もし魔王が可愛い女の子ならどうする?
ryunosuke
第1話 『魔王を倒しに行ったんですけど……』
見上げるほど大きくそびえ立つ巨大な門。
おぞましい
遠くから眺めると、薄っすらと悪魔の顔にも見える。
魔王の玉座は、この門の先だ。
「エルダー、ファスキン、ナーチャ、バック――、準備は……いいか?」
「当たり前だ。ここまでやってきたのだからな」
「そうだぜ。どんだけ苦労したと思ってんだ。さっさと終わらせようぜ」
「世界に祝福を――」
「ま、まおうは、お、お、おれだぁぁー」
俺たちは五人パーティーだ。
男四人と女一人。
俺はマサキ。一応リーダー。
特に変哲もない普通の勇者やっています。
パーティーの守護神、
俺とともに前線で戦う頼もしい男だ。
攻守ともに万能な魔法使い、ファスキン。
攻撃魔法と補助魔法を扱う有能な男だ。
だけど、チャラ男。
回復の要、ナーチャ。 パーティー唯一の紅一点。
ヒーラーはパーティーを組む時に欠かせない最重要ポジションだ。
だって、回復しないと死んじゃうからね。
その他、いい意味で雑用。悪く言えば、なぜパーティーにいるのか不明、それがバックだ。
性別が男だってこと以外、何も知らない。というか、関わりたくない。
パーティー全員と視線を合わせて覚悟を決める。
正直、ここまで長かったなぁ~。
散々な目に遭ったよ。
バックが何もされていないのに、混乱して斬りかかってきたり……。
バックが口笛吹いたら、ボスキャラ十匹まとめてでたり……。
バックが勝手に宝箱を開けたら、モンスターハウスに落下したり……。
バックがアイテムを間違えて使って全滅しかけたり……。
……んっ? 今思えば全部バックのせいじゃないか。
なんであんなやつパーティに入れたんだろう。
まぁ、いいか。今日で全て終わるんだしね。
想いに更けていた俺に、エルダーが声を掛ける。
「お主こそ心構えは良いのか、マサキ殿?」
「あぁ、行こうぜ。世界を救いに――!」
俺とエルダーで力一杯に扉をこじ開ける。
いざ、決戦の時!!
しかし、扉の先には驚きの光景が広がっていた。
――ちゃぶ台である。
門とは似つかない畳とふすま。古き良き日本の光景が広がっていた。
「お姉ちゃん、ごはん」
「わたし、お茶」
「私、醤油取って」
「はいはい、少しお待ちください」
えっ!? 普通に、朝ご飯食べてるけど……。
白飯とのりと目玉焼きとみそ汁。
ひい、ふう、みい、よう、いつ、むう、なな、やあ……。
なんか、たくさんいる。
子供が――。
あれ? 間違えたかな?
俺はもう一度門を見直すが、やはりおぞましい門がそびえ立っている。
「あ、あのすみません。ここって魔王の、玉座ですよね」
「あ、おはようございます。お客様でしたか。気が付かなくて申し訳ございません」
ほのぼのとした雰囲気の可愛い女の子が声を掛けてくれた。
可愛いらしい小動物。例えるならハムスターみたいな女の子が、扉までぴょこぴょことやってきた。
十四歳くらいの女の子は、淡い桃色の着物の
頭には白い
顔を上げた女の子は、
――とても可愛かった。
純粋無垢という言葉はこういう時に使うのだと、確信した。
白い三角巾に収まった艶のある黒い髪が可愛さ倍増。
長さは、少し耳がはみ出るショートカット。
瞳は真ん丸とした黒目だが、垂れた
見た目は幼いけれど、
「あ、あの、どのようなご用件でしょうか?」
「えっ!? お、おい! エルダー代わりに言ってくれ!」
急に振られたエルダーは口元と動作が合っていなかった。
「あ」、とか、「な」、とか、単語を繰り返すのみ。
ファスキンはいつの間にか、すっげぇー後ろに逃げてるし、バックには……任せられない。女のナーチャに言わせるなんて以ての外だ。
仕方ない。自分で言うか。
「俺たちは魔王を倒しに来たんですけど、ここであってますよね?」
「はい。ここが魔王の家ですが……私たち倒されるんですか?」
女の子は今にも泣きそうになっている。
これではまるで、俺が
皆を見るが、相変わらずそっぽを向いている。
「だ、大丈夫! 君にも、姉妹たちにも何もしないから、ね」
「そうですか。良かったです。ありがとうございます」
女の子はぺこりと小さな頭を下げる。
俺はすぐに皆を掻き集め、耳元で会議を開く。
「どうするよ。やっぱここだって……。ほかの小さい子供、姉妹なのかな?」
「幼子たちが朝食を
「なんか気が引けるぜ、帰ろうぜ?」
バック以外の男三人が
「でも、魔王を倒さないと平和が訪れないのよ!!」
それはそうだけどさ、この状況で手を出すの?
俺は心が痛む。悪人にはなりたくないよ~。
「おれはいくっぜ~イクゼェ~」
お前は黙っていろバック。
「あのお父さんとか、お母さんとか……できればお父さんがいいんだけど、いないの?」
「はい、父は数年前に勇者と名乗る者たちの手に掛かり……。母はその後、病気で亡くなりました」
「あ、あのすみませんでした。失礼なことを聞いてしまいまして……」
「いえいえ、気になさらないで下さい。もう何年も前の話ですから」
女の子は、また優しく微笑んでくれた。
思春期ほどの女の子に尋ねる内容としては、
ほかに年長者がいないか探すと、十八歳くらいの豊満ボディの金髪ギャルと、十六歳ぐらいの眼鏡をかけた三つ編みで知的そうな女子がいた。
俺はその二人を指差して伝えた。
「ごめんね。できればあちらのお姉さんのどちらかと、お話をしたいんだけど……」
女の子は不思議そうに振り返り、姉妹たちを見つめ、
「お姉さん? えーっと、私が長女で、一番年上ですが」
と、口を開いた。
『えっ!?』
パーティ全員の声が揃った。
だってそうだろう。十四歳ほどのハムスターみたいな女の子が、金髪ボンキュッボンのギャルよりも、知的そうに本を読んでいる女子よりも、年長?
クエスチョンしか浮かばない。
エルダーが真っ先に口を開いた。
「では、あなたはおいくつになられる?」
「二十歳です」
『二十歳!?』
再度、パーティ全員の声が揃う。
おいおい、マジかよ。二十歳って俺とタメかよ。
この子の成長はここで止まっているのか?
エルダーは「ほほうっ」と、自分の
ファスキンは、家の中のボンキュッボンが気になるようだ。
ナーチャは、急に目付きが変わって殺意が見える。
バックは……門に絵を描いてる。
確か、エルダーだけは三十五歳ぐらいだったはず。
ファスキンとナーチャは俺と同じく二十歳。
バックは――知らないな。まぁ、どうでもいいけどね。
「わかりました。では、あなたがここの……責任者? で、よろしいですね?」
「はい。私がこの家の魔王。名前はメルアと申します」
「えっ? あなたが魔王なの?」
「はい。父と母が亡くなり、私が家名を継ぎ、姉妹たちの面倒を
「あー、そうですか。ちょっと待っててもらえます?」
もう普通に家とか言っちゃってるし、この可愛いのが魔王なの?
何が何だがわからなくなってきた。
間違っていなければ、俺たちは世界を救う旅をしてきたわけだ。
長い旅だった――。一年以上の時間と命を懸けた旅。
それがなぜ、父と母を亡くした幼い姉妹を
確かに、魔王の城で戦うのだから罠とか、伏兵とか、そういったアウェーは想像していたよ。
でも、こういうアウェーは想定外だよ、外。
「みんな集合~」
「どうする、これ」
「嫌だよ、俺は。弱いものいじめじゃん、これ」
「その通りだ。我々は人間なのだ。その誇りを捨ててはいかんぞ」
ナーチャだけ「早くやっちゃいなさいよ」、「
こんなんだったっけ……。
何が彼女を変えたんだろう。
結論がでないまま、メルアの元に戻る。
「どうしましょうか、ね……」
「どう、と言われましても……」
気まずい雰囲気の中に、金髪ボンキュッボンがやってきた。
「姉貴、なにやってんだよ?」
「あ、ステファニーさん」
「なんだよこいつら?」
遠目からでも
まるで、スイカが二つあるようだ。
「俺の名はファスキン。君に会いに来たんだ」
「な、なんだこいつ?」
急に門ドンをしているファスキンに、
これだから男は! と
「姉貴、そろそろガキたちが学校に行く時間だぞ」
「もうそんな時間ですか。わかりました。今向かいます。申し訳ございませんが、明日でもよろしいですか? 明日は姉妹たちの学校もお休みですので」
『もちろん!』
男三人の声は
が、チッと舌打ちも聞こえる。
俺たちはナーチャとバックを連れて村に戻った。
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