(だいたい)300回投稿記念 IFストーリー ~もし、転移した先が中御門だったら 第3シーズン④~

誰か説明してくれよぉぉ!!


なんでマサオ様の像が俺の姿をしてるの!? なんで俺はマサオ様なの!

知らないうちに開祖様と深い関係になっていて、頭がどうにかなりそうだ。 


「頭を抱えてどうなさったの、タクマさん? 愚かな私へのはなむけに早くマサオ様の素顔を見せてください!」


フザケルナしずかさんこのぉ見せられるワケねぇだろ、こんなもん!


「伝説は伝説のままにした方が希少価値がありますし、見なかった事にしませんか……」


「えっ? ごにょごにょ言わずもっと大きな声でおっしゃってくれませんか?」


「だからですね……伝説のままの方がロマンがありますし、尊いモノにはフタと言いますし……」


「よく聞こえません。もしかして緊張しているのですか? 信徒歴の浅いタクマさんには大役過ぎたかもしれませんね。でしたらマサオ教徒の男性に代わってもらいましょうか?」 


「だ、ダメです! この役は俺じゃないと出来ないと言いますか、他の方にやらせたらマズいと言いますか……もう、どうしようもないと言うか……うう……ううぅ……」


チラッっとマサオ様の像を確認。チェンソーの斬撃にも耐えた古代布が、己の役目は終えたとばかりにズリ落ちそうになっている。

このままずっと封印、は狙えそうにない。クソッたれ!?


ノーダメージで切り抜けられる状況じゃねぇ!

致命傷なのは『マサオ様とタクマさんってそっくりじゃね? 生まれかわってますね、間違いない。たてまつるしかないでしょコレェ!』と周囲が暴走すること。

だったらそれ以外の結末はマシだ、最悪以外にオチつけば実質俺の勝ちだ!

背に腹は代えられねぇ。背中が傷だらけになる覚悟でヤッてやろうじゃねぇか!





「メイドさん! こっち来てください!」


ビデオカメラを構えて「●Rec」しているメイドさんを手招きする。


「はい? いかがしました?」


「いいから早く!」


「……? かしこまりました」


小首を傾げながら撮影を止め、舞台上まで颯爽とやってくるメイドさん。


報道陣の機材に声を拾われないよう小声で。


「――を貸してください」と耳打ち。


「あぅん……聴覚が臨終するような囁き、たまりません」


「ふざけている場合じゃないんです。いいから貸してください」


「アレは殺傷力こそありませんが、危険物の一種です。いくら三池様のご依頼でもお渡しするのは……」


「極上の愉悦を保証しますよ」


「……なんですと?」


「貸してくださるなら、愉悦の海で溺死させてあげますよ。どうします?」


「……うぷぷ……ぷぷ、三池様は悪い人でございますね。これほどの殺し文句、私に選択肢はありません」


メイド服のスカート(の隠しポケット)からサッとアレを取り出すメイドさん。話が早くて助かる。


「使い方は簡単です。このボタンを押して、床に落とせば済みます。効果時間は30秒といったところでしょうか」


「了解です……すぅ~はぁ~」


受け取って、深呼吸。

こっから先はノンストップだ。破綻した論理を振りかざし、ゴリ押しで貫徹させる。

全てが終わるまで己を客観視してはいけない。少しでも冷静になった瞬間、羞恥心に呑まれて発狂するに決まっている。


最後に、客席から不安げに見守る天道家の面々に『これからやらかしますんで、フォローをオナシャス!』とアイコンタクト。


「あっ……」

慣れ親しんだ悪い予感に苛まれたのか、祈里さんたちは麗しい顔を引きつらせて了承? してくれた。




じゃあ、やりますか!


マサオ様の像の横に立ち、メイドさんから提供された――『煙玉』を起動させる。

途端、白いモヤが舞台上を覆う。


「きゃっあ!? なんのケムリ!?」

「舞台が見えないじゃない!」

「タクマさんは? マサオ様はどうなったの!?」


周囲が混乱する中、俺は迅速かつ赤裸々に行動を起こした。




30秒後。

煙は拡散に伴い薄れていき、舞台が視認できるや否や。



「「「「!!!!????」」」」



会場中がどよめいた。

マサオ様の像を覆っていた布が取り払われ、伝説がお目見えしていたからだ――が、しかし。


どよめきは歓声にあらず、誰もが圧倒的な意味不明に襲われて戸惑っている。


マサオ様の像が俺とそっくりだから、というわけでもない。


そもそも顔だけは未だに隠されている――チェック柄のパンツによって。



「うぶふぉぉっ!?」


舞台袖に退いていたメイドさんが盛大に噴き出すのを横目に、俺は観客席へと語り出す。



「みなさん! 申し訳ありませんが、マサオ様の全貌を明かすわけにはいきません」


「……えっあぅの、それは何故に? そもそもそこのかぐわしそうなおパンツは?」


しずかさんが疑問を挟んでくるが無視だ無視!


「マサオ様の気持ちを汲んでください! どうしてマサオ様は唯一無二である自分の像を! この降誕の間に隠したのでしょうか!」


ざわ……ざわ……ざわ……

判断が遅い!

「タクマさん突然どうしちゃったの、頭の病気?」とか隣の人と喋っている暇があるなら、質問に答えろ!


「ん~と、こっそり見守りたかったのかな」


「その通り!」


咲奈さんからの合いの手たすかる! さすが芸能の名門・天道家。マサオ様の像にパンツが被された状況でも、アドリブで付いて来てくれる。

ありがとう咲奈さん、この場を乗り切れるなら一日弟券を発行してもいい。


俺は高らかに、そして適当に大ぼらを吹く。


やれマサオ様は自分亡き後のマサオ教を心配していただの。やれ優しいマサオ様は影から信徒や男性の安寧を願い続けていただの。

聞き心地の良いフレーズを繋げて吹聴する。


「後方開祖面するマサオ様を捕まえて! 白日の下に晒そうとするなんて、肖像権を何だと思っているんですか! このような愚行……絶対に許されません!」


滅茶苦茶な話し運びだが気にしてはいけない。常識や論理なんてクソ喰らえ、ライブ感だけを抱きしめよう。


「マサオ様をおもんぱかる優しさ。小生はいたく感動しました! だがしかし、マサオ様への不敬は目に余る。タクマ殿こそ絶対に許せませんぞ!」


ちっ、クルッポーさんだ。いつの間にか復活しておられる。


「不敬? 俺の何が不敬なのですか!?」


「マサオ様の顔に下着を被せたことです! どこの世界に開祖の像にパンツを被せる輩がいますか!? 議論の余地なく不敬です!」


「ぬうっ」


下着が不敬? くだらない先入観である。

おとぎ話の『傘地蔵』だって、おじいさんがたまたま傘を持っていたから地蔵に傘を被せたのだ。もし持っていなかったら自分のフンドシを被せたに違いない。どちらにしろ雪から地蔵を守ろうとするおじいさんの温かい思いは変わらない、感動である。


「お止めなさい、クルッポーさん。信徒である前にあなたも女。でしたらタクマさんの男気を察してあげるべきですわ!」


おおっと、ここで祈里さんの援護射撃だ。誤射しないか不安だ。


「男気ですと?」


「あのパンツが何もない所から突然生まれたとでも思ってますの?」


「……っ!? まさか!?」


「そう、タクマさんはご自分のパンツを脱いで、マサオ様へと献上したのです! ということは、今のタクマさんは 穿! 自分を辱めてでもマサオ様を辱めない、これほどの心逝きがありまして!?」


普通のジーンズだったら30秒の煙の中でパンツを脱ぎ、マサオ像に被せ、服装を元の通り正すことは出来なかっただろう。

しかし、マサオ教の宗教服であれば話は変わる。このはかまは腰に巻いているだけなので、パンツをズリ下ろすのは容易いのだ。


「えええっ!? やたら香ばしい匂いがすると思えば、あのパンツはホカホカの使用済みってことぉ!?」

「プラス、今のタクマさんはノーパン! ほぼノーガード!」

「輪郭は!? 袴の一部が隆起してないの!?」


かつてないほどの熱視線が股間に集中する。いかんな、ジョニーが焼死しそうだ。


「そもそもパンツを被るとは皆さんが思っているような下劣な行為なのでしょうか? かつてのマサオ教徒が山ごもりをする際、人里に下りないよう自らの片眉を剃ったと聞きます。パンツ被りも動揺に不退転の決意を示す崇高な行いではないのでしょうか? 皆さんももっとおパンツさ――むぎゅぐむぐぐ!?」


「語り過ぎだよ、祈里姉さん。プロデューサーが担当アイドルの出番を奪ってどうすんのさ」


ここぞとばかりにおパンツ様を布教しかけたパンツァーだったが、妹に口封じ(直喩)され、その野望は潰えた。

ナイス強襲だ、紅華さん。お礼に以前から何度も依頼されていたパパ活に協力するのもやぶさかかじゃない。



「…………っぷ……うぅぷ……ぷ……」


愉悦を過剰吸引した反動か、恍惚とした表情で溺れ伏しているメイドさんを横目に。


「みなさん! 俺のパンツに免じて、マサオ様をこれ以上剥くのは止めていただけないでしょうか!? もちろんパンツはこのまま奉納しますから!」


俺は誠心性衣で頭を下げるのであった。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆






俺の懇願によってマサオ様の像はあのまま祀られることになった。

俺が言うのもアレだが、それでいいのかマサオ教。


北大路しずかさんは逮捕されたが、祈里さんまで捜査の手が伸びる可能性は低い――とは、愉悦の海から一命を取り留めたメイドさんの意見である。

マサオ様の像までパンツを被った手前、すでにパンツ被りはブレイクの兆しを見せている。おパンツ様は局所的な文化ではなく、広く市民権を得ていくだろう。しずかさんのパンツ被りも、そんな世の風潮に流され薄まっていく……という事らしい。よく分からない。


ひとまずだ、天道家の危機は去った。

代わりに、おパンツ様が浸透していく不知火群島国が危機に陥っているのでは? と思わなくもないが、ままええわ(思考放棄)。



こうしてマサオ教の騒動は幕を閉じ……てはいないが、一定の区切りは付いた。

天道家に帰還した俺たちは居間のソファーにグダ~っと、もたれ掛かる。



「はぁぁ、つっかれたぁ~。明日がオフなのをこれほど有難いと思ったことはないわ」


「ですねぇ。何も考えずにゆっくりしたいです」


「じゃあさ、タッくん。明日はお姉ちゃんと一日中ゴロゴロしない?」


「なに抜け駆けしてんのよ、咲奈。タクマさんはあたしとパパ活予定なんだから」


「あっそうだ(棒)、明日はこれからのパンツとの付き合い方を練らないといけませんでした。ってことでお二人と付き合う時間はないです」


「も~タッくんのイケずぅ」

「育児放棄は感心しないわよ」


ブラコンやファザコンのお誘いを拒みながらくつろいでいると、メイドさんが飲み物を持って来てくれた。


「耳寄りな情報が入りました。マサオ様の像ですが、セルフ護身機能が付いているようです」


グラスを配りながらメイドさんが言う。


「セルフ護身? なんですかそれ?」


「数時間前、辛抱たまらなくなった数名の信徒がマサオ様像に跳び付き、そのまま失神したそうです」


「はぁ?」


「元から蠱惑的なマサオ様の像に、三池様のパンツが付与された結果、相乗効果で恐るべき催淫機能を有したと見えます。人間の快楽中枢に深刻なダメージを与え、触れた者は速やかに昇天するようです」


ん、殺生石かな?


「うぷぷぷ……三池様は困った御方です。一愉悦去ってまた一愉悦。これほど短期間でドビュドビュ注がれたら、私の中に納めきれません」


すんごく幸せそうに微笑むメイドさん。いい空気吸ってんな、この人。


「へぇぇ、昇天モノの刺激か……しまったな、エロいもの見たさで、あたしも触っておけば良かった」


「とりあえずパンツが取られる心配はなさそうで何よりだね、タッくん!」


「そ、そうですね……」


自分のパンツが末永く信奉されると考えると、気が狂いそうだ。

それにいつまでもパンツが存続する保証はない。明日にでもマサオ様の全貌が暴かれて神扱いされるかもしれない――という不安に苛まれながらこれから生活するのか。ストレス性の病気ホイホイじゃん、これぇ……




俺は胃を押さえた。奇しくも同様のポーズを取る者がもう一人。

天道家の長女、祈里さんが和気あいあいな雰囲気に入らず、俯いている。


「……祈里姉さん? さっきからダンマリだけど、まだ心配事でもあるの?」


「……へっ? ……おほ、おほほほほ!? 何を言い出すかと思えば紅華、おパンツ様の知名度が上がって大勝利の私が心配事? お馬鹿なことも休み休み言いなさい」


うっそだろ、祈里さん! まだ爆弾を隠し持っているのか!?

やめてくれよ、このまま一件落着で締めさせてくれよ。


「おほほほほっ!? さあさあ今日はパーティーですわ! 不安な事を一切合切洗い流す盛大なパーティーをやりますわよぉぉ!!」


ヤケクソ気味な祈里さんをげんなりと見つめながら、俺はパンツに汚染された肉食世界を思い憂鬱となるのだった。




★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★





「センセ! こない教えてもろて、ほんま感謝やわ」




『センセではありません、私は一介の下着求道者パンツァー。困った人を見つけると声を掛けずにはいられないお節介焼きです』




「うちと違って人間出来てるわ。見ててやセンセ! やったるで! うちはもう昔のうちやない。無理難題押し付けてくる上司や姉さんに負けへん、逆にガツンと『おパンツ様』をブチ込む!」




『あなたがどうブチ込むかは尋ねません。ただ、同じ求道者として成功と安全を祈っております』




「おおきに! 大いなるパンツァーの祈りがあれば百人力や! よっしゃ、でっかい花火を打ち上げるで――」

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