4「チームバトル・スタート」
四月二八日。ゴールデンウィーク、連休前日の放課後。
マジシュー部の五人と、マジックシューターズ研究部の五人が、ハガーアミューズメントに集結していた。
お互いの代表――陸緒部長と愛海部長が向かい合う。
「いよいよ決着の日ね。楽しみにしていたわ。あなたの育てたチームに勝てるんだから」
「大した自信だな。戦う前からそんなことを言ってると、小物みたいだぞ」
「なっ……! このバカっ、ほんっとムカツクわね」
「愛海ちゃん。落ち着いて」
「だ、大丈夫です優羽さん。落ち着いてますから。……ところで、あの子はなんでクレープを食べてるの?」
愛海部長が指さしたのは、もちろんリーナだ。
好物のクレープをもぐもぐと食べていたリーナは、きょとんとしている。
「バトル前に余裕ね」
「あ、これですか? 大事なバトルだからこそ、大好きなものを食べてから挑むんです。ここのクレープ、とっても美味しいんですよ? 食べたことありますか?」
「い、いえ……ないわ」
「もったいない! バトル前に食べて、バトル後にも食べる! それが勝つための秘訣ですよ!」
「ま、リーナちゃんのルーティンみたいなもんだよな」
「……よくわからないけど、あなたたちが本気みたいで安心したわ。だけど」
愛海部長は真っ直ぐに、晃人たちを見る。
「勝つのは私たち研究部。『シルバーマジシャンズ』よ」
(シルバーマジシャンズ……。それが、研究部のチーム名か)
陸緒部長たちの『クリスタルマジシャンズ』と似ている。結成時に合わせたのかもしれない。
愛海部長はくるっと背を向けて、シルバーマジシャンズのメンバーを連れて筐体に向かう。
……が、一人、新太先輩が晃人に近付いてきた。
「よう。お前、コートだっけ?」
「はい。松行先輩」
「新太でいいぜ。……どうだ、ちっとは強くなったか?」
「もちろんですよ。二週間前――以前みたいな負け方は、もうしません!」
「へぇ、そいつは楽しみだ。がっかりさせんなよ?
それからデカイ声じゃ言えねぇが……お前ら、二本目で終わるんじゃねぇぞ。オレは三本目までガッチリ勝負したいんだ。頼むぜ」
二本目のバトルで負ければ、そこで勝負は終わりだ。だが……。
「当たり前です。二本目も三本目も、俺たちが勝ちますから」
「ハッハ! そうこなくっちゃな!」
「こら~新太君。後輩いじめちゃだめって、言われてるでしょ~」
「いじめてねぇって! 勝手に誤解すんな! 美月!」
戻って来た美月先輩に引っ張られていく、新太先輩。
新太先輩は晃人の方を見て、ギラギラした目つきで嗤っていた。
(……絶対に、新太先輩にも勝ってみせる)
*
『マジックシューターズ、バトルスタート!』
フィールドは一本目と同じ、放棄された市街地。三戦とも同じフィールドで勝負するルールだ。
ここ最近はもうずっとそうなのだが、ゲームに入った瞬間EVSが発現し、リアルに見えるようになっている。アヤメも同じだと言っていた。
開幕、前回と同じく中央の広場に向かう。まずは相手の前衛との攻防だ。初動で有利を取れるかどうかは、この先の展開を大きく左右する。
市街地を抜け、晃人たちが広場に出ると、正面向かい側からも二人の魔法使いが飛び出す。
「やっぱり二人だねー。マナミ部長とシンタ先輩かな。一本目と同じ作戦かも。後ろ、サオリちゃん来てるかな」
「陸緒部長の言う通りだったな。二本目は、一本目と同じ作戦で来る可能性が高いって」
「手堅い作戦だからね~。相手は奇をてらう必要がないんだよ。……というわけで、行くよ! コートくん、アヤメちゃん!!」
「任せて! 今回は前で暴れさせてもらうわよ!」
負けたこちらは、奇をてらう必要がある。
リンクフォーシューターズ側は前衛三人、奇襲無し。正面を数の有利で突破する作戦だ。
さっそく中央の川を挟んで、魔法の撃ち合い――ほぼ牽制――が始まる。
(顔が……見える! 右がマナミ部長、左がシンタ先輩。前回とまったく一緒だ)
コートたちはシンタ先輩を集中して狙っていく。
すると、マナミ部長の通常射撃が激化、そのタイミングでシンタ先輩が橋を渡ろうと詰めてくる。
「今! 避けて!」
リーナの合図で、コートとアヤメは左に、リーナ自身は右に大きく跳ぶ。
バシュッ!!
コートの居た場所に、黒いレーザーが突き刺さった。
ミツキ先輩のダークレーザーだ。
「あ、あぶなっ!」
「やっぱりコートくん狙ってきた!」
「確実に一枚落としに来たってところね」
「わかっちゃいたけど、俺、なめられてるなぁ!」
「ううん、違うよ。なめられたのはコートくんじゃない」
リーナは正面、マナミ部長をキッと睨む。
「マナミ部長一人で、わたしのこと抑えられるって判断されたんだよ」
「……じゃあその判断は間違いだって、教えてやらないとな!」
「うん! ふたりとも、お願い!」
「オッケー、任せなさい!」
コートとアヤメは橋に急行、シンタ先輩を迎え撃つ体勢を取る。
ミツキ先輩の狙撃は、魔力が回復するまで無い。今のうちに――。
「おっと、二人がかりか! 通してもらうぜ!」
シンタ先輩は広域通信で叫ぶと、炎の大剣を創り出し、そのまま突っ込んでくる。
「おらああぁぁぁっ!!」
ブンッと振り回された大剣を、後ろに跳んで避ける。
だけどこれは、目くらましだ。
ボンボンボンッ!
振り回したシンタ先輩の手から火の玉が三つ飛び出し、コートたちに襲いかかった。ホーミングファイヤー、走りながらすでにチャージしていたのだ。
コートとアヤメは左右に分かれて回避。シンタ先輩はコートに狙いを定めて、剣を振り上げ飛びかかろうとするが――。
「なっ、てめぇっ!」
その隙を突いて、後方から飛び出したリーナがシンタ先輩の脇をすり抜ける。
リーナは袂にいたマナミ部長を攻撃しながら、あっという間に橋を渡りきり、二人で撃ち合いを始めた。
シンタ先輩がリーナに気を取られている間に、コートとアヤメも橋の欄干にホーミングファイヤーをぶつけてやり過ごす。
「チッ、そういう作戦かよ。でもいいのか? ぶっちゃけ、一本目と同じだ。今頃後ろでサオリが奇襲かけてるぜ?」
「構いません! ここで先輩を抑えることができればいい!」
「あー、なるほどな! いいぜ、やれるもんならやってみろよ!」
シンタ先輩はフレイムソードを振り上げ直し、コートに斬りかかった。
◆
開幕、中央広場での攻防戦。
リーナとマナミは激しい撃ち合いを始め、広場を出て市街地に入ってしまう。
「マナミちゃ~ん、そっち行っちゃうと、あたしの射線通らないよ~」
「ごめん、こっちに連れて来られたわ。ミツキはシンタの方をお願い!」
「うん、わかったよ~。……ふふっ、やっぱり男の子の方かな~。シンタ君、早く動き止めてね?」
「わあってるよ! ちょっと待ってろ! くそっ、リフレクトレーザーってこんなウザかったか?」
シンタの方も、アヤメのリフレクトレーザーに翻弄されて攻めあぐねていた。
そして――。
◆
「この先輩、やるわねっ。あの猛攻をかわすなんて!」
「アヤメ、魔力が切れる前に、もう少し下がろう」
「わかってる、わよ!」
後ろに下がりながら、シンタ先輩の相手をするコートとアヤメ。
先日の一本目は、アヤメはEVSが発現したばかりで、いつもと違う視界に戸惑い、跳弾が上手く狙えなかったそうだ。けどこの二週間で感覚のズレを調整し、本来以上のパフォーマンスを発揮している。
橋の欄干を利用することで跳弾を活かし、かなり押していたのだが――シンタ先輩が被弾覚悟で強引に橋を渡り切り、障害物の少ない広場での戦闘になると、跳弾が活かせなくなった。
シンタ先輩は強いが、それでも2対1。膠着状態になる。
そろそろお互い魔力が無くなる頃だ。そうなる前になんとかしたかったが――。
「……コートくんっ! アヤメちゃん! こっちはそろそろ行けそうだよ!」
「了解。コート、頼んだわよ!」
「任せろっ」
アヤメが後ろに飛び、建物に身を隠す。カスタム魔法を多用するアヤメは、真っ先に魔力切れを起こしてしまう。
「お? 一人になったな、いただくぜ!」
シンタ先輩が強気に攻めてくる。コートはすぐ追い詰められ、拠点の塔に背中がぶつかった。
「――ハイウィング!」
アヤメが魔力切れなら、同じくらいカスタム魔法を多用するシンタ先輩も魔力切れのはず。
ホーミングファイヤーは来ないと踏んで、空に逃げる。すると――。
シンタ先輩が、ニヤリと笑い。
同時に、視界の端に黒い光が灯るのが見えた。
「っ! ウィンド!!」
闇色のレーザーが届く間際、コートは下にいるシンタ先輩目がけて魔法を連射する。
『敵プレイヤー:ミツキに プレイヤー:コートがやられました』
『プレイヤー:リーナが 敵プレイヤー:マナミを倒しました』
『敵プレイヤーに 一つ目の魔石を起動されました』
立て続けに三つのアナウンスが流れる。
コートはミツキ先輩の狙撃にやられて、儀式塔の裏に飛ばされてしまった。
「よっしゃ――ってマナミ、落とされたのかよ! ま、拠点取れたしな…………ん? 拠点に誰もいなかっただと?」
シンタ先輩が切り替え忘れているのか広域通信のまま喋っている。
やられる前に撃ったコートの魔法をかわしながら、僅かに首を傾げた。
そこへ、
キンッ!!
「おっと、どさくさに紛れて狙ってきやがったか!」
路地の奥からリフレクトレーザーが飛び出す。壁を上手く使い、シンタ先輩に直撃するコースだ。
シンタ先輩はそれも難なくかわすが――。
「あめーな、先輩!」
「――なにっ?!」
リフレクトレーザーは、目くらまし。
反対側から背後に忍び寄ったヨミが、炎のハルバード――ブレイズハルバードを振り回し、一閃。シンタ先輩の胴を切り裂いた。
「くっそ! おまえら後ろガラ空きにしてたのかよっ」
『プレイヤー:ヨミが 敵プレイヤー:シンタを倒しました』
「やったわね、作戦通り!」
「まーな。ほら、早く行け! 拠点取ってこい、アヤメ!」
「後ろは頼んだわよ、ヨミ! まだサオリがいるんだから!」
アヤメは路地から飛び出し、真っ直ぐに敵の拠点に走る。今ならまだ、ミツキ先輩の狙撃もない。マナミ部長を倒したリーナと一緒に攻めれば、確実に落とせるはずだ。
「さあてと、あとはここを絶対死守だな」
ヨミが魔石拠点、塔の裏側に回り込むと、すぐそこまでサオリが迫っていた。
もともと今回の作戦では、サオリの奇襲をスルーし、逆にサオリを浮かせることで、中央で有利を作り、相手のローテーションを崩すのが目的だった。
当然、後方の拠点は奪われ、サオリはそのまま広場側の拠点も奪いに来る。
それをヨミが迎え撃ち、その間にアヤメとリーナが攻め込む。
「ここでこの拠点取られたら、ヤバイんでな」
ヨミはそう言うと、後ろに右手を伸ばす。
「リング魔法――ストーンウォール!」
地面から巨大な石が隆起し、塔をぐるっと囲んでしまう。
効果は10秒間だが、それだけあれば十分だ。
サオリが一旦立ち止まり、右腕を伸ばす。
「時間稼ぎ、って思ったか? 10秒でお前を倒すって意味だよ!」
ヨミが踏み込んだ瞬間、サオリの手から赤いレーザー、ヒートレーザーが放たれる。
それを紙一重でかわし、そのまま一直線、サオリを強襲する。
サオリは通常射撃魔法に切り替え、近付けまいと牽制射撃をするが、ヨミは構わず突っ込む。二発被弾したが、ハルバードの届く距離まで詰め寄ることができた。
「もらった!」
ヨミはハルバードを振り回す。確実にサオリを捉えていた――が、空を切る。
「……残念」
サオリが広域通信でつぶやく。
移動速度アップ――カスタム魔法を発動し、後ろに飛び退いたのだ。
サオリはそのまま、武器を振り回して隙のできたヨミを狙う――と思ったが、反対、後方に腕を伸ばした。
「沖坂さん、来てるのわかってた」
復帰してすぐに駆けつけてきたコートを、サオリは首だけ動かして確認する。
そしてそのまま背中越しに狙いを付けようとするが、先にコートがほとんど狙いを付けずに魔法を撃ちだした。
「っ! これは……!」
コートが放ったのは、黒い泥の塊のような球状の魔法。大きさはバレーボールよりも少し大きいくらいで、弾速が遅く簡単に避けられるものだった。
だが、サオリは慌てて体勢を立て直し、大きく飛び退いて避けようとする。
「間に合わないっ……」
バンッ!!
塊は、サオリの目の前で弾け、無数の針と化して周囲に飛び散った。
「くっ……! やっぱり、ダークブラスター!」
ダークブラスター――。コートの新カスタム魔法。
魔力の塊を破裂させ、周囲に針を飛ばす。直撃しなくてもダメージを与えられるのだ。
サオリは針を避けきれず、かなりダメージを食らった。そこへ――。
「ストーン!」
「ウィンド!」
ヨミとコートによる、通常射撃魔法の挟撃。
サオリはたまらず――
「リング魔法、リングブリザード!」
「あっ、しまっ――!」
サオリが咄嗟に放った、攻撃タイプのリング魔法――正面にいくつも氷の槍を撃ち出す、貫通効果のある魔法がヨミを襲う。
『プレイヤー:ヨミが 敵プレイヤー:サオリを倒しました』
『敵プレイヤー:サオリに プレイヤー:ヨミがやられました』
結果、相打ち。
しかし拠点を守ることには成功した。
「――ま、想定内だ! コート、こっちは任せて前に出ろ!」
「あぁ! 行ってくる!」
『プレイヤー:リーナが 一つ目の魔石を起動しました』
「拠点取ったー! ミツキ先輩っ、拠点放棄して後ろに逃げたよー!」
「きっちりタレット魔法残していったけどね。大丈夫、無傷よ」
向こうもしっかり拠点を奪ってくれたようだ。
ストーンウォールが崩れるのを脇目に、コートは敵陣側へ急いだ。
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