第27話「自ら選んだ先にあるものは」

 吹雪優フブキユウにとって、ドバイという国は本の中でしか知らない場所だった。アニメやゲームにだって出てこないが、ドバイにもアニメやゲームはある。

 寧ろ、慰安特区いあんとっくとして娯楽に貪欲なドバイでは、日本のサブカルチャーは大人気だった。

 だが、優が両手に大量の紙袋をぶら下げているのは、それだけが理由ではなかった。

 今、巨大なショッピングモールを優は、友人の市川流イチカワリュウ小原雄斗コハラユウトと一緒に歩いていた。


「見たか? 優……ドバイでもハイストは、『ハイライフ! ストリーム!!』は人気だな。見ろ、今日の戦利品を」

「うんうん、やっぱ優についてきて良かったよ。免税店でアニメグッズ……最高ぉ……」

「まあ、品揃えは日本に比べたら、少し見劣りするけどね。ドバイはやっぱ俺らみたいなオタクより、リア充が海だ夜景だで騒ぐ場所なんだよな」

「でも、プラモやフィギュアの品揃えはよかったぜ? 1/144のHitGヒットグレード97式【氷蓮ひょうれん】を買って、GADGET魂ガジェットだましいのギム・デュバル指揮官機、そしてSAGスケールアームズガールの円月ちゃん限定版……やっぱ最高ぉ」

「だからお前さ、雄斗。なんで三つずつ買うんだよ」

「保存用、布教用、そしてブンドド用だって。かく、最高ぉ……!」


 前を歩く二人の友人が、優にはいつもと変わらぬように見える。

 ちょっと毒舌どくぜつの、小柄な少年が流。ロボットアニメ好きな中学からの腐れ縁が雄斗だ。いつもの仲間で、友達。毎朝繰り返されてきた、登校風景に似ている……しかし、場所はドバイ。そして手には支給された限度額無制限のプラチナカード。優たちは、多くの仲間たちが集う異変調査団いへんちょうさだん……それを解体して再編される、新たな部隊の一員になるのだ。

 だが、優の中の不安は消えるどころか、膨らむばかりだ。

 実質山梨を、日本皇国にほんこうこくを追い出されるようにして出国した。皇国元老院こうこくげんろういんの一人、首相の佐藤春彦サトウハルヒコによる実質的なクーデターと、一方的なデスゲームの宣言。それを受けて、県立第三高校けんりつだいさんこうこうの全校生徒は、甲府からの脱出を余儀なくされた。地下施設のユグドラシルは侵入者対策で凍結中だし、他の生徒たちは訓練を受けながら皇国海軍の軍艦、羅臼らうすで放浪中である。

 皇国海軍の一部が既にウロボロスとかいう組織に掌握しょうあくされていたのは行幸ぎょうこうだった。

 そして優たち三人は、ForTHSフォースと自ら名乗って団結した生徒たちの総意でここにいる。

 『Forceフォース ofオブ The Thirdサード Highハイ Schoolスクール』……故郷を追われた、仕組まれた子供たち。


「どした? 優……暗いぞ、ちょっと」

「そうだぜ? それより、帰ったらコスモフリートの中を探検しよう。見たこともないロボが沢山格納庫ハンガーに並んでたからさ」

「あ、ああ……」


 振り返った流や雄斗が、そろって小首を傾げる。

 あくまで平常運行な彼らに対して、優はうつむき拳を握るしかできない。

 賑やかな観光客たちが行き交う中、優の胸中によどんでいた想いが浮かび上がった。


「お前らは……よかったのかよ。特殊部隊だって、フブキ隊だってさ……俺たち、戦争するんだぜ? 殺したり、殺されたりするんだ。このクレジットカードだって、先に払われる退職金しぼうてあてみたいなもんさ。それを――」


 巻き込みたくなかった。

 それは、相手が誰でも同じで、それでもこの二人は特にそうだった。

 友達、だから。

 訳も知らされずにパナセア粒子の実証実験を行い、その産物だからと言われて、人型機動兵器アイリス・シリーズの開発にたずさわっていた。もしかしたらアニメのように、これで自分たちが地球を守るのかも……そんなことをぼんやり思いつつも、科学部でのロボット開発はせいぜい『学校が今後、生徒募集の目玉企画にするスクールアイドル的な客寄せパンダ』だと思っていたのだ。

 だが、違った。

 全ては、元老院の反乱に備えた力だったのだ。


「なあ、流。雄斗も。……悠介ユウスケ先輩って、いただろ? 荻原悠介オギハラユウスケ先輩。あの人、死んだんだぜ……あのPRECプレックってのに、佐藤春彦に殺されたんだ。きっと、これからも」


 だが、奥歯を噛みしめる優を見て、二人の友人は笑った。

 そして、流も雄斗もポンポンと肩を叩いてくる。


「でも、優。お前は生きてるだろ?」

「それに、俺たちを……第三高校と甲府を守って戦ったじゃないか」

「だな。だからさ、優。そんなお前を俺らが守るぜ」

「ロボットアニメのお約束だろ? 今まで辛い戦いをさせて悪かったな……お前、今日から仲間だぜ!」

「待て雄斗、それは死亡フラグだ」

「おっと、まあ、あれだ……みんなで頑張ってさ、いつか一緒に甲府に帰ろうぜ? 俺、この戦いが終わったらFULL METAL BUILDフルメタルビルド戦陣せんじん買うんだ……アーマーも最高ぉ……!」

「だから死亡フラグだっての。な、優?」


 そう言って二人はニシシと笑う。

 流と雄斗は、ここぞとばかりに買い込んだグッズでパンパンの紙袋を持ち上げてみせた。それも強がりで、本当は怖いのがわかる。怖いから気丈に明るく振る舞っている。

 でも、それが自分のため……吹雪優という友達のためだと、今は断言できる。

 守る物を失う中で、守るべき者に守られながら戦う。

 それで明日が、未来が開けるならと、優はようやく顔をあげた。

 その時、流と雄斗の背後に見違えた姿の少女が立った。

 普段の制服姿とはまるで違う、少し大人びたワンピースに帽子を被った可憐かれんな姿。


「優さ、難しく考え過ぎ。もっと歩駆アルク君みたいに真っ直ぐシンプルに考えればいいのに」

篤名アツナ……歩駆だって悩んでるんだぞ。だってあいつ、ゴーアルターが」

「でも、クヨクヨしてなかったでしょ? なんか、砂漠で辛いことがあったって。でも、それを乗り越え少しだけ前を見てるって。なら、見据えた先にきっと歩き出すよ」


 シルバーちゃんがそう言ってたよ、と少女は笑う。

 彼女の名は渡辺篤名ワタナベアツナ。少しおっとりとしたとこがあるが、清楚せいそな雰囲気の彼女が笑うと空気が柔らかくなる。そして温かく香る気がするのだ。

 いつも優は、彼女の優しさに助けられてばかりだった。

 篤名が話題に出したのは、真道歩駆シンドウアルクという少年のことだ。次元転移ディストーション・リープで『あちら』の地球……もう一つの地球から飛ばされてきた少年。白き巨神ゴーアルターに選ばれた……選ばれることを自ら選んだ男だった。その彼は中東で己の認識の甘さを思い知らされ、それでも仲間のために再起した。

 そんな彼を待っていたのは、過酷な現実だったのだ。


「えっと、バルトさん? あの隊長さんさ、ひどいよね。なんでゴーアルターだけ、封印されなきゃいけないんだろ。強いロボット、沢山いたほうがいいのに」

「それはさ、渡辺。……え? 篤名でいい? じゃあさ、篤名。お前さ、考えてみろよな。頭に脳ミソ入ってんだろ?」

「つまりさ、篤名。ゴーアルターって凄く強いけど、よくわからない動力で動いてるんだよ。ダイナムドライブ? だっけ? それに、戦略級の広域殲滅兵器こういきせんめつへいきも搭載されてる。パイロット一人の裁量で運用するには、あまりにも危険過ぎる力なのさ」


 篤名の言葉に、流と雄斗が同調してすぐ打ち解ける。

 いつもの悪友、三馬鹿トリオだと外から見守ってくれてた篤名は、あっという間に話の輪の中にを生んでしまった。

 そして、詳しい経緯を聞かされても篤名の言葉は変わらない。


「でもでもっ、バルトさんに言われても……歩駆君は、自分のできることを頑張ってる。それってみんな、同じことだよ! ねっ、優っ!」

「……バルト大尉はいい人だよ。責任のともなう立場は、どんな小さなリスクでも見逃せないんだ。それに、あの人が皇国海軍の羅臼と直接交渉してくれなかったら、第三高校のみんなだって。悪く言うなよな、篤名」

「ご、ごめん。でも……わたし、軍人さんは怖いよ。優やみんなを、どっかに連れてっちゃいそうで」


 そう言って一度俯いたが、すぐに篤名は顔を上げた。

 いつもの優しい笑顔が、なにごともなかったように向けられる。


「でも、だからなの! わたしもついてきちゃった。優のこと、連れてかれないように一番近くにいたくて。それに、わたしにもできることが沢山あるから!」

「できる、こと……?」

「今、コスモフリートのエリーさんたちと、炊事係のシフトを組んでるの。でね、半分はあのでっかいの……えーと、三段チルド?」

「冷蔵庫じゃないだからさ、篤名。サンダー・チャイルドね」

「そそ、サンダー・チャイルドの中をアレコレ改修してるから、そっちのキッチンに行こうかなって」


 基本的にサンダー・チャイルドは、人の姿をした戦艦だ。居住性は皆無だし、機動兵器の艦載機能も基本的にはない。だが、その辺も少しずつ、ドバイの外の基地で改善中だ。シルバーという少女が動かしているのだが、サンダー・チャイルドは一番遅れてこのドバイにやってきた。

 中東連合の包囲をくぐり抜け、パラレイドの脅威を退けながら。

 砂海艦隊サンドフリートの巨大な陸上母艦マシンキャリアを担いで現れた姿は、まだ優も記憶に新しい。

 どうやらシルバーたちは、なんでも拾って資材にする風習の場所から来たらしい。

 そんなことを考えていたら、目の前に紙袋が突き出された。


「とにかく、優っ! 大丈夫だよっ、任せて。支えるから、みんなで。助けて、守って、そして一緒に戦うから。だから優も、できることしよ? 一人じゃないんだから」

「ああ……そうだな。ありがとう、篤名。流も雄斗も」

「ふふ、わかればよろしー! じゃあ優、これも持って! あと、これも!」

「……篤名、まだ買うの? 今度はなに?」

「えへへー、ハンドバッグとか、靴とか? だって、刹那セツナちゃんが言うんだもの……『貴様ら、給料だと思って好きに使え! 命の代価にもならんが、色々と買い足すべき品があるだろう!』ってさ」


 篤名は、あのおっかないチビッ子三佐さんさの真似をしたらしい。

 全然似てない。

 そしてそれは、真似られた本人もそう思っているらしかった。

 突然背後で、じっとりと暗い声がお腹あたりの高さで響く。


「誰が刹那ちゃんだ? 渡辺篤名、たるんでおる! いつまで民間人気取りだ、甘ったれるな! 私のことは御堂特務三佐ミドウとくむさんさと呼べ」

「あっ、刹那ちゃん……ご、ごめぇん」

「だから貴様……ああもう! イライラする! どうして私が子供のお守りをせねばならんのだ! 全く! それで? 渡辺篤名、ちゃんと冬物も買ったか? 戦闘とあらば南極にも行くし宇宙にも出るぞ。衣服は万全を期して多様なものを買い揃えろ!」

「は、はいぃ……そっか、ドバイって暖かいから」

「くっ、馬鹿か! ったく、いいから来い! 私が選んでやる! 貴様のような田舎娘いなかむすめは、素材がいいから意外とシンプルな物が似合うのだ。コートも買うぞ、毛皮にしろ! 毛皮! おい、荷物持ちトリオ、さっさと付いてこい」


 有無を言わさぬ上から目線、これが御堂刹那特務三佐ミドウセツナとくむさんさである。人類同盟の秘匿機関ひとくきかんウロボロスの人間で、なにかと便宜べんぎを図って多くの戦力を集めた人間の一人だ。

 だが、篤名を連れて大股に歩く姿は、どう見てもせいぜい低学年の小学生だ。

 長い銀髪を揺らして、彼女は優たちをどんどんと奥へ、ブランド品の衣服が並ぶコーナーへと進んでゆく。


「まったく、シルバーといい貴様等といい……面倒見きれんな! これだから子供は嫌いなのだ」

「えー、でも刹那ちゃんって、ずっとシルバーちゃんの面倒見てたじゃない。さっきも」

「う、うるさい! ……似てるのだ。シルバー、あの顔立ち、面影……似てるんだ」

「えっ? なになに、刹那ちゃん」

「うるさい! 渡辺篤名、御堂特務三佐と呼べと言っている!」


 クスクスと篤名は笑っている。流も雄斗も、なんだかニヤニヤとしながら不快感は感じていないようだ。優もそれは、なんとなくわかる。高圧的で不遜な態度だが、恐らく悪い人間ではないらしい。

 見た目で得をしてるな、と優はぼんやり思った。

 現場での隊の指揮を取るバルト・イワンド大尉より、刹那はさらに多くの権限を持ち、必要とあらばいつでも優たちに『死んでこい』と言える立場だ。篤名の嫌いな軍人そのもの、軍という組織の非情さと冷徹さを凝縮したような人間なのだ。

 だが、どう見ても幼女にしか見えない、やはり見た目で得をしている。


「いいか、軍から日用品は必要最低限、支給される。だが、化粧品や私服の類は買い逃すと、次はいつ買えるかわからん! だから……む、ちょっと待て! ええい、シルバーめっ!」


 突然、刹那が走り出した。

 とてとてと小さな歩幅で駆けてゆく華奢な背中を、苦笑しつつ優は友人たちと追う。

 その先では、銀腕の少女が服を選んでいるところだった。

 名はシルバー……彼女もまた、次元転移によってこの世界にやってきた人間だ。

 そして、人間ではなくアンドロイド、ロボットだと言われている。

 さらに言えば……次元転移によって、なのだが、それを知る術は誰も持ち得ていない。刹那以外の誰も、一人として。


「おい、シルバー! 貴様、なにをやっている。……Tティーシャツなんぞにこだわらないくていい、もっと必要な服を買え。お前は時にその腕が目立つんだ、こい! 長袖を買ってやる。ふん、悔しいがお前なら色々と似合うぞ。……あの娘に似てるからな」


 サンダー・チャイルドを駆る銀髪碧眼シルバリオンの美少女は、腕組み仁王立ちでぷりぷりと怒る刹那を見下ろしていた。

 彼女は今、観光客向けの土産物コーナーでTシャツを選んでいる。


「あ、刹那ー! 凄いね、買い物って。買う、ってこういうのなんだ。このカードを見せれば、殴ったり脅したりしなくても、なんでも手に入るんだね!」

「あ、ああ。だからな、シルバー。服を……冬物や下着の替えとか、あとは少しは女の子だから洒落た服の一つや二つをだな」

「なんか、じんるいどーめー? ってのの人が、作業着とか軍服とかくれたよ? 着れればいいんだ、私。でも、温かい服は欲しいな、寒いとこに行ったら風邪引いちゃう」

「い、いや……その心配はないと、思うぞ。た、多分……いや、でも……そうだな! ああ、そうだ! とりあえず服を買うぞ! 荷物持ちトリオ、お前たちのもだ!」


 だが、シルバーはよほど買い物が楽しいのか、土産物コーナーから動く気配がない。そして足元には、なにやら怪しげな民芸品などを買った袋が置いてある。

 刹那に言われる前に、優が黙って荷物持ちの責務を果たそうとそれを拾った、その時だった。突然、シルバーの「ああーっ!」という声が響く。

 そして優は、奇妙な二人連れを見た。

 不思議な違和感……説明も表現もできないのに感じる、奇妙な感覚。


「それ、いいな。私、そういうのが欲しかったんだー」


 シルバーが指差す二人組は、うら若き少女と、その護衛らしき長身の青年だ。男の方に表情はまったくないが、蒼い長髪の少女は優雅に微笑んでいる。ここはドバイ、今や地球唯一の観光名所にして一大リゾート都市だ。彼女はきっとどこかのご令嬢かお姫様だろう。

 その少女の手に、二枚のTシャツが握られている。

 優が思わず「うへぇ」と声に出してしまうくらい、悪趣味なTシャツだ。


「まあ……貴女あなたもこちらの品をお求めですか?」

「うんー、だって格好いいじゃん。でも、いいんだ。早い者勝ちだもん」


 シルバーはそう行って笑うと、綺麗な銀髪をバリボリ掻きながら「同じようなのないかな」と、棚のTシャツを引っ掻き回し始めた。苦い顔で刹那が手で顔を覆う。

 だが、その時少女は、シルバーの前に購入予定のTシャツを差し出してきた。


「あの、もしよければ片方どうぞ。わたくしも気に入ったので、両方は差し上げられませんが」

「え? いいの? どっちも凄くいいのに」


 んな訳あるか、と優は心の中で突っ込んで、友人たちの顔を見る。自分と同じ表情で、篤名も流も雄斗もフラットな無表情になっていた。

 少女が両手にそれぞれ差し出すのは、胸にでっかく漢字が書いてあるTシャツだ。

 外国人にはやはり、漢字というオリエンタルな記号は格好良く見えるのだろう。

 だが、不思議と優の耳に少女のすずやかで穏やかな声が印象深く響く。


「では、。お好きな方を、選んでくださいな」


 そう言って少女は、つぼみがさやめくような笑顔を見せた。

 シルバーの顔がパッと明るくなる。


「いいの? え、どっちにしようかな。どっちもいいなあ。これ、なんて書いてあるんだろ。この絵、文字なんでしょ?」

「ええ。これは日本……『こちら』だと日本皇国の文字ですわ」


 少女は両方のTシャツを「こちらがサバで、こちらはカツオですの」と掲げて微笑む。優美なその笑顔に、シルバーの表情は一層明るくなった。

 因みに間違っている、優たちの目に見えるTシャツのプリントは、アジサケだ。読み方を間違っているが、ウフフと優雅に笑う少女は気付いていないらしい。


「ふむふむ、サバ! そして、カツオ! かっこいいなあ」

「どちらも鳥の名前ですわ」

「なるほどー! なんか、美味しそうだよね!」


 違う、間違ってる……もはや突っ込みが心の声を逸脱して口から出そうである。だが、優がぐっと我慢してると、シルバーは鮭の方を選んだ。

 そして、それを待っていたかのように、黒服に身を包んだ男が静かに喋る。


「キィ様、そろそろお時間です。パーティに遅れてしまいますので」

「あら、まあ……オルト、もうそんな時間なのですか?」

「お召し物の着替えもあります。お急ぎを」

「そうですか。ですが、とてもいい品が手に入りました。わたくし、これを着ますわ」

「……ドレスコードというのがあるのですが。先方と会場に確認を取ります」

「ありがとう、オルト。では皆さん、御機嫌よう。銀椀銀髪の方、カツオを選んだ方……大事に着てくださいね。ふふふ」


 だからカツオじゃなくて鮭だと、また優は突っ込みつつ……しずしずとお付きの黒服を従え去ってゆく少女の背を見送った。

 シルバーはレジに走るなりカードで買って、早速その場で着替えようとして止められていた。彼女がカツオを鳥だと信じて着ようとする中で、優はエレベーターへ消える先程の令嬢をいつまでも見送っていた。

 なぜか不機嫌になった篤名に、理不尽極まりなく脚を踏みにじられる優であった。。

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