第四章 彼岸花を摘んで

第11話 『なぞかけ』の答え

 白雪姫の言葉に、オカルト部のメンバーは怪訝な表情を浮かべていた。


「彼岸花を摘みにって、一体どういう事だい?」


「そのままの意味だよ。ここは、『ヒガンハナ』さんが眠る夢の世界。彼女が生きていた頃の時代を再現した世界なのは、きっと部長の事だから分かっているんでしょ?」


「あぁ、そこまでは。だけど、なぞかけに彼岸花の事なんて書いていないし、まだまだ解かなければならない噂が残っている。彼岸花を摘む事とかえる事に何の繋がりも無いように思えるんだけど」


「本当にそう思う?」


 豆柴の人面犬が、白雪の視線を受けて面倒臭そうに口を開く。


「ったく、お前が説明しろって俺は言ったよな」


「ふふっ、そういわずにお願いします薫さん。あっ、紹介が遅れてしまったけど、この人は薫さん。この『ヒガンハナ』さんの世界を構築しているシステムの開発者で裏野ハイツの管理人さんだよ。私がお願いしたら快く・・協力してくれたの」


「裏野ハイツの管理人?システムの管理人!?」


 何でそんな人物と白雪が一緒にいるのかと、説明を受けて疑問が更に増えたが、薫さんと呼ばれた人面犬はぶつぶつと文句を口にした。


「……何が快くだ。性悪女が」


「か・お・る・さん?」


 白雪はみんなに背を向けてしゃがみ、裏野の首筋を撫でるように這わせて喉元を押さえつける。


「やめろやめろ、分かった!説明する。ホント、何が『フツーちゃん』だよ」


 その言葉に満足気に笑顔で答え、白雪は立ちあがると「はい、どうぞ」と言わんばかりに裏野へ掌を差し向けて説明を促す。


「まず、俺はれっきとした人間だからな。システムに介入して人面犬のアカウントへ割り込んだからこんな珍妙な体で登場した。お前達の状況は、そこの女に説明を受けたのと、システムのログを洗い直して理解している」


「で、でもフツーちゃんみたいに人間の体のまま来れば良かったんじゃ?」


「言われてみれば確かに。薫さん……でいいですか?僕達が噂を最後まで解く必要が無いことと、今説明してくれた事って関係があるように思うのですが?」


 部長は今までの会話から、薫が自分と同じ類いの知識人である事を読み取り、この後、続けられるであろう言葉を先読みする。


「その通りだよ。俺が②番目の噂のアカウントに介入したのはヒントを得るためだ。結果、俺が得たヒントは『縦』。さっきの口裂け女のヒントと会わせて、『なぞとき』を解く事ができれば帰れるだろうが。口裂け女が犬嫌いなのはネットで調べて、本当は嫌だったけどこの姿で駆け付けてやったんだよ」


「202号室に設置されているマザーコンピューターで、この世界に強制介入して、私達はこの『ヒガンハナ』の世界に来たの。だから、私がみんなの所に来れたのはこの薫さんのお陰なんだ」


「そうだったのかっ!薫さんはいい人だっ。顔面は気持ち悪いけど、ありがとうっ!まだお礼を伝えていなかったからねっ。心から感謝するよ」


「あ、そ、そうだった。あ、ありがとうございます。……そうか、つまり今揃ったヒントで『なぞかけ』を解くことが出来れば、③から⑥までの噂と対決する必要は無い」


「あぁ、いい。契約だからな。おい、小僧。送られて来た『なぞかけ』を俺に見せてみろ」


「あ、はい。それと、僕も感謝してます。遅れましたがありがとうございます」


 感謝の言葉に慣れないのか、微妙な表情を浮かべ裏野は照れ隠しでまたも悪態をつく。


「お前、頭悪いな。そんな事はいいから早く見せろ。頭が少しなり回るなら、もっと柔軟に状況に対応して合理的に動け」


 悪口とも言える言葉に気を悪くする事も無く、部長は目の前の人物に通じる物を感じて言われた通りスマホの『なぞかけ』を裏野へと差し出した。


 *****


 かいきの『ヒガンハナ』からみんなへ。


 くろうするだろうけど、私を見つけてね。

 レインコートを目印に着ているから。

 んーとね、コートの色は綺麗な赤色なの。


 ボーとせずに、先ず何のゲームか推理して。


 。


 私の、説明だけじゃ分からない?

 はぁ~……答えはもう言っているんだけどなぁ。


 しょうがない……特別にヒントだよっ。

 ろっこの噂が、私の事を知っています。


 いい?よく聞いてね。


 ① ひとみの綺麗な、マスクの女性を誉めましょう。

 ② がっこうまで、ワンちゃんに付いて行ってね。

 ③ んー、公衆電話は、四回目はとっちゃ駄目。

 ④ バカな放送は、私じゃないので無視してね。

 ⑤ ないた子を慰めてあげて。

 ⑥ のぼった所の鏡で、その日一番のあなたを見て。


 しばらく、この世界を楽しんで欲しいなー。

 たくさんの噂も私も『ゲーム』を楽しみにしてるの。


 にんげんと、久しぶりに遊べるから。


 ねぇ、『ヒガンハナ』の約束の花を探して。

 むかし、交わした約束の華がもう一度見たい。


 つきひが私にサヨナラを告げるの。

 ては腐っているけれど、もう一度繋ぎたい。


 ルールは、このなぞかけを解くだけ。


 。


 私の所に噂が導くから、みんなと遊んであげて。

 にんげんのみんなに会えるのをみんな待ってるから。


 ありがとうをもう一度伝えたい。


 えがおで、会えるかな?

 ばらばらになっちゃうかな?


 かれない彼岸花が咲く町の彼岸町が舞台。

 えいえんに私の友達でいてくれてもいいよ?


 れきは、私と彼が一緒に過ごした、あの頃だよ。


 るりいろの空の下交わした約束の花。

 かわらない時を終わらせて、願うのは一つだけ。


 らいせに繋げる※色の花を摘んできて。


 *****


「ヒントは①口裂け女の『頭文字』、②薫さんの『縦』……あ、分かったかも」


「え?え?ど、どういう事?」


「私は馬鹿だから当然分からないよっ」


 白雪が困惑する二人に補足するように話し掛ける。


「本当はズルいんだけど、この種類の『なぞかけ』は、昔に薫さんが花さんとよく遊んだクイズなの。この世界の『ヒガンハナ』は『彼岸 花』さんって名前で、薫さんと幼馴染みだった女の子なんだよ。ヒントに気付けば子供でもとける簡単な問題だね」


「か、簡単な問題?」


「花さんは、生前人をビックリさせるのが大好きで、昔から霊感があったから都市伝説の怪奇達とも友達だったんだって。見えない薫さんを驚かせては、薫さんはよく泣かされていたって、花さんの祖母の菊さんって人から教えてもらったの。だから、この『なぞかけ』は子供の花さんが考えた簡単な問題だよ」


「お前、余計な事をぺらぺらと……」


 ポスっと肉球のついた手で裏野が白雪を小突いて見せるが、顔以外を見れば飼い犬が飼い主にじゃれているようにしか見えない。


「頭文字を縦に繋げるんだね。確かに気付く事が出来れば子供でも解ける『なぞかけ』だ」


「あ、あぁ!本当だ!縦に繋げると言葉になってる!」


「正解だ」


 裏野が鼻を鳴らして、部長へと瞳を向ける。


「かくれんぼ。私はしろいひがんばなのしたにねむつてる。私にあえばかえれるから」


 部長が『なぞかけ』に隠された回答を口にする。


「おぉ!これはビックリ!でも、白い彼岸花ってどこにあるんだい?」


「小僧、花の送ってきたメッセージに今の答えを打ちこめ。それと、どこに彼岸花があったかお前たちは最初に見て知っている。答えは最初からそこにあるんだからな」


「さ、最初からそこにある……わ、私達が見た彼岸花?」


「僕達が最初に立っていた場所。彼岸花が咲き乱れていたのはこの世界であそこだけだ。つまり――」


「裏野ハイツ」


 ようやく解けた『なぞかけ』と、白雪が発した最後の舞台を聞いて全員の顔に笑顔が戻る。


「お前ら、行くぞ」


 先頭を歩く豆柴が声を掛けると、オカルト部の四人が頷いた。


 四人と一匹は進む。

 未来に裏野ハイツが建つ事になる、彼岸花が咲く始まりの場所へ。








 

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