第9話 世界の終り
机に向かいながら、多数の登場人物と対話する。みんなの意見を聞きながらそれらすべてを反映させるのは難しかった。だから僕は彼らの言っていることを無視して物語を進めることもあった。
そんな中で彼女はただの一度も自分の意見を言ったことがなかった。
「あなたが決めたことに私は従うわ」
彼女は僕がどんなに彼女にとって不幸になる物語を言って聞かせても何ひとつ文句を言わずに微笑んでいた。
「やめよう、こんな物語」と僕は言った。「どうして?」と彼女は言った。
「だって、馬鹿げてるよ、ありえない」
「そうかしら」
「どうして君は現実に存在しなかったんだい? もし存在してくれれば僕は小説を書く必要なんてなかったんだ」
「この世にいる私は私じゃないことをあなたが一番よく知っているはずよ、私は存在しないから私なの、もし存在してしまったらそれは私じゃない」
「じゃあ僕が小説を書く意味なんてあるのかい?」
「それはわからないわ、あなたがそれに意味があるかどうかを決めるのよ」
僕はつむっていた目を開いた。もう登場人物たちの声が聞こえない、つまり彼女の声も聞こえない。
僕は小説を書くのをやめよう、そう思った。
僕が小説を書こうと思ったワケ けんじろう @toyoken
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