幸せを手に入れる為には、世界を壊し続けるしかなかった。

@Taiiku

プロローグ:人生なんて楽勝だ。

1.



" あなたは夢を見ます。

 夢の中であなたは全く別の世界に居て、そこでたくさん苦労して、たくさんの人と出会います。

 その世界でのあなたには、常に世界の理不尽が付きまとう事でしょう。

 思い通りにならない世界に絶望し、苦悩し、錯乱し、死んでしまいたくなるでしょう。


 けれど、望めば、あなたは犠牲と引き換えに手にすることが出来るのです。

 あなたの望んだ、幸福な世界を。


 そして、その世界の光を全て見つけた時、あなたは目覚める事ができるのです。

 望む限り永遠の幸福と共に―― "






*****






 ――人生なんて楽勝だ。


 金・容姿・家柄。

 この全てが揃ってしまえば、後は周りに適当に合わせて生きるだけで、全てがうまくいく。


 勉強するに当たって、周りよりも遥かに高い、最高の環境が用意されている。


 スポーツだって、好きな物を好きなだけ習う事ができる。


 友達なんてものは黙ってても向こうから寄ってくる。


 女だって同じだ。どんな美人でも、俺が惚れる前に俺に惚れている。


 親の権威のお陰で、同級生の親や教師すら俺に愛想を振り撒く。


 俺に刃向う馬鹿などおらず、常にカーストの最上位に君臨し、誰もが不満に思わない。


 だからといって、ここで調子に乗るようなヤツは終わりだ。

 俺はしっかりと周りの期待と羨望の眼差しに答える――そう見せるフリをする。

 フリでいい。それだけで、馬鹿な一般市民共は俺を真に出来た人間だと感じ、崇める。


 何か愚痴を吐きたくなる様な時、いつでも聞いてくれるモブ達が居る。


 俺に守られ、俺が居る事で、これまでの暗い人生から抜け出せた恋人も居る。


 何か問題が起こっても、俺がいれば全て円満に解決させてきた。


 勝つ事も、守る事も、手に入れる事も、全て。



 そう、人生なんて楽勝だ。


 勝ち負けは、馬鹿みたいに努力して決められる物なんかじゃない。

 最初から、勝てるカードを持っているんだ。

 真の勝ち組ってヤツは、産まれた時から決まっているのだから。



 俺が望めば、なんだって出来る――



 それが、この楽勝な世界に対して、俺が導き出した答えだった。


 この、楽勝な世界で。

 俺はずっと恵まれながら生きていく。

 何もかも思い通りに行く世界で、これから先も――



 ……うまくいく、はずだったのに。



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