第215話 面談②

 一方、その頃。

 場所は変わって皇都の五番地。

 主に青果店や食品などを扱う店舗が軒を連ねる地区の大通りに、リーゼとアイリ、そして零号はやって来ていた。

 そこにはジェイク達、他の同行者達の姿はない。ジェイク達は本来の予定である二十六番地にある大規模工房の見学に行っているからだ。

 今回の来訪はあくまで研修の一環。レポートの作成も必須なのである。

 しかし、今日だけはリーゼ達は別行動を取っていた。


 ――理由は明確。メルティアのためだ。


 コウタからは気にしなくていいと言われたが、メルティアは大切な友人だ。

 レポート作成をジェイクに。彼のサポートをシャルロットに託し、リーゼ達はメルティアが元気になる料理を作ろうと、食材探しのためにこの番地に訪れたのである。


「流石は皇都。ここも盛況ですわね」


 リーゼは周辺を見渡した。

 ここは観光客とは縁のない生活のための地区。

 けれど、大通りに並ぶ店舗数も、その人通りの多さも、昨日訪れた十三番地と比べても見劣りはしない。


「これなら良い食材が見つかりそうです」


「……うん。そうだね」


 と、手を繋いだアイリがこくんと頷く。が、すぐに顔を上げて。


「……けど、リーゼは料理が出来るの?」


「その点は大丈夫ですわ。確かに家事全般は貴族の仕事ではないと思われているのかも知れませんが、料理とは生きていく上では欠かせない重要な仕事です。その手ほどきは当然受けておりますわ」


 言って、慎ましい胸を張るリーゼ。

 彼女は実はシャルロットの直弟子であり、結構な腕前だったりするのだが、普段は家事全般をシャルロットが受け持つため、このことはコウタも知らない事実だった。


「少なくとも、わたくしは暗黒物質生成装置ではありませんわ」


「……意外。ううん。逆に完璧超人のリーゼらしいかも」


 そう呟いて、アイリは笑った。

 リーゼもつられて微笑む。


「ところで、メルティアの好きな料理とは何でしょうか?」


 と、メルティアの選任メイドに尋ねてみたら、


「……う~ん。メルティアに好き嫌いはないから……。ただ、あえて好きなのを上げると甘い物かな。特に糖分が多いのが好きだよ」


「糖分ですか」


「……うん。何かにつけてコウタが甘やかすから。ケーキとかアイスとかは、しょっちゅう食べてるよ。週三ぐらい」


「えっ? そんなペースで食べてあのスタイルなのですか?」


 リーゼの頬が強張っていく。今回の研修旅行では共に入浴することも多かったので知っているのだが、メルティアのスタイルはますますもって磨きがかかっている。とても同い年とは思えないぐらいの神懸かったプロポーションだ。

 それを、まさかそんな自堕落な生活で手に入れているとは……。


「なんて理不尽ですの……」


「……気持ちは分かるよ。でも、こればかりは――」


 そこでアイリは嘆息する。


「……メルティアは莫大な糖分のほとんどを脳に配分しているみたいだし、それ以外の不要な分はおっぱいに溜め込む機能まであるから」


「……何とも羨ましい機能ですわね」


 リーゼの顔が、ますます強張ってくる。

 一方、アイリは額に手を当ててかぶりを振った。


「……真面目な話、獣人族って基本的に太らない体質らしいよ。しかも女性の場合だと成長は人並みだけど、老化は凄く遅いんだって。個人差はあるけれど五十代なのに見た目が二十代半ばぐらいって人も多いらしいし」


「――え? 本当ですか? その話」


 唐突な話に、目を丸くするリーゼ。

 アイリは幼女らしくもない苦笑を浮かべた。


「……魔窟館の図書館に本があったよ。獣人族って数が少ないんだって。だから一説だと女の人は沢山子供を産むためにいつまでも若いんだって」


「種の存続のためですか……。ある意味、戦闘民族らしいですわね」


 リーゼは納得しつつも小さく嘆息した。

 それから、あごに指先を当てて。


「では、メルティアも将来的には若いままなのですか?」


「……メルティアはハーフだから分からないよ。ハーフの事例までは載ってなかったし。ただその可能性は高いと思うよ」


 メルティアは、とても濃く獣人族の特徴を受け継いでいる。

 何気に身体能力も高く、父親の方にも獣人族の血は流れている。かなり純血種に近い体質を持っていると考えるのが自然だった。


「……だから、私の若さのアドバンテージもあまりないかも」


「いえ。その思考は……アイリ。あなたは本当に九歳児なのですか?」


 と、リーゼが呆れるようにツッコむ。

 すると、


「……乙女タチヨ」


 今まで沈黙して付いてきていた零号が初めてしゃべった。


「……ソロソロ、リョウリヲキメヨウ」


 と、建設的な意見を告げる。

 リーゼ達は互いの顔を見合わして。


「まあ、そうですわね」


「……うん。そうだね。ケーキでも作る?」


 二人が相談しようとした矢先だった。



「……あら? あなたって、もしかしてリーゼちゃん?」



 それは唐突なことだった。

 唐突に、後ろから声を掛けられたのだ。

 名前まで呼ばれてリーゼは振り向いた。アイリもまた振り向く。

 ――と、そこにはリーゼの見知った人物がいた。


「え? あなたは……」


 目を丸くする。

 思いがけない場所での再会に、驚くリーゼだった。

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