三分の一が欠けた人の頭だった。

 レオス=ボーダーの首である。


「……やられた、な」


 首だけになっても、レオスは苦笑を浮かべた。

 と、その時だった。


「……ガチで人間辞めてんだな。てめえは」


 誰もいないはずの場所で、不意に声を掛けられる。

 レオスは視線だけ、声の方へと向けた。

 そこにいたのは、馬を引きつれた一人の青年だった。

 二十代前半の白髪の青年。白いつなぎを着ている。


「……ほう」


 レオスは、瞳を細めた。


「その風貌。察するに、お前はアッシュ=クラインだな」


「ああ」


 青年――アッシュは頷く。


「そういうお前は、レオス=ボーダーでいいんだよな」


「そうだ。俺がレオス=ボーダーだ」


 レオスは、不意に笑い出す。


「くくく、まさかこんな死の直前で、お前と出会うことになるとはな」


「ああ。俺もこんな土壇場になるとは思ってなかったよ」


 アッシュは、レオスの傍に近づいた。

 冷酷な眼差しで、レオスを見下ろす。


「てめえは死ぬんだな」


「ああ。俺は死ぬ」


 レオスは言った。


「流石にここまで細胞を破壊されてはな。再生もここまでが限界だ」


 そう告げるなり、蠢いていたレオスの肉片が、徐々に活動を縮小させていった。


「お前の弟は、本当に容赦がないな」


「ふん。どの口でほざきやがる」


 アッシュは、冷たく告げる。


「むしろ苦しめることもなく、一気呵成にそこまで切り刻んでくれたんだ。コウタは充分すぎるぐらいに優しいぞ」


 自分ならば、本当の意味でもっと容赦しない。

 少なくとも、楽に殺したりはしない。

 弟は慈悲深いぐらいだった。


「ここでてめえにトドメを差すのも出来るんだが……」


 アッシュは、ふんっと鼻を鳴らした。


「それは野暮だしな。この戦いにおいては、俺はただの見届け人だからな。クライン村の代表者にすぎねえ。てめえと戦い、そんでてめえを倒したのはコウタだ。てめえはコウタに負けたんだよ」


「ああ、確かにそうだ」


 レオスは笑う。


「俺は奴に負けた。本来ならば、あの時点で潔く散るべきだった。この無様な姿はただの蛇足にすぎん。いやこれは……」


 そこでレオスは、アッシュを見据えた。


「俺の大嫌いな運命の女神。わざわざ俺の無様さを見せつけるんだ。これは俺との縁をことごとく断ち切ってくれた《夜の女神》の、お前への詫びなのかもな」


「……つまんねえ話だな。とっととくたばれ」


 アッシュは無下もない。

 これ以上、会話をしていると、思いあまってトドメを差してしまいそうだった。

 レオスは皮肉気に笑った。


「まあ、いいさ。悪竜の騎士の活躍は煉獄から拝見させてもらうさ。なにせ、俺を殺したんだ。これから奴の苦難は想像を絶するものになるだろうしな」


「…………」


 アッシュは無言だった。

 無言は肯定だと受け取り、レオスは瞳を閉じる。

 ビシリ、と額や頬に大きな亀裂が入った。


「ふふ……ふはははははははははははははっはははははははははははははッ!」


 死を前にして、レオス=ボーダーは大笑を上げた。

 頭部のみとなっても、その覇気だけは失わない。


「先に逝くぞ! ジルベール! 貴様も早く煉獄に来るんだな!」


 そう叫んだ途端、時が止まったかのようにレオスの表情は完全に固まった。

 そしてそのまま頭部も崩れ落ち、まるで砂で作った人形のように地面に散った。

 ――レオス=ボーダーは完全に死んだ。

 アッシュは、しばし怨敵の残骸を見据えていたが、


「……コウタは」


 おもむろに空を見上げる。


「本当に強くなったよ。大切な子も出来たみてえだ。なあ、みんな」


 双眸を細めた。


「今度、墓参りに行く時にでも報告させてもらうよ」


 愛馬・ララザが、いななきを上げる。

 今夜の月は、いつにも増して明るく大きかった。

 アッシュは一度だけ地面に目をやった。

 怨敵は、すでに夜の風に散っていた。


「あばよ。レオス=ボーダー」


 ただ、それだけを告げる。

 そうしてアッシュも、その場から立ち去るのであった。

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