第3話 再会

俺は水色のワンピースを身に纏い、ウィッグを被った。パンプスも同じ水色に揃えてある。その姿でいつもの様に夜の散歩を楽しんだ。

しかし、昨日会った変な男の事が気になった。またあの公園に居るのかもしれない。

何となく、昨日行った公園へと足を向けた。

公園に着くと、大きな桜の太い枝にロープを縛り付け、先端の輪に首を掛けている白いワイシャツを着た男が居た。

その男は両腕を下げて、しばらく体をぶらつかせて居ると、ロープが切れて地面に倒れこんだ。

俺は地面に倒れこんだままで居る男にゆっくりと近付き、上半身を右腕で起こした。

「本当に、今日もやってるんだな」

男は閉じた両目をゆっくりと開いた。その顔はうっとりとしていた。そして目だけを動かし、俺の顔を見た。

「やぁ、綺麗なお兄さん……また会えて嬉しいです」

そう言うと、男は自力で立ち上がり、体に付いた土を軽く叩き落とすと、小さな脚立に乗って桜の木の枝からロープを解いた。

脚立から降りると、男は微笑んで言った。

「また会えて嬉しいです……約束通りにコーヒーを飲みましょう、私のお気に入りの店で」

俺は焦りながら言った。

「こんな格好で、店なんかに行ける訳無いだろ?」

男は俺の頭を撫でながら言った。

「声を出さなければ良い……貴方は綺麗なのだから」

ロープと小さな脚立を右手で持った男は、左手で俺の右手を握った。

「さぁ、行きましょう」

そう言う男に手を引かれたまま、俺は歩き出した。


男に連れて行かれた喫茶店は、看板を見る限りでは朝の5時まで営業している様だった。

俺と男が店に入ると、店員が「喫煙席ですね、どうぞ」と席を案内した。

俺は俯いたまま、何も言わなかった。

2人掛けの席に向かい合って座ると、男は店員に「いつもの、2つ」とだけ言った。

すぐに店員が目の前にホットコーヒーを置いて去っていった。

床にロープと折り畳んだ小さな脚立を置いた男は言った。

「もう、声を出しても良いですよ……私達の周囲には誰も居ない……顔も上げてください」

俺がゆっくりと顔を上げると、男は微笑んで言った。

「明るい場所で見る貴方も、綺麗ですね」

そしてコーヒーに何も入れずにカップに口を付けて一口啜った。

俺はテーブルの上に置いてあるスティックシュガーを手に取り、中身を半分だけカップの中に入れると、ソーサーの上に置いてあるスプーンで軽くかき混ぜてから一口啜った。

俺はゆっくりと小さな声で言った。

「お前は何者なんだ?どうしてあんな事をしているんだ?」

男は一瞬目を見開いてから、また微笑んで言った。

「私に興味を持ってくださったのですね……とても嬉しいです」

俺はまた小さな声で言った。

「興味、と言うよりも、お前の行動が理解出来ないだけだ」

男は微笑んだままで言った。

「では、お話しましょう……私の事を」

男は胸ポケットから煙草を取り出し、ライターで火を点けて一口吸ってから話し始めた。

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